【完結】アンラッキー・アンハッピー

西東友一

文字の大きさ
1 / 7

第1話アンラッキー&アンハッピー

しおりを挟む
「あっ、当たった」
 私、春原杏はラッキーだ。

「あっ、痛っ!!」
 安藤拓未、あいつはいつもアンラッキーだ。

 新学期が始まり、少しは暖かくなったが長野は冬の名残で未だに寒く乾燥している。
 私は高校生活2回目の春を感じながら、通学路を歩いたが喉が渇いたので、暖かいものを飲もうと自販機でホットレモンティーを選んだ。
 ボタンを押すと、小銭入れの付近にあった電光掲示のルーレットが回りだし、7がピタッ、ピタッと4つ揃った。
 私の当然のように呟いた声を覆うような拓未の声が聞こえ。私は水を差された気分になり、ため息をつきながら横を見ると、同級生の拓未が自転車の少女にぶつけられたようだ。

「大丈夫ですか⁉すいません‼」
 少し大きめ制服を着ている彼女は1年生かな?
 全く、初登校で拓未にぶつかるなんて、ツイてない子。顔が真っ青だ。

「はははっ。大丈夫よ。貴方のせいじゃないわ。こいつ、もの凄いどんくさいやつだからよくあるの。だから気にしないで」
 彼女は第三者である私の発言に困惑しているようだったが、そんなことを気にもせず、私は自販機のジュースを取り、もう1本選ぶ。
「ど・れ・に・し・よっかな、っと」

「でっでも…」
「だいじょーぶ!!逆にごめんね!!俺の中にある因果律に巻き込んじゃって」
 拓未は立ち上がり、元気いっぱいに声を出す。
「はっはい…」
 声がうるさい。

 そして、場を和ませようとした言葉のチョイスなのだろうが、彼女にはその意図は伝わらなかったようだ。困惑している。

「ねっ?気にしない方がいいでしょ?」
 彼女の高校生活がこんなおかしな始まり方をするのもかわいそう。彼女が気持ちよいリスタートを進めるように、手にした紅茶を彼女に向かって下手投げで投げた。

「えっ、いいです、いいです」
 彼女は宝石を貰ってしまった町娘のように恐れ多い顔をして、両手の上に缶を乗せている。
「じゃあ、あ~げない」
 私は近づいていき、紅茶を奪い返すと、彼女は残念そうな顔をする。
「ほら、欲しいんじゃん。はい」
「すいませ…」
 彼女の手が空振りするように私は手を引く。

「そ・こ・は~ありがとうでしょ」
「あっありがとうございます!」
 そう言って、お茶を笑顔でもらい、自転車のところまで行ってまた深々と頭を下げる。手を振ってあげると、ペコペコしながら、自転車に乗りながら学校へ向かっていく。

「さて…」
「いてっ」
 とりあえず、拓未を蹴っておこうか。
「いや、蹴ってるでしょ」
「えっ?」
「今、絶対、心の中で蹴った後で蹴っておこうかとか思ったでしょ?頭が考える前に人を蹴るなんて悪行を体が犯してたよ?」
「ハハハっ、まさかそんなことあるわけ、ナイヨー」
「なに、その棒読み。図星でしょ!?」

 ぽとっ。

「ん?」
 拓未が私に触れてこようとしたので、軽く後ろにジャンプしてよけると、よろけて前に出てきた拓未の腕に鳥がフンを落とした。

「なんでやねん‼」
「はははっ。まじで、汚っ。あんたほんとに、ツイてないわねっ」
 面白すぎて、息が上手く吸えない。
「なんだと~‼んっ、でもおれはツイている‼『うん』が‼これは幸運の象徴‼」
「なわけないっしょっ」
 拓未は本当にツイてない。今はツイてるかもしれないけど。

「いや、俺は付いている‼俺には二人の女神が付いている‼」
 必死に笑われるのを抑えたいのか、真顔で言っているが、笑いが止まらない。
「一人は空から『うん』を持ってきた。あの鳥は彼女の使いだろう。そして…、ここにも地上に降りた女神が。こんなにも俺に笑顔を振りまいてくれる女神…が」

「せい‼」
 拓未はチョップをしてくる。
「いい加減に笑うのは止めなさい。てかやめてくださいです、はい…」
 私が睨むと、拓未は途中から弱々しくなる。少し涙目だ。

「遅刻するから、早く学校行くよ、バーカ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

処理中です...