百合蜜ヲ啜ル。

黄金稚魚

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十四話 百合蜜を啜る

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 蝉の鳴き声が夜の公園に木霊する。耳を塞ぎたくなるような生々しい肉声。
 月花の表情は暗い。夜闇もりもさらに暗く極彩色に澱んでいる。

 気がつけば再び雲が月を隠していた。


「あぁ、こうなってしまった」


 演劇役者のような張った声で月花が言う。悲しみを無理やり押し殺し一歩進んだ。

「こうなってしまった」

 繰り返しもう一度言った。
 月花は鞄をその場に投げ捨てる。手には鞄から取り出したであろう鉄で出来た道具が握られている。


「あっ……あぁ!」

 目隠亜蔵が緑の眼孔からペニスを引き継いた。
 茶色の木の枝のようなそれにはぐずぐずになった肉片がひっ付いていた。


 一歩近づく。


「はぁ…はぁ……ぁぅ……穴空いちゃった……」

 そう切なげに言う緑。ぽっかり空いた穴を埋めるべく把握器から二本の突起が盛り上がる。

「おっ……おおお?」


 一歩近づく。


 把握器から伸びた突起は緑の眼窩にめり込むとどんどんと奥へ進んでいった。
 二つの突起が穴に収まる。隙間なく完璧にぴったりと緑の眼孔を満たす。

 目隠亜蔵は自分に合うを造ったのだ。

「こっち! こっちも使って! 使って下さい!」

 緑が自分で股を広げて、閉じた割れ目を無理やり露わにした。
 ピンク色の花弁のような膣口が公園の空気に触れ、僅かにビクついている。


 一歩近づく。


 自ら差し出しされた新たな穴を目隠亜蔵は躊躇いなく餌食にする。
 血肉と涙で汚れたペニスが緑の柔らかな腹に押し当てられる。

「うぇっ……」

 力が込められたままペニスはずるずると下へ移動していく。その軌道の先にある穴へ触れた時、ペニスが奥へと差し込まれるように。

 肉と肉を強く擦り付けながらペニスは下へ下へと降りていく。

 そして……。

 目隠亜蔵のペニスが緑の処女を散らした。

「おッッ!!」

 込められた力が解放される。ペニスは膣の一番奥へ一気に押し込まれた。
 つま先から頭の先まで一直線にピンと跳ねた緑の体。遅れて股の接合部から透明な液体を勢いよく噴射した。

「おぉ……おっ?!」


 一歩、一歩確かな足取りで月花は目隠亜蔵と緑の元へと近づいていく。
 その度にハンマーで頭を叩かれたかのような衝撃に見舞われていた。

 月花は確かに何かを期待してこの場所に来た。しかし望んでいた光景はその片鱗すらも覗かせない。

 真っ黒な絶望が月花の脳裏を叩きつけている。
 つんざく目眩にふらりと倒れたくなる。全てを投げ出し逃げてしまいたいとさえ思う。
 
 だが、それは月花が弱いからでは無い。月花がもし弱ければ公園の入り口で何もできずじっとしている事しかできないだろう。

 確固たる意思と目的の元、月花はまた一歩、足を前に出す。


「ミーン! ミンミーン! ミンミン」

 緑は蝉の声で喘ぐ。人間の尊厳など捨てて、蝉の肉奴隷スピーカーと成り果てたその様。
 耳を塞ぎたくなる最低の所業。


 一歩近づく。


 その足が何か棒のようなものを踏み、一度止まった。
 陶器で出来た長細い棒の先端には風車のような羽が付いている。
 月花は力任せに風車を踏み抜いた。軽い音を立て風車が根元から砕けた。

 役立たず。そう念じて風車の残骸を一瞥し、月花は再び歩みを進めた。


「ミンミンミンミンミンミン! ミーンミンミン!」


 月花は一歩また進んだ。



 そして、たどり着いた。
 ジャングルジムの目の前まで来た月花は道具を握る手とは逆の手で目隠亜像の体に触れた。背中の皮膚をぎゅっと捻る。

「邪魔」

 ぎぃぃぃと軋むような音を立て目隠亜蔵が体を歪ませる。足の一本がそれぞれ別の生き物のように出鱈目に動いている。

「あっちいけ」


 大きく音を立て目隠亜蔵が羽を広げる。

 ばさばさと慌ただしく羽ばたく。空中をもがく様に飛ぶと目隠亜蔵は月花の背後、公園を囲む金網のフェンスに体を停めた。

 無機質な複眼で月花を見つめた。人とは違い虫の瞳に感情は宿らない。目隠悪蔵は再び羽ばたくと月花の前から姿を消した。

 その気配が無くなった時、月花の全身から力が抜けその場にへたり込んだ。
 恐る恐る伸ばした両手が緑に触れる。

 虫神は追い払った。
 ここからは二人の世界だった。



「緑ちゃん」

 緑が顔を上げる。双眸にぽっかり空いた穴が月花を見上げた。穴は何も写さない。ただ真っ黒な闇だけが奥へ奥へと続いている。

「だれぇ?」

 舌ったらずの声で緑が嘲る。今にもきゃっきゃと笑そうなほど無垢な笑顔が浮かんでいる。

 目隠亜蔵は脳を創り変える。
 医者はそう言っていた。

「大丈夫」

 月花は緑の身体を引き寄せた。緑の素肌が月花に触れ密着する。


「大丈夫だよ」
「えぅ――?」


 聖母の如く優しげな言葉。しかし、緑の表情は困惑に歪む。

 何かがおかしい。そう思い泳ぐ緑の目線には何も映らない。暗がりに温もりが溢れだす。

「緑ちゃんは渡さない。誰にも、何にも」
「???」

 じんわりと広がる熱。しんじんと麻痺する様な感覚が広がり緑の全身から力が抜けていく。

「私が守ってあげる」

 どくんどくんと鼓動が鼓膜を叩く。
 胸から流れる血が月花の服を汚した。

 緑の真っ白なお腹には鋭く尖ったナイフが突き刺さっていた。

「あ、あ、あぁああ?」

 ようやくやって来た痛みが緑を襲い苦悶に叫ばせた。手探りでその原因を探す手が血に濡れたナイフの柄を探し当てた。

 ぬらりと血を纏わりつかせ、ナイフが引き抜かれた。

 新しく空いたそのからは捻った蛇口のように鮮血が流れる。

「ふふっ」

 どくどくと脈打う血は命そのもののように暖かい。緑の温もりは血を通して月花に伝わる。
 それが心地よくて、緑のお腹に顔を押し付け新鮮な体温を堪能する。

「好き……好きっ好き」

 囁くように繰り出すのは愛の言葉。


 傷口に月花の頬が触れると緑は声にならない悲鳴を上げた。
 痛みに耐えかねた両手が縋り所を求め、月花に絡みつき強く抱きしめた。
 

「ごめんね。緑ちゃんは強く無いのに……無理させちゃったね。私、我儘言っちゃったよね」

 月花は傷口に舌を這わせ血を舐めとると、緑を優しく抱きしめた。

「もう大丈夫だよ。だからもう頑張らなくていいよ」

 舐めとっても舐めとっても血は止まらない。

「好き。好きだよ」

 緑の血を浴び、飲み、溶け合うように愛を囁く。すると、緑の手が月花の手に触れた。指を絡ませぎゅっと握りしめた。

「……せんぱい?」

 緑の声は掠れていて息が荒くなっていた。息を吸うだけでも辛そうに見える。
 緑は心配そうに月花を呼んだ。

 呼吸の為に動く唇を月花は自分の唇で塞ぎ込んだ。

「ンッ――――」

 気を失いそうなほど長い、長い接分。眼窩に開いた穴が一度大きく開くと、萎むように閉じてゆく。息を切らていた緑の呼吸が静かになっていた。
 シャツは赤く染まっていて、二人の素肌は血に濡れ糊のようにお互いを張り付けている。
 もう、最後まで離さぬように。

「そうだね、もう疲れたよね」

「………」

「もういいよ。頑張ったね緑ちゃん」

 動かなくなった緑に抱かれ、月花は眠るように目を閉じた。


「おやすみ。わたしの……」



 月の光も差し込まない夜の公園で、眩い程の輝きが、二人を包み込んでいた。
 


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