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人面豚の洗脳
眞鍋星一郎による豚小屋の調査
しおりを挟む「ここか……」
話で聞いていた通り、豚小屋の外観はボロボロで手入れがされている様子は皆無だった。
ただ、立てかけられた『餌やり体験』の看板だけは真新しい。他のコーナーのものを使い回したようにも見えるが、配置方法も雑な為、ただそこに置いてあるだけなのかもしれない。
『○○市わくわくふぁーむ』
私が実際にここへ訪れたのはレポートの制作を終えた後であった。
本来であれば調査を終えた後にレポート制作に移るのだが、今回は順序が逆転してしまった。
仕方がない。それが秋寺の要望なのだから。
今回掲載掲載予定の異常姦『豚人間』の体験者こと秋寺誠は私の大学時代の友人だ。
当時は同じ写真サークルに所属しており、よく行動を共にしていた。
卒業後も度々顔を合わせていて、彼の妻である沙織とも面識があった。
その秋寺沙織の失踪を聞いた時、私は酷く動揺した。
私が秋寺の元へ駆けつけるとそこには以前となんら変わりない様子の秋寺が居た。
秋寺は「久しぶり」と言って私を迎え入れた。特段何かおかしい訳でも無く、その様子は普通そのものだった。
思ったより平気そうだ。
そう一瞬でも安心した私が愚かだった。
二人が良好な夫婦関係であった事は私が良く知っている。秋寺は妻を愛していた。平気である筈が無いのだ。本来であれば悲しみに暮れている所だろう。
秋寺の性格であればショックで寝込むか反対に不眠症になっていてもおかしくは無い。
そう言った意味では今の秋寺は正しく様子がおかしかった。
職業柄情報収集には自信があった私は何か力になれないかと秋寺に詰め寄った。
しかし秋寺は大した事は何も無いと一蹴してしまった。
失踪について話す秋寺の態度はあっけらかんとしていて、まるで他人事の様であった。挙げ句の果てに話題が二転三転し、殆ど世間話のようになってしまった。
私は終始拭いきれない違和感を感じていた。
次に秋寺とはそれ以降、会う事がなかったが、つい最近になって突然秋寺の方から私を訪ねて来た。
秋寺は酷く怯えた様子だった。青ざめた顔で私に詰め寄り話を聞いて欲しいと懇願して来たのだ。
私は一目でただ事では無いと分かった。
そして秋寺が話した内容こそがあの『人面豚』であった。
話を聞いた時、背筋に怖気が走った。そして私は感じていた違和感の正体を知った。
妻の失踪に対する異様な素っ気なさは『人面豚』による影響だったのだ。
オカルト雑誌を扱う手前、奇妙な体験談を持ちかけられる事は多いがその真偽の程は定かでは無い。
しかし、私は秋寺の話が真実であると確信した。
すぐにでも調査を始めようとした私を秋寺が静止した。秋寺は自らの身に起きた現象を危惧していた。
そう、秋寺は『人面豚』との遭遇の記憶を忘れていた。否、朧げながらに覚えていが秋寺の意識が『人面豚』に向く事がなかった。
執着の喪失。それは最も警戒すべき『人面豚』の能力だった。
だから私は対策を行なった。秋寺の体験談はボイスレコーダーに残っているし、掲載用の編集も終わっている。
もし私の『人面豚』に対する執着が消えたとしても、掲載を取り下げる事はない筈だ。そうなれば『人面豚』の存在は読者へと伝わり、何れ誰かがその秘密を暴いてくれる筈だ。
だが、私もやられるつもりは無い。秋寺の体験談を元にカメラや光を防ぐためのサングラスも用意した。
人面豚の存在を確認し、その姿をカメラに収めるのだ。
私は意を決して豚小屋の中へと足を踏み入れた。
ふと目を覚ます。車の中だ。
「ここは?」
視界に映る景色には見覚えがあった。県境を超えたばかりのサービスエリア、その駐車場だ。
助手席に投げ捨てられた地図帳を見る。
あぁと思い出す。寝ぼけた頭がようやく回りはじめたようだ。
牧場の特定が出来なかった為、私は秋寺の自宅から行ける範囲の牧場を虱潰し回っていた。
しかし結局、秋寺の言っていた牧場とやらは見つからなかった。
もしやとは思っていたが、やはり作り話であったようだ。
覚悟はしていたが長距離ドライブの疲れもありここで仮眠を取ることにしたのだ。
狭い車内での睡眠が良くなかったのか目覚めは最悪だ。身体は怠く、鉛が詰まったかのように頭が重い。
心なしか仮眠を取る前より疲れている気がする。
「秋寺の奴。手の込んだホラ話しやがって。これでは無駄足じゃないか」
私は鞄からノートパソコンを取り出して電源を入れた。
表示されたのは殆ど仕上がったレポートだ。牧場について掘り下げるつもりだったが、上手くいかないものだ。
『○○市わくわくふぁーむ』
秋寺はそれを実在の地名のように語っていた。しかし、そんな牧場は存在しなかった。
牧場の存在を確認できればそれらしき仮名を考えようと思っていたのだがどうやら必要なさそうだ。
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