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第7話アンラッキー・アンハッピー
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私、春原杏は全ての運を使ってしまったようだ。
「あっ、雨だ」
今日は公園で散歩しようと思っていたけど残念。
この頃、計画したことがだめになることが多い。
これも運が無くなった反動?
「げっ、雨じゃんーかよ」
「天気予報は晴れだったのに、マジかよ。傘ねーし」
男子達がどうするか話をして、鞄を頭の上に掲げて、走って行く。
運があることに慣れていた私にとっては、物凄い不幸に感じたけれど、雨は平等だ。
運に負けてたまるか。
「じゃーん、折り畳みが~さ~」
手術が終わると拓未が色々話してくれた。
私が幸運だったのは、拓未が幸運の女神から授かった運を全て私に渡していたこと、手術に関しては助けてくれたかもしれないが、これからは拓未にも私にも人並み以上の運を与えないことも。
なので、私は運に打ち勝つべく、今回のように事前準備を心掛けてきた。
「ふふっ」
そんな、不確かな存在から勝手に与えられていた不確かなものに頼るよりも、自分の努力でどうにかできる「今の人生」の方が断然いい。
「あっ…」
傘をさすと、穴が開いていた。
「え~、ずるでしょ!!」
私は天を睨む。私の努力を上回る不幸が私に降りかかることもあると、どうしても『その存在』を恨みたくなる。
「あ~あ、どうしようかな」
ちょっと、穴が広すぎて、傘を差してもびしょ濡れになってしまいそうだ。今度は地面を見ながら悩んでしまう。
人事を尽くして、天命に振られた。
どうしようか?
雨があがるのを待つにしても、当分は止みそうもない。こんなにも止みそうもない雨を、天気予報士はなぜわからないのよ。
「くっ…心が折れそう…」
ときどきある。運がないというより、不幸を与えられていると感じるときが。思いたくはないけど、誰かに意地悪されているような感覚が。
「折り畳み傘の確認も毎日しなきゃいけないってことなの?」
辛い。さすがにそれは無理だ。
途方に暮れてしまう。
「おっ、雨か」
私が俯いていると、後ろから聞きなれた声がした。
振り向くと、拓未がいた。
「よぉ。暗い顔してどうした?傘でも忘れたか」
「いや、傘はあるんだけどね…」
私は拓未に持っている折り畳み傘の見せる。
「ツイてないな、お前」
「最悪でしょ、これ」
「じゃあ、行こうか」
「だから、傘が…」
肩をぐっと寄せられる。
「一緒に帰ろうぜ」
拓未が差した傘に入れられて二人で学校を後にする。
「…なんか、嫌だ」
「なんでだよ。その傘だと濡れちゃうぞ」
「恥ずかしい」
目を合わすことができない。ぶっきらぼうに言ってしまう。
「まぁ、水も滴る杏も捨てがたいけどな。ははっ」
「…ばか」
少し沈黙になる。
「この頃さ…」
拓未が話しかけてくる。
「うん」
「あんまり、俺たち話をしていないな」
「そう?」
「あぁ…」
拓未は小石を蹴る。
「どうやって杏に話しかけていいのか、何を話していいのかわからなかった」
「そう」
「この頃どうだ?」
「どうって?」
「その…不幸なことは起きてないか…?」
拓未は下を向き、こちらを見ないが声は心配そうな顔をしている。
「帰ろうとしているところに雨が降ったり、折り畳み傘に穴が開いていたり…そんな感じだよ」
「そうか…」
拓未は悲しそうな顔をする。
「でも…」
私の声に今度は拓未はこちらを目だけで見る。
「でも、私は拓未に出会った。そして、今一緒にいる…。それって、不幸かな?」
「…それは杏が決めることだ」
「…そうね」
目を閉じて、自分に問う。
自分の人生を振り返る。
そして、拓未と会ってからのことを想い返す。
「やっぱり、アンラッキーで、アンハッピーね」
「そうか…」
拓未は寂しそうに目を閉じる。
「そうよ。出会ってから起きた良かったこと、出会ってから起きた悪いこと。どっちが多いかで比べてみて、悪かったことの方が多い気がする。細かく考えたらあなたといることは不運なのかもしれない」
分析したことを冷静に話そうとする。けれど、心の奥から何かが混みあがってくる。
抑えきれない。
「そう、細かく考えたら…私はあなたといると運がないの、アンラッキーなの。でもさ、運がないなら、ウンを取っちゃえばいいんだよ」
あんまり、考えがまとまらない。でも、伝えたい。いいや、思ったことをそのままぶつけよう、拓未に。
「UN(うん)がないアンハッピーはハッピーでしょ。だから、この私のアンハッピーのスペルはAnn happyなの。細かいことなんてどうでもいいの。そう、大雑把に、気持ちに、素直になれば…私は、拓未がいれば…杏はハッピーなの」
拓未のことが好きだ。
でも、こいつに弱いところ、少し潤んだ瞳を見せたくない…悔しいから。私は傘を持っている拓未の腕を引っ張って顔を隠す。
「杏」
「…何?」
「俺は…お前に出会えて、最高に幸せだ!!」
Unlucky Ann happy , Ando very happy Because…
「だから、これからも俺の傍に居てくれ」
隠しきれない。涙はあふれ出てしまった。鼻をすする。
「…仕方ないな」
彼は私にもう、運を運んではくれない。
そして、私はもう運がない。
どちらかと言えば、不運な人間になってしまったみたいだ。
運が悪いと、世界に嫌われている気分になるときもある。生きているのも嫌になるときもある。
私は諦めたくない。
天を睨んで生きてやる。運なんてものに頼らず、自分の力で生きてやる。
でも、私の不運は自分の力だけじゃどうにもならないくらいツイてないようだ。
「でもさ、Ann happyってisが足りなくないか」
「だから、細かいこと言ってないで、ちゃんと傘差して歩いて」
「ほーい」
拓未はにやっとしながら、
「俺の救いの女神様の仰せのままに」
一緒に歩いてくれる人がいる。その人は私を支えて、そして必要としてくれる。私はこの縁を大事にしたい。一人でいたら、アンハッピーでも、この人といれば、私はハッピーなのだから。
「あっ、雨だ」
今日は公園で散歩しようと思っていたけど残念。
この頃、計画したことがだめになることが多い。
これも運が無くなった反動?
「げっ、雨じゃんーかよ」
「天気予報は晴れだったのに、マジかよ。傘ねーし」
男子達がどうするか話をして、鞄を頭の上に掲げて、走って行く。
運があることに慣れていた私にとっては、物凄い不幸に感じたけれど、雨は平等だ。
運に負けてたまるか。
「じゃーん、折り畳みが~さ~」
手術が終わると拓未が色々話してくれた。
私が幸運だったのは、拓未が幸運の女神から授かった運を全て私に渡していたこと、手術に関しては助けてくれたかもしれないが、これからは拓未にも私にも人並み以上の運を与えないことも。
なので、私は運に打ち勝つべく、今回のように事前準備を心掛けてきた。
「ふふっ」
そんな、不確かな存在から勝手に与えられていた不確かなものに頼るよりも、自分の努力でどうにかできる「今の人生」の方が断然いい。
「あっ…」
傘をさすと、穴が開いていた。
「え~、ずるでしょ!!」
私は天を睨む。私の努力を上回る不幸が私に降りかかることもあると、どうしても『その存在』を恨みたくなる。
「あ~あ、どうしようかな」
ちょっと、穴が広すぎて、傘を差してもびしょ濡れになってしまいそうだ。今度は地面を見ながら悩んでしまう。
人事を尽くして、天命に振られた。
どうしようか?
雨があがるのを待つにしても、当分は止みそうもない。こんなにも止みそうもない雨を、天気予報士はなぜわからないのよ。
「くっ…心が折れそう…」
ときどきある。運がないというより、不幸を与えられていると感じるときが。思いたくはないけど、誰かに意地悪されているような感覚が。
「折り畳み傘の確認も毎日しなきゃいけないってことなの?」
辛い。さすがにそれは無理だ。
途方に暮れてしまう。
「おっ、雨か」
私が俯いていると、後ろから聞きなれた声がした。
振り向くと、拓未がいた。
「よぉ。暗い顔してどうした?傘でも忘れたか」
「いや、傘はあるんだけどね…」
私は拓未に持っている折り畳み傘の見せる。
「ツイてないな、お前」
「最悪でしょ、これ」
「じゃあ、行こうか」
「だから、傘が…」
肩をぐっと寄せられる。
「一緒に帰ろうぜ」
拓未が差した傘に入れられて二人で学校を後にする。
「…なんか、嫌だ」
「なんでだよ。その傘だと濡れちゃうぞ」
「恥ずかしい」
目を合わすことができない。ぶっきらぼうに言ってしまう。
「まぁ、水も滴る杏も捨てがたいけどな。ははっ」
「…ばか」
少し沈黙になる。
「この頃さ…」
拓未が話しかけてくる。
「うん」
「あんまり、俺たち話をしていないな」
「そう?」
「あぁ…」
拓未は小石を蹴る。
「どうやって杏に話しかけていいのか、何を話していいのかわからなかった」
「そう」
「この頃どうだ?」
「どうって?」
「その…不幸なことは起きてないか…?」
拓未は下を向き、こちらを見ないが声は心配そうな顔をしている。
「帰ろうとしているところに雨が降ったり、折り畳み傘に穴が開いていたり…そんな感じだよ」
「そうか…」
拓未は悲しそうな顔をする。
「でも…」
私の声に今度は拓未はこちらを目だけで見る。
「でも、私は拓未に出会った。そして、今一緒にいる…。それって、不幸かな?」
「…それは杏が決めることだ」
「…そうね」
目を閉じて、自分に問う。
自分の人生を振り返る。
そして、拓未と会ってからのことを想い返す。
「やっぱり、アンラッキーで、アンハッピーね」
「そうか…」
拓未は寂しそうに目を閉じる。
「そうよ。出会ってから起きた良かったこと、出会ってから起きた悪いこと。どっちが多いかで比べてみて、悪かったことの方が多い気がする。細かく考えたらあなたといることは不運なのかもしれない」
分析したことを冷静に話そうとする。けれど、心の奥から何かが混みあがってくる。
抑えきれない。
「そう、細かく考えたら…私はあなたといると運がないの、アンラッキーなの。でもさ、運がないなら、ウンを取っちゃえばいいんだよ」
あんまり、考えがまとまらない。でも、伝えたい。いいや、思ったことをそのままぶつけよう、拓未に。
「UN(うん)がないアンハッピーはハッピーでしょ。だから、この私のアンハッピーのスペルはAnn happyなの。細かいことなんてどうでもいいの。そう、大雑把に、気持ちに、素直になれば…私は、拓未がいれば…杏はハッピーなの」
拓未のことが好きだ。
でも、こいつに弱いところ、少し潤んだ瞳を見せたくない…悔しいから。私は傘を持っている拓未の腕を引っ張って顔を隠す。
「杏」
「…何?」
「俺は…お前に出会えて、最高に幸せだ!!」
Unlucky Ann happy , Ando very happy Because…
「だから、これからも俺の傍に居てくれ」
隠しきれない。涙はあふれ出てしまった。鼻をすする。
「…仕方ないな」
彼は私にもう、運を運んではくれない。
そして、私はもう運がない。
どちらかと言えば、不運な人間になってしまったみたいだ。
運が悪いと、世界に嫌われている気分になるときもある。生きているのも嫌になるときもある。
私は諦めたくない。
天を睨んで生きてやる。運なんてものに頼らず、自分の力で生きてやる。
でも、私の不運は自分の力だけじゃどうにもならないくらいツイてないようだ。
「でもさ、Ann happyってisが足りなくないか」
「だから、細かいこと言ってないで、ちゃんと傘差して歩いて」
「ほーい」
拓未はにやっとしながら、
「俺の救いの女神様の仰せのままに」
一緒に歩いてくれる人がいる。その人は私を支えて、そして必要としてくれる。私はこの縁を大事にしたい。一人でいたら、アンハッピーでも、この人といれば、私はハッピーなのだから。
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