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四話 私の奇跡
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転校生が来る。その情報が届くのは早かった。
月花の家、即ち蛍原家は町の中でも飛び抜けて大きい。つまり裕福で力がある。
辺鄙ななんて言葉では収まらない正に辺境と呼べるこの町で転校生というのは子供だけでは無く大人にとってもビックニュースだ。例えそれが年に一度はあるような恒例行事だとしてもだ。
学年は一個下。中二で転校とは、仲のいい友達も居ただろうに可哀想だなと月花は思い、せめて先輩として見かけたら優しくしてやろうなどと考えていた。
言ってしまえばその程度の興味。学年が違うので当然と言えば当然だろう。月花の興味はすぐに冷め、転校当日までその転校生のことをすっかり忘れていた。
だから月花がその転校生といち早く出会う事になったのは全くの偶然だった。
丁度その時、月花は私用で教室から離れていた。
ホームルームの時間帯だった。職員室の教室の前を通る時、担任の後ろについて歩く転校生、水城緑とすれ違ったのだ。
まず、すらりと伸びた背の高さを感じた。肩に掛かるぐらいまで伸びたセミロング。飾り気の無いシンプルな髪型。だからこそ素の美しさが引き出されている。
月花は手に持っていたファイルをその場に落としてしまった。
「あ……!」
下がった視界の中にすらりとした手が映る。
緑はしゃがみ込んでファイルを拾い上げると月花に差し出した。丁度目線が合う高さで月花は思わず息を呑んだ。
「落としたよ。ねぇ大丈夫?」
あぁなんて優しい眼差し。人懐っこい大型犬のようで、その中にしっかりと芯を感じられる力強い目。
濁り一つ無い穢れを知らない純粋な目。
この町にこんな目をしている人は居ないであろう。新しい目。
月花からは緑の姿が少女漫画に出てくる王子様のように見えた。何も知らない隣国からの尋人。
丁度、そんな内容の漫画を最近クラスメイトから借りて読んでいたのでその影響かもしれない。
「ありがとう。お礼にいい事教えてあげるよ」
なんでも良かった。この娘の気を引きたいと思った。
「私、蛍原月花。三年生だよ」
「えっ?年上!……なんですか?」
その反応があまりにも大袈裟でなんだかおかしかった。
「ふふっあはははは! もう! みーんなそう言う。そんなに幼く見える?」
「えーと失礼ですが……はい」
先輩と分かった途端、ぎこちない敬語で話し始めた。元の学校では上下関係に厳しい部活をやってたのだろうか。
月花はバレー部で活躍する緑を想像した。
いい、かっこいい!
「ねぇ私何歳ぐらいに見えるの?」
「えっいきなり何ですか?」
おっとつい面倒臭い女がする質問をしてしまった。
「えーと小学四年生ぐらい?」
「大分幼いね。せめて五年生でしょ。高学年ライン!」
「あの、蛍原さん。もう宜しいでしょうか?」
勝手に盛り上がる月花に教師が水を差す。これ以上は迷惑だなと月花は素直に引いた。
「あははは。ごめんね先生。それじゃあまたね緑ちゃん」
「はい。蛍原先輩」
これが蛍原月花と水城緑の出会いだった。
「私はあの時、緑の事を知らなかった。だからこそ私は思うよ。あれは奇跡だったんだって」
寂しげな塔の上で月花は一人呟いた。そしてゆっくりと目を閉じ、記憶の中の思い出に浸る。
月花の家、即ち蛍原家は町の中でも飛び抜けて大きい。つまり裕福で力がある。
辺鄙ななんて言葉では収まらない正に辺境と呼べるこの町で転校生というのは子供だけでは無く大人にとってもビックニュースだ。例えそれが年に一度はあるような恒例行事だとしてもだ。
学年は一個下。中二で転校とは、仲のいい友達も居ただろうに可哀想だなと月花は思い、せめて先輩として見かけたら優しくしてやろうなどと考えていた。
言ってしまえばその程度の興味。学年が違うので当然と言えば当然だろう。月花の興味はすぐに冷め、転校当日までその転校生のことをすっかり忘れていた。
だから月花がその転校生といち早く出会う事になったのは全くの偶然だった。
丁度その時、月花は私用で教室から離れていた。
ホームルームの時間帯だった。職員室の教室の前を通る時、担任の後ろについて歩く転校生、水城緑とすれ違ったのだ。
まず、すらりと伸びた背の高さを感じた。肩に掛かるぐらいまで伸びたセミロング。飾り気の無いシンプルな髪型。だからこそ素の美しさが引き出されている。
月花は手に持っていたファイルをその場に落としてしまった。
「あ……!」
下がった視界の中にすらりとした手が映る。
緑はしゃがみ込んでファイルを拾い上げると月花に差し出した。丁度目線が合う高さで月花は思わず息を呑んだ。
「落としたよ。ねぇ大丈夫?」
あぁなんて優しい眼差し。人懐っこい大型犬のようで、その中にしっかりと芯を感じられる力強い目。
濁り一つ無い穢れを知らない純粋な目。
この町にこんな目をしている人は居ないであろう。新しい目。
月花からは緑の姿が少女漫画に出てくる王子様のように見えた。何も知らない隣国からの尋人。
丁度、そんな内容の漫画を最近クラスメイトから借りて読んでいたのでその影響かもしれない。
「ありがとう。お礼にいい事教えてあげるよ」
なんでも良かった。この娘の気を引きたいと思った。
「私、蛍原月花。三年生だよ」
「えっ?年上!……なんですか?」
その反応があまりにも大袈裟でなんだかおかしかった。
「ふふっあはははは! もう! みーんなそう言う。そんなに幼く見える?」
「えーと失礼ですが……はい」
先輩と分かった途端、ぎこちない敬語で話し始めた。元の学校では上下関係に厳しい部活をやってたのだろうか。
月花はバレー部で活躍する緑を想像した。
いい、かっこいい!
「ねぇ私何歳ぐらいに見えるの?」
「えっいきなり何ですか?」
おっとつい面倒臭い女がする質問をしてしまった。
「えーと小学四年生ぐらい?」
「大分幼いね。せめて五年生でしょ。高学年ライン!」
「あの、蛍原さん。もう宜しいでしょうか?」
勝手に盛り上がる月花に教師が水を差す。これ以上は迷惑だなと月花は素直に引いた。
「あははは。ごめんね先生。それじゃあまたね緑ちゃん」
「はい。蛍原先輩」
これが蛍原月花と水城緑の出会いだった。
「私はあの時、緑の事を知らなかった。だからこそ私は思うよ。あれは奇跡だったんだって」
寂しげな塔の上で月花は一人呟いた。そしてゆっくりと目を閉じ、記憶の中の思い出に浸る。
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