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エピローグ いつかの出来事
しおりを挟むその塔は山の中腹に聳え立っていた。古く小さな塔だ。
周囲より少しだけ低い地面に建てられたその塔は背の高い木々に囲まれ、外からその姿を確認することを困難にしていた。
まるで隠されたようにその塔は建てられていた。
「せーのっ」
塔の頂上。大きな鐘が吊るされた最上階。そこで小柄な少女が跳ねる。
唯一等に足を踏み入れることを許された蛍原家の娘。
蛍原月花。
力一杯、紐を引っ張り木鎚を持ち上げる。
「起きろ!」
掛け声と共に鐘は鳴らされた。
夕方五時。この町では決まって五時に鐘が鳴らされる。
町の住民にとって聞き馴染んだ日常のチャイム。
だが、この鐘は一部の人間にとっては別の意味を持っている。
例えば、蛍原月花。
鐘の音が町を駆け巡る瞬間、月花の世界は一変していた。
音の波紋が空気中に広がるのと同時に眩い光が広がったのだ。
まだ日中。明るい中でさえ輝いて見える。
光の玉。
光の玉が鐘の音に揺られ塔の周りを漂っている。否、ここだけでは無い。
音と共に光の玉はどんどん広がっていく。町中の至る所に輝きの群れが見える。
何もそれは珍しい事では無い。光の玉はどこにでも存在していた。
月花だけがそれを見ることが出来る。それだけの事だ。
光の玉。その輝きを月花を見つめる。けして心を奪われないように囚われないように強く睨みつける。
月花は光の中で景色を垣間見る。
日照り。
田圃。
走り回る子供達。
川を泳ぐ魚。
影法師のように浮かび上がるその景色を月花は眺めていた。
これはこの町の景色だ。そしてこの町で起きる明日の出来事だ。
月花だけがそれを見ることが出来る。
「明日もつまんないな。退屈」
耳を押さえたまま、足で扉を閉めて月花は塔の最上階を後にした。
毎日繰り返された月花の日常。月花が垣間見た明日へ思うことは少ない。
只、これが蛍原家のお役目なのだ。
「明日は晴れる。以上」
塔を降りた月花は、入り口で待機していた大男、極臣へそれだけを告げた。
極臣はそれを書き留めると大声を上げて念仏を唱え始める。
付き合ってはられないと月花はそそくさとその場を離れようとする。
「お嬢様」
「ん?」
「お飲み物をご用意しております」
極臣が指差す先にはアイスボックスが置いてある。
「えっと何?キャンプでもやるの?」
「暑くなって来ましたので、水分補給用にと」
「相変わらずガチってるね極臣は」
月花はそう言ってアイスボックスを開いた。中には大量の氷と共に色とりどりのジュースが入っていた。
「球技大会で見たよ。こういうの」
「お嬢様、山では通常以上に汗をかきます。熱中症に注意し、水分補給は小まめに行ってください」
「急に何?」
「いえ、お嬢様はその辺りがずぼらです。この機会に言っておいた方が良いかと」
「はいはい。分かりましたよー。ありがたくいただきます」
月花はアイスボックスからラムネを二本取り出した。
「それじゃ、友達が待ってるから先行くね」
そう言って月花は振り返り笑みを見せた。
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