主人公はふたりいる。

織緒こん

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ヒロインたちは自爆したらしい

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 浦っちに送ったメッセージに既読がつかない。スマホを握りしめ、じっと見つめる。体育祭後の出来事は、報告すべき案件として連絡を入れているのに、何かあったのかしら?

 そう言えば、救急車のサイレンが聞こえていた。もしかして、浦っちもイベント発生してた?

 代休が明けて火曜日、ショックの大きい春香さんはお休みだった。⋯⋯私がけろっとしてるのがおかしいの? だって浦っちのことが気になって、休んでなんかいられないんだもの。

「依子さんだけでも会えてよかったわ。春香さんも早くお元気になられるといいのだけど」

 聡子さんが憂い顔で、おっしゃった。男子生徒をふたりも伸したとは思えない儚さだ。

「そうね。春香さんの優しい笑顔がないと、寂しいですものね」

 ふたりでほうっとため息をつく。

 それにしても花城さんが登校してこないわね。もうすぐ予鈴も鳴るという時間なのに、ピンクブラウンのフワフワ頭が見えないわ。

「ねぇ、聡子さん。わたし、次の休み時間に蓮子組に行ってくるわ」
「あら、お忘れ物?」
「いいえ、友人に無事な顔を見せておきたくて」

 本当のところは浦っちの無事な顔を見たいんだけど⋯⋯って思っていたんだけど。浦っちは全然無事じゃなかったのよ!

「⋯⋯ええっ⁈ 櫓の下ッむぐっ」

 びっくりして大きな声を出しかけたわたしの口を、半分泣きそうな一条くんが抑えてきた。

「三峰さん、箝口令出てるから!」
「意識不明で運ばれたんだ」

 コソコソ教えてくれた二宮くんは項垂れている。

 わたしは短い休み時間では頭の中が整理できなくて、ふらふらと教室に戻った後も、授業がさっぱり耳に入ってこなかった。

 昼休みに聡子さんにこっそり聞いてみる。

「そう言えばあの時、風紀委員長が酷く慌てていらっしゃいましたわ」

 藤宮会長が人手を求めて風紀委員室に寄った際、先にトラブルが持ち込まれていたって。

「蓮子組の二宮くんが取り乱してましたわね」

 モブその二が持ち込むトラブルなら、間違いなくボンバー絡みね。浦っち、巻き込まれたわね!

 無事を祈ることしか出来ないわ。

 動揺しまくったわたしは、放課後になって聡子さんと一緒に生徒会室に呼び出された。フラグが~とか言ってる場合じゃない。浦っちが死にかけてるんだから。

 生徒会室に入ると聡子さんとふたりで並んで座る。藤宮会長がこちらを見て柔らかく微笑んだ。眼鏡の奥の目尻が下がって、とても俺様インテリ眼鏡には見えないわ。

「足を運んでもらって悪いな。夜は眠れているかい?」

 レイプ未遂の被害者だから、めっちゃ気を遣われている。実際、春香さんはお休みだったもんね。花城さんもお休みだったけど。

「あの五人組、まぁ下衆な輩なんでどこの誰だかは割愛する。彼らは花城アリスを呼び出すために、君たちに声をかけたらしい」
「花城さんと、仲良くなんてありませんわ」
「それは俺も充分わかっている。だが彼らは君たちが花城アリスの取り巻きだと言われていた」
「どなたにですの?」

 聡子さんが怖い。この一件、聡子さんは花城さんの差し金だと思っているから、不機嫌なことこの上ない。

「大空翔だ」
「え?」
「⋯⋯どなた?」
「体育祭の時、騎馬戦でズラ飛ばした奴だ」
「⋯⋯⋯⋯はぁ」

 なんで、大空くん?

 あ、ライバルキャラの妨害か!

「花城アリスとその取り巻きを、学校に来たくないような目にあわせてくれって言われたそうだ」
「それでレイプですか」

 成功してたら、もちろん学校に来ないよね。聡子さんなんか花城さんへの怒りがそのまま、ほとんど面識のない大空くんへ移行したようだ。

「大空翔とやらは、どんな理由があって彼らに頼んだのでしょう」
「下衆どもには言わなかったそうだ」
「まぁ、理由もないのに引き受けるなんて、どんなご褒美につられたんでしょうねぇ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯寝てやると」

 藤宮会長がめっちゃ嫌そうに褒美を告げた。

 ビッチかよ!

 大空翔も下衆どもも、どっちもどっちだ。五人と寝るってひとりずつでも6Pでもありえないし、下衆どもにしたって、大空くんと寝るために女の子を襲うってどうよ!

「⋯⋯花城さんがお休みでしたが、彼女も被害にあったのですか?」

 聡子さん、ナイス。それ聞きたかった!

「いや、朝から会議室登校をさせている。別件で風紀が話を聞いているんだ」

 風紀? じゃあ。

「うら⋯⋯三浦くんの件ですか?」
「なんだ、知っていたのか。そうだ、三浦くんが櫓の下敷きになった件に、花城アリスが関わっている」

 ちょっとカマかけてみたら、引っかかった。部外者だから教えてもらえないと思ってたから、ラッキーね。

「男子生徒数名が大空翔を襲ったんだが、逃げるために大空が櫓の要のボルトを外したんだ。松葉杖の三浦くんが逃げそびれて下敷きになった」

 血の気が引く。浦っち、生きてるよね。後ろの処女なんて命あってのものだねだからね!

「櫓の下から引きずり出したときは意識がなかったが、病院についてすぐ、目を覚ましたらしい」

 よかった~。

 椅子に座ってなかったら、床に座り込んでたかも。茫然としていたら、藤宮会長がそっとハンカチを差し出してきた。

「え?」
「涙が⋯⋯」

 あれ? 涙が勝手に。なおも茫然としていると、藤宮会長が手づから涙を拭ってくれた。中身アラサーOLなのに、子供みたいだわ。

 既読が付かなかったのは、病院でスマホを取り上げられているからだと察して、すっかり安心した。

「申し訳ありません。取り乱しました」
「いや」

 会長に謝るわたしの背中を、聡子さんが優しく撫でてくださる。

「それでは花城さんは、大空翔とやらを襲った連中をそそのかしましたの?」

 浦っちの件に関わっているなら、そういうことだ。会長も無言で頷く。

「で、理由と報酬をお聞きしても?」

 聡子さん、だいぶ投げやりね。どうせろくなものじゃないけど。

「あたしより可愛いなんて許せない、だそうだ」

 なんじゃそりゃあ。そんなしょーもないことで、浦っちは死にかけたのかい⁈

「ここまで来て、報酬は内緒ですの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。後ろの孔なら好きにしていいと。前払いで生乳なまちちを揉ませたそうだ」

「後ろの孔⋯⋯?」

 さすがの聡子さんも、お嬢様の思考の片隅にもない報酬にドン引いている。

 前の処女はエンディングまで取っとくつもりなんだね、花城さん!

「あの方、初めては会長に捧げる気なんですのね」
「冗談じゃない! そんなものいらない! ふたりとも退学の方向で話が進んでいる! そうなったら二度と会わないからな!」

 うわぁ、そのびっくりマーク過多の喋り方、大空くんにそっくりだよ。会長は自分でもそう思ったのか、苦虫を噛み潰したような顔で唸り声をあげたのだった。

 
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