18 / 18
エピローグ ここは巨大虫の居る町
しおりを挟む慶香町。
古びた鉄の標識にそう書かれている。バスの時刻表には朝と夕方の二種類しか時刻が書かれていない。
田んぼに囲まれたバス停には古びたベンチと自販機だけが設けられていた。
ベンチには二人の少女が座っていた。同じ制服を着ていることから二人は中学生であると分かる。
片方は中学生にしては背が高く、片方は中学生にしては背が低い。何も知らなければ少し歳の離れた姉妹のようにも見えるだろう。
二人の関係は同じサイクリング部に所属する先輩と後輩。背の小さな方が先輩である。
「鶏を絞めると書いて鶏絞。それがこの町の名前」
突然物騒な事を言い出した月花に緑は口をあんぐりさせた。
夏の暑さに当てられて手に持っていたキャンディアイスは早くも溶け出していた。
気の緩んでいた緑の手元に月花が齧り付いた。アイスの頭を噛み取られた。
「ああー! ちょっと何するんですか!」
「冷たくておいしー」
「知ってますよ。私のアイスですから!」
「もうしょうがないなー。ほら私のもあげるよ」
月花はわざとらしく間延びした口調で言うとアイスを緑の口元へ向けた。アイスの先端には小さな歯形がついている。
「じゃあ頂きます」
ぱくりと差し出されたアイスにかぶりつく緑。一口は一口でしか償えない。そんな事を考えている。
「うわー。躊躇なくやるね。ちょっとは恥ずかしがればいいのに」
月花の言葉は後半の方はごちょごちょと口ごもっていてうまく聞きとれなかった。
「それで、なんですか。さっきの話。この町呪われているとかですか?」
「もしそう言ったら信じる?」
「はい」
「わー、素直。でも安心して多分呪われてないよ」
「先輩の嘘つき」
「なんでよ」
ジト目で月花を見下ろす緑。この身長差だ。月花は常に緑を見上げながら話している。
「えーと、そうじゃなくて。この町の名前の由来だよ。あ、当時は村か」
「そこはまぁどうでもいいです」
「鶏絞。神様に鶏の生贄を捧げていた風習からそう呼ばれていた」
「虫崇。とかじゃないんですね」
「あーんうん。私もそれ思った」
月花がしみじみと思い出すように言った。さながら世間話でもするような呑気さで続ける。
「私さ虫神は元々この土地の神様じゃなかったと思うんだよ」
「どう言う事ですか?」
「鶏を絞めてたのが元の神様だったのかなって」
「えーと。分かんないです」
「あー、そうだね。外来種ってあるじゃん。ブラックバスとかそういうの」
「生態系ぶち壊しちゃうヤツですね」
「そうそう。あれと同じで後から来た神様が元いた神様を倒して居座ってるのかなって思ってるんだ。この町には元の神様がもう居ないから、だから奴らが好き勝手してるのかもしれないってね」
そう語る月花の横顔は想像していたよりずっと真面目で緑も思わず考え込んでしまった。
「なら、こいつらは何処から来たんですか」
緑はそう呟き田んぼを見渡した。
広い田んぼの中には一メートル程もある大きな甲虫が泳いでいた。
町の至る所に彼らは居る。雑木林の中に、路地裏に、屋根裏に、公園に。
一目に触れる事を躊躇わず顕われては甘い贄を貪る。町は彼らを崇め奉り、そして交わる。
そう、ここは巨大虫の住む町。
――慶香町。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
すごく面白いです!