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愛しい人を手に入れたい二人の話
初夜のための準備をする偽の王太子妃
しおりを挟む◆side:アベルシス
糞ったれな神殿での婚姻式が終わり、『妃を落ち着かせるために一度部屋に戻る』レイに抱きかかえられて自室に戻り、侍従も下がらせてレイと二人で今後の最終確認をする。
この後は、国民へのお披露目と晩餐会。
僕はその晩餐会を早めに切り上げて『初夜』の準備に入る。
「僕がいなくてもヘマしないでよ」
「俺を誰だと思ってる」
「へたれな王太子」
「……おい」
「正念場でしょ。僕も念入りにやるし。ここで失敗したら、全部水の泡だよ」
改めて冗談めかした態度を取り去って真面目にレイを見据えて言えば、レイも口を噤んで頷いた。
「…もし、僕たちが失敗しても、セレスには罪は及ばないけど、それでも、僕たちが傍からいなくなればきっとセレスは心を壊してしまう」
「そうだな」
「だから、絶対に、初夜が終わるまでは気を抜かないで。まあ、終わってからも気を抜くことなんてできないけどね」
「…セレスの前でだけ素でいられるのか」
「僕たちが選んだのは、そういう息苦しい生活だよ。…でも、セレスの手を離すことなんて考えられないし、僕たちが三人で過ごすためには必要なことだ」
何度も何度も繰り返し案を練った。
考えつく限りのことを想定した。
敵をだますためにはまず味方から――――とは言うけれど、セレスのあんな傷ついた顔はもう見たくない。けど、計画を伝えてしまったら、セレスは泣いて僕たちを止めようとするだろうし、万が一露見したときにセレスにまで罪が及んでしまう。
それは僕たちにとって不本意だ。
失敗は絶対にしない。何が何でも成功させてみせるけど。
そうじゃなきゃ、僕が自分の想いをセレスに伝えずに来た意味がなくなる。
セレスに心の底から僕を想ってもらいたい。
自分の想いを自覚したセレスの下腹に咲く花を、この目で見たいから。
きっと、綺麗な花が咲く。
僕たちが想像もしなかったような花が、きっと。
晩餐会ではずっとレイの腕にしがみつき、少し怯えた王太子妃を演じていた。
ニタニタと笑って僕を見てくる貴族たちの目は、婚姻式で見た僕の体を映しているのか、酷くいやらしく普通に背筋がぞっとした。
腐ってない貴族はいないのかな。
自分の親でさえ信用できなくなる。
公爵家だよね?なんで苦言の一つも言わないのだろう。なんで言いたい放題言わせているんだろう。…まさか、息子の痴態を見たいとか言わないよね?
それほど遠くはない場所に、僕の両親がいた。
他の貴族から言祝ぎを貰っているのか、父上は口元に薄っすら笑みを浮かべてはいるけれど、若干顔色はよくない。母上なんて完全に目を伏せている。
……ああ、よかった。
王族のしきたりを知っているからこそ、僕には言えなかったのか。別に、僕のことがどうでもいいわけじゃないんだな。
……なんか、ほっとした。
何か意見があったとしても、王族に意見するなどできないだろうし。
疑ってごめんなさい。父上、母上。
「王太子妃様、そろそろ」
と、付き添いに来ていた侍従が僕とレイに声をかけてきた。
僕とレイは視線だけで頷きあい、僕はみんなに退室する旨を伝えて侍従の後について会場を出た。
向かうのは僕の部屋だ。
部屋の中には数人の世話係が待機していた。
「王太子妃様、湯あみを」
「…あの」
「体の隅々を綺麗にいたしましょう。そのあとは全身に入念に香油を――――」
「……あの、ごめんなさい。…その、準備も、私一人でやりますから」
「いけません。それは私どもの仕事です」
「……お願いします。殿下ではない方に肌を見られるのは――――もう、嫌なんです。恥ずかしい……っ」
うるっと涙目で世話係に目を向けると、世話係たちは何かを察してくれたらしく、労し気な瞳になって頷いた。
「わかりました。王太子妃様。香油などは浴室に準備してあります。夜着と、羽織も用意がありますので」
「ありがとうございます」
「……いえ」
世話係の視線はすっと下を向いた。
彼らは花籠持ちだ。
きっと、婚姻式で僕がどんな目に合ったのかを知っていて、僕に同情を向けてくれているのだろう。
騙してごめんね、と心の中で謝りつつ、僕は浴室に向かった。
棚の奥に隠しておいた張型と浄化剤と香油も手に取った。
洗面台の近くには夜着が置かれていて、それを手に取って広げてみたけれど、いやぁ、可愛い可愛いすけすけのもので、夜着というかすでに下着。誰の趣味なんだろう。セレスなら可愛いし、似合うのに。
一応すけ具合を確認した。張型の取っ手部分が透けて見えるのはまずい。
ショーツには布面積を少ないけれど、尻の方にも布があった。指をあててもそれほど色濃く透ける感じはない。
ついでに羽織も確認したけれど、バスローブみたいなもので、これなら移動中に露見することはなさそうだと安心した。
初夜にむけて僕がやることは多い。
今までしっかり拡張してきたし、前立腺の開発もしてきた。
シャワーを流して、浄化剤を入れて指でかき混ぜる。それから、若干の媚薬の入った特製の香油を半分尻の中にいれて、僕の指が四本入るまでとにかく解す。毎日いじっているから、それほど時間はかからない。かかりすぎると、流石に世話係たちが入ってくるとも限らないから、手早く。
解れたら、そこに残りの香油をいれて、すぐに張型で栓をする。できるだけ奥まで。取っ手部分が張り出さないように。
改めて息をついて、髪を丁寧に洗い、体を洗い、鏡を見ながら余計な毛の処理もする。用意されていた香油を使い体をもみほぐしていく。
乾かすのは魔力でいいや。
さらさらになった髪を耳にかけて、夜着を身に着けた。
乳首の色も見えるし、臍の形もわかる。シャワーを使って体があったまった分、『花籠』の色味が若干赤くなっていて、それも透けて見えていた。
初夜が始まるまでに通常の色に戻るだろう。
僕は最後に羽織を着て、浴室を出た。
それからは、髪をいじられ、花が飾られ、侍従に案内される形でレイの部屋に案内される。
ちらちらと僕を見る視線。
警備に立っている騎士たちからの視線。
……ちゃんと仕事してほしいもんだ。
レイの部屋について、侍従がドアをノックした。
本来であれば中からの返答を待つのだけど、いきなりドアが開いて少し驚いた。
「待っていたよ、アベル」
ドアを開けたのは誰でもないレイ自身。
侍従は何かを言うことはせず、深々と頭を下げた。
レイは僕の腰に手を回し、室内へと導き、ドアを閉めた。
そして奥の寝室に入り、ベッドに腰かける。
「………セレスは?」
隠し扉が僅かに開いていた。
「眠っていた」
「そっか」
顔が見たい……けど、もう少しの我慢。
ずっと隠し扉の方を見ていた僕の前に、レイがす…っと小瓶を出してきた。
「媚薬」
「ん」
綺麗な細工の小瓶を、僕は明かりにすかしながら眺めた。
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