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五話 若葉に愛を
しおりを挟む新しいクラスの手応えは悪いものでは無かったと緑は思う。
クラスには女子が多く二十一人中、十六人が女子だ。男女比は少し気になったが田舎ではこう言う事もあると呑み込んだ。
自己紹介での反応は良かった。余計な緊張をせずに済んだのは事前に先輩――月花と話したおかげだろうか。
休み時間になると予想通り質問攻めにあった。
中途半端な時期の転校生と言う事でもっと奇怪の目で見られると思っていたが杞憂だったようだ。
クラスメイト達は自分達の輪の中に緑を遠慮なく誘い入れてくれた。
クラスメイトの一人が教えてくれた話によると家族で突然この町に越してくる事はそう珍しい事ではないらしく、年に一度か、数年に一度は緑のような転校生が来るそうだ。
丁度このクラスにも緑と同じ転校生の生徒が居るらしいが生憎と今日は休みであった。
新しい学園生活は順調な船出と思われた。しかし、三日も立つとクラスの月花に対する態度にそよそよしさを感じるようになっていた。
「町には慣れた?」
「変わった事はない?」
「放課後何処かにいった?」
クラスメイト達はしきりに聞いてきた。まだ引越しの片付けが終わっていなかった緑は家と学校の往復以外には殆ど出歩いていなかった。
町に関する感想ばかり聞かれたが、まだ如何にも答えられなかった。
表面上は優しいクラスメイト。しかし緑に隠れてヒソヒソと何か話している気配を緑は感じ取っていた。
自意識過剰……なのかもしれない。それに悪口を言われているような感じはしない。
緑に怪しい噂が立つような謂れはなかったし、クラスメイトは優しかった。
そして、一週間が過ぎた頃、間藤愛が登校してきた。
他のクラスメイトが言うには緑と同じ転校生で小学生の時に引っ越してきたらしい。
愛は活発に揺れるポニーテールが良く似合う明るい少女だった。緑の転校前から暫くの間、休んでいたが病気とは無縁のハツラツとした印象を受ける。
「あたし間藤愛。よろしくね」
愛はそうそうに緑との距離を詰めてきた。
同じ転校生同士という事もあったが、どうやらそれが愛の正確らしく愛は誰にでも積極的だった。
「緑はまだこの町に来たばっかなんだ」
「うん、引越ししたばかりでまだあんまり」
「ならさ。この町の素敵なコト教えてあげるよ」
「素敵なコト?」
放課後、愛に連れられて緑は商店街に連れて行かれた。正確にはその路地裏。
愛は商店街の路地裏をすいすいと進んでいく。賑やかな活気のある商店街も一歩その裏側へ足を踏み入れれば全く別の景色に早変わりする。
騒々しい人の賑わいが遠くに聞こえる。日常と切り離されたような何処か落ち着かない不安な気持ちになる。
愛は緑の手を引いて歩く。ここではこの掌の温もりだけが頼りで緑は離されないようぎゅっと握りしめた。
「ねぇまだなの?」
「もう少し、そろそろ居る筈だから」
「居るって?」
こんな場所に居る素敵なものなんて緑には想像できなかった。
騙されているのでは無いのだろうか。向こうにそのつもりがないだけで緑を何かよくない事に巻き込もうとしているのではいだろうか。
そんな不安が緑の脳裏を浮かんでは消えていた。
「怖がらなくていいよ。すぐに気に入る筈だがら」
そう言って緑に見えた愛の笑顔は蠱惑的で見つめていると絡め取れてしまいそうだった。クラスの中で見せる表情とは明らかに違っていてそれが余計に緑を不安にさせた。
ぶぶぶぶぶぶぶ。
羽音が聞こえた。
廃棄ファンに似た重く轟く重低音が耳元に響く。緑にはこの音に聞き覚えがあった。
周囲には誰かが捨てたゴミが落ちている。路地裏というのはどのも不衛生なもので常に薄汚れている。
ゴミの臭いに誘われたのだろう。ソレが住むには絶好の場所だ。
耳音で聞こえるのは蠅の羽音だ。
つくづくこんな場所に良いものがあるとは思えない。
耳元でなり続ける羽音に嫌気がさして咄嗟に手で払ったが、緑の手は空を仰いだだけでそこには何もいなかった。
しかし音は消えない。
耳元で聞こえたと思ったその音は、思ったよりもずっと大きな音でそれは頭上から聞こえた。
路地裏に差し込む陽の光が遮られ一層と暗くなる。緑にも何か大きなものが頭上に現れたのが分かった。
「来た」
そう言って笑みを浮かべる愛の声色にはねっとりとした粘り気があり、緑は自分がもう逃げられないのだと気付いた。
空を見上げると、巨大な蠅が二人の少女を見下ろしていた。
「銀翅産尋」
愛が呟いたのはソイツの名前だろう。
赤子の頭程はあろうか巨大なダークレッドの瞳が二つ。
表面にぶつぶつのある汚らしい背中には黒い毛がまだらに生えている。
そいつは塵色の羽根を震わせ空中で静止しており、細長い前足を拝むように擦り合わせている。
その見た目、仕草の全てが生理的に受け付けない。まじまじと見れば見るほど気色が悪い。
普段であれば注意して見ることの無い蠅の細部。しかし目の前で飛ぶ巨体から目を背ける事など出来はしない。
巨大な蠅は地面に降り立つと複眼の瞳で品定めするように二人を見る。
そいつに見られると緑の身体は石のように固まって動けなくなってしまった。
これは夢か。
目の前に現れた存在はあまりにも現実離れしていた。
するっ……ぷち。ぷち。
布の擦れる音、ボタンが外される音。柔らかい肌を滑り衣服が落ちる。
「さぁ来てください」
愛はこの巨大な蠅に対して驚く事も恐れる事もしなかった。
あろうことが愛は服を脱ぎ下着姿になると巨大な蠅に向けて招くように手を広げた。
緑は驚きのあまり声を出すことが出来なかった。巨大な蠅と半裸になった愛を交互に見る。
蠅の複眼に瑞々しい肌色が映る。
突進。
そう表現するしかない程の勢いで巨大な蠅は愛へ飛びついた。硬い地面に押し倒された愛は嫌がるでも叫ぶでもなく嬉しそうにしていた。
それが緑には堪らなく恐ろしかった。今にも逃げ出したいのに、このクラスメイトは一緒に逃げ出してはくれない。それどころか巨大な蠅の怪物を受け入れている。
悪夢のような光景が当たり前のように進行しそれを疑問に思えるのは自分だけ。
硬く目を閉じ夢から醒めよと念じても再び目を開ければ巨大な虫と戯れるクラスメイトの姿がそこにある。
ふと、脳裏に学校での会話が思い出された。愛は緑に素敵なものを見せると言っていた。
愛はこの巨大な蠅を知っていた。
これが?素敵?
「怖がらなくてもいいよ」
怯える緑を気遣うようにとびっきりの優しい声色で愛は囁く。
しかしそれは無理だ。緑は首を激しく振って答えた。もはや緑にとって愛はカルトの先導者のようにさえ思えた。
「んんっ――」
蠅は、否、愛は頭を動かして蠅の口へと唇を重ねた。蠅のガスマスク型の頭部から紫色の触手のような長い舌が伸びている。
愛と蠅が舌と舌を絡ませ合い唾液が糸を引いて垂れる。
「ひぃ」
ぞわぞわと鳥肌が走る。生理的嫌悪に満ちた光景。後ずさろうとした足がうまく動かず絡まってしまう。
状態を崩した緑は思わず両手で地面を掴み込んだ。
何か、何でもいいから縋るものが欲しかった。
「あんっ……やぁ……んっあぁんっ」
目を閉じて真っ暗になった所で聞こえてきたのは嬌声だ。聞いているだけで脳が溶けそうな程甘ったるい。
「はぁんっ……きたぁ……ッ!」
出来る事なら耳を塞ぎたい。でも緑の両手は地面を掴むので必死で言う事を聞いてくれそうにはなかった。
悪夢はまだ覚めない。
「はぁッ、はぁッ、」
「すっごぃ……最高っ、やぁん、あッ」
喘ぎ声の合間に聞こえる水音はわざとらしい程はっきりと聞こえた。真っ当な義務教育を受けている緑にはそれが接吻だけの音ではないと分かってしまう。
何をしているか理解してしまう。
もう嫌だ、家に帰してよ。
「ねぇ見てる緑? すっごく気持ちいいよ」
パニックに落ちる寸前、愛が緑を呼んだ。自らの殻に逃げ込もうとした緑はその絡みつくような声に引っ張られ顔を上げてしまった。
愛は蕩けるような笑顔を緑に向けていた。時折り苦しそうに歯を食いしばっては痙攣したように弾け柔らかな舌を伸ばす。
手で壁をついて身体を支え、尻を大きく後ろに突き出している。その背へ張り付くように巨大な蠅が覆い被さっていた。
長い前足は愛に抱きついている。小ぶりだが形のはっきりした乳房に前足のスパイクのような硬い棘が食い込む。
大きくのけぞった禍々しい肉の棒が愛の膣に出たり入ったりを繰り返す。蠅のペニスだ。
蠅のペニスが愛の粘液を引き摺りぐちゃぐちゃと嫌らしい水音を立てる。
愛の膣口から愛液が漏れ、蠅のペニスが深々と突き刺さる度にぽたぽたと地面へ滴れる。
巨大な蠅が愛を犯していた。
「あぁん、いぇーい」
空いている片手で愛がピースを作った。
その瞬間、緑の頭の中で何かが切れた。恐怖が臨界に達する。
「嫌ぁぁぁぁああああ!!」
緑の叫び声が路地裏にこだました。
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