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 私は掲載されていた電話番号に早速電話してみる。

「はい、アムール・ド・リスです」

 8コールくらいしてようやく聞き覚えのあるミナトさんの声が聞こえた。

「あっ、あの予約をしたいんですけど、今日は空いていますか?」

「お客様…もうしわけございません。予約は半年埋まっております。それ以降でしたら承っております。いかがでしょうか」

(恥ずかしいっ)

 非常識なことを言ってしまったと恥ずかしくなる。けれど、せめてもの救いはミナトさんの対応の仕方は一流の接客マンのようで、とても優しい口調で、都合が会えばぜひ来てくださいねというような言い方だったので、私のような無知な客でも行っていいんだと安心した。

「すいません。色々無知で。ぜひ行きたいと思ったんですが、予定を確認してまた連絡させていただきます。それでは…」

「ちょっと待ってっ!!」

 私が電話を切ろうとすると、ミナトさんが素の声で呼び留めて来た。

「あっ、すいません。違ったら大変恐縮なのですが……ユリさんですか」

 彼の口から私の名前を言われてドキっとした。ラ・フランチェスカでお会いした時は名字で呼ばれていたのに、下の名前で呼ばれるとは思わなかった。

「そうですっ、覚えてくれたんですね。嬉しいっ」

 私は照れつつも、率直な気持ちを伝える。

「私も嬉しいです。今一度お断りさせていただきましたが、ご予約はお二人でしたか?」

「えっ、いや……一人です」

 ちょっと、気まずい気持ちになる。まぁ、フランス料理のテーブルをイメージすると、カウンターなんてないだろうから、当然二人以上で来てほしいだろうし、こうやって聞かれると言うことは予約はいっぱいなのに席を作ってくれようとしているのかもしれないし、それに…相手はカケルだと思っていそうだし……。

「あの、やっぱり…」

「ごめんなさい、失礼な聞き方をしてしまい申し訳ございません。お詫びに本日、ぜひお店に来ていただきたいのですが、いかがですか?」

「えっ?」

「最高の料理でおもてなしさせていただきたいと思っています」

 ちょっと意外だった。
 誠実で優しい人だと思っていたけれど、ユニークな面もお持ちのようだ。
 口調は柔らかくほっとさせるような声がスマホ越しに私の耳元で聞こえる。

「じゃあ……甘えてもいいですか?」

「ぜひ」

 私とミナトさんは時間を調整して、夕方から18時からアムール・ド・リスに来店することになった。

「楽しみにしていますね」

 私はミナトさんにそう伝える。

「私も、楽しみです」

 料理も楽しみだけれど、ミナトさんに会えるのも楽しみになった。
 まぁ、名前も忘れてたのは絶対内緒だけどね。

 

 
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