異常姦見聞録

黄金稚魚

文字の大きさ
21 / 42
早漏爺

相席の男より

しおりを挟む
「以上が、話です」

 相席の男はそう言って話を締め括った。

 男は白髪混じりの頭髪を短く刈りそろえ、落ち着いた灰色の服を着ている。目立つ要素の無い、何処にでもいるような初老の男だ。
 
「ありがとうございます」

 それは単なる偶然だった。
 たまたま電車内で相席となった男。話し好きだという彼に私の仕事、『異常姦見聞録』を話した所、ぴったりのネタを紹介してくれた。

「どうですか。今の話。使えそうですか?」
「えぇ、ピッタリですよ。丁度、手持ちのネタも尽きていた所、助かりました。幾つか質問してもよろしいですか?」

「どうぞ、私が知っている事なら」

 男はしたり顔で言う。
 さて、何を聞こう。
 次の駅までまだ時間はある。だが話がどれ程長いか分からないので先に重要な事を聞いておくべきだろう。

「ではさっそく……。犯人といいますか。亡霊の正体というのは分かっているのでしょうか?」
「あー気になりますよね。私もです。こればかりはぱっとした話も無くてですね……いやぁすみませんね、さっそく分からない事で」

 そう言って男は申し訳そうに頭を掻いた。

「確か亡霊の格好については詳しく分かっていましたよね」
「えぇ。ずばりホームレス風といった感じですね。ですがそれが逆に難しいんですよ。ホームレスの人身事故なんて昔はそれなりにありましたからね」
「そういうものですか」

 男が分からないと断言する以上、亡霊の正体に迫るような手掛かりは無いのだろう。諦めて次の質問に移ろう。

「所で、その車両というのはこの辺りのものなのでしょうか?」
「ほぅ、それはどうしてそうお思いに?」
「私は職業柄、こういった怪綺談は集めているつもりですが、今の話は初めて聞きました。なのでこの土地特有の話かなと思いました」

 電車に纏わる怪談であれば似た話がない事は無いが、女性をレイプする霊など、その時点でまず聞かない話しだ。

「そうですね……ふふっ。私はこれを利用してますから、分かるんですが……」

 もったいぶるように少し間を空けて男はニヤリと笑った。

「この車両が、正にその車両ですよ」
「え?!」

 確か話の内容では車両に乗った女性はそれだけで襲われる可能性がある。
 私はちらりと車両内を見回した。

 見える範囲に女性の利用者は一人もいない。

「気づきましたか。この車両に女は乗っていませんよ。こんな田舎のローカル線に女性専用車があるのは不自然に思いませんか?」
「そう言えば……」

 今は夕方。帰宅時間と重なっているが席に空きがある程余裕がある。

「誘導ですよ。地元民なら噂を聞いて勝手に避けるのですが、たまに知らない子が居ますからね。なるべく自然に誘導できるようにという処置でしょう」

 男はさらりとそう言った。私は素直に驚いていた。
 男の語る内容もだが、その口ぶりにだ。ただの地方の怪綺談だと軽い気持ちで聞いていたが、男の話はいやに生々しく臨場感があった。
 よく出来た陰謀論を聞かされたかのような現実味リアリティだ。


「それ程まで……対策が必要な程の被害が出たのですか?」

「さぁ、私も色々と聞いたのですが、亡霊がどれ程深刻視されていたかは定かでは無いですね。終わってみれば証拠は残りませんし……ふふっ。次の段階まではタイムラグがありますからね。それに、女性専用車の話も実は分からないんですよ。世間の流れでたまたまそうなっただけかもしれません。あくまで噂ですので」

 男は対策の方を噂と言った。やはり男にとって車両に出る亡霊は噂ではなく、真実という事なのだろう。


「あ、でも次に乗る方は気の毒かもしれませんね」

「と、言いますと?」

 男は意味深に笑っている。
 普段私が職業を聞かれても、ライターと答えることはあれども『The tinker』の名前を出す事は無い。ホラー&エロティックを堂々と掲げている以上、身知らずの人間に世間話で出せる内容では無いという判断は当然だ。
 私が『The tinker』の事を話したのは、この相席の男がそういった下世話を好むような人物だと判断したからだ。
 そして、この男は『The tinker』に相応しい怪綺談を披露し、それに相応しい今も下賤な笑みを浮かべている。



「もう随分と溜まっているはずですから。……ふふっ」







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...