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 それから、キリル様は私を抱えているとは思えないくらい速やかに廊下を走った。

 遠くからは、女王様の奇声が聞こえて、執事たちが追ってきたけれど、ほとんど距離は縮まらなかった。

 王宮の外に出ると、門の外には馬車が横付けされていて、キリル様は腕から私を降ろし、

「さっ、行こう」

 と言って、馬車に乗るのに手を差し伸べてくれた。
 急展開過ぎて困惑したし、長年お仕えした王宮を離れるのはとても抵抗があり、後ろ髪が引かれる想いだったけれど、私はその手を取るのはスリルとワクワクがあった。

 その手を取ると、キリル様に引っ張られて私は勢い余ってキリル様の胸に飛びつく形になってしまった。

「ごめんなさいっ」

「大丈夫、出してください」

 キリル様が運転手に声を掛けると、馬車が動き出した。揺れたので思わず再びキリル様にしがみついてしまった。

「キミの意見も聞かずに行動してしまった、ボクをどうか許して欲しい」

「そんな・・・頭を上げてくださいっ。キリル様がなさったということは、これが私にとって正解な・・・・・・はずです」

 冷静に思い返してみよう。
 女王様は最後、どこをどう怒られたのか分からないけれど、息子のことを取られると思った時の表情はオーガのように怖かった。そして、女王様の執念深さは有名で、女王様も身分としては平民だったが、国王を口説き落としたのも執念の勝利と言われるくらいだ。処刑するとまで言われたのだから、あの場で笑顔で返されても、部下に命じて暗闇に乗じて殺されたに違いない。

(そうよ、キリル様に連れて行って貰えたのはとても幸運なことよ、うん)

 頭で整理したけれど、心はまだフワフワした感じで、足も馬車の床に付いているはずなのに力が入らなくて浮いているみたいだ。

「あの、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか」」

「あぁ、もちろんだとも」

「十分な距離を稼いでいただいたので、ここで降ろしていただいてもいいですか?」

「・・・・・・」

 私がそう言うと、とても悲しそうな顔をするキリル様。

「あぁ、すいません。私のせいでキリル様のお立場が大変悪くなってしまって感謝しております。ですが、傷は浅いうちにとでもいいましょうか。私が恩知らずで連れて行ったけれど逃げ出してしまったと、私を悪女にして、キリル様はお戻りになられた方がよろしいかと思います」

「キミは・・・・・・殺されそうになったんだよ?」

「ええ、そうみたいですね。でも、私のことはいいんです」

「ふっ・・・・・・ふはっはっはっはっ」

 キリル様は柄にもなく、高笑いされた。

「あの・・・・・・どうされ・・・・・・」

「ボクが、キミのために? 違うね。これはボクが仕組んだことで、ボクのためにやったことさ」
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