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「じゃあ、家から出ていきます。お世話になりました」

 私は深々と頭を下げて、結婚しようとしていた彼、クオンの手を引っ張ろうとする。
 しかし、彼は微動だにしなかった。

「クオン、どうしたの?」

 私がクオンに尋ねると、クオンは小さな声で「ごめんね」と私に申し訳なさそうな顔をした後、お父様を睨みつける。

「ちょっとよろしいですか」

 クオンの綺麗な声に怒りが混ざっていた。

「なんだ、ゴミが。黙れ、お前に発言など許すわけがないだろう」

 お父様は汚らわしいものを見るような目でクオンを見る。

(これはやばいっ)

 私はお父様を注意しようと、一歩前に出ようとするけれど、クオンに止められる。

「では、無礼を承知で勝手に話をさせていただきますが・・・」

「なっ」

 黙れと言った相手が喋るのを、お父様は口をぽかんと開けたままで驚いている。

「彼女は優秀だと思いますよ、この場にいる誰よりも・・・」

 色々言うつもりだったみたいだったクオンだったけれど、私の顔が青ざめているのに気づいて、それだけで済ませてくれたようだ。

(って、クオン。あなたの方が優秀でしょうが)

 私は服の袖を引っ張ると、私には笑顔を返してくれるクオン。その笑顔を見て、そんなに怒っていない様子なのでひとまずほっとした。

「では、失礼します」

 クオンが頭を下げて、私たちは扉の方へ向かおうとすると、

「待てっ、家を出るなんてダメに決まっているだろうが。エカチュリーナを渡さねばこの家は・・・」

 私は言うのを躊躇っているお父様の心を、つい最近神から授かった神眼を使って覗く。

「な・・・お父様・・・っ。ヴァルド公爵と共に二重課税・・・それと罪を他の無実な貴族になすりつけていたなんて・・・」

 私は吐きそうになり、口を手で覆う。

「エカチュリーナっ、なっ、なぜおまえがそのことを知っているんだ?」

 私が言うと、お父様は青ざめて狼狽し、妹のリーウェンは怪訝な顔で私を見ていたが、私の顔を見て嘘でないことを確認し、今度はお父様の顔を睨んだ。

「お父様、それは法律を犯しています。いくらリーウェンを王子に嫁がせたとしても、罪は消えませんし、重税をかけられた民衆は黙っていませんよ」

「お父様、どういうことよっ!?」

 リーウェンが苛立ちをぶつける。さすがのリーウェンですら、王子にそのことがバレたら、自分の立場が危うくなるのをわかったようだ。

「いっ、いや、それは、その・・・あの・・・えーっと」

 パーティー会場でよく見たことがあるお父様の態度。
 難しい話に付いて行けず、周りの貴族たちが呆れてしまうようなしどろもどろな態度。
 私もそして、リーウェンも嫌悪で何も言えなくなった。
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