ママは乳がん二年生!

織緒こん

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さん。

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 スズのパパはフードファイターだ。別に職業とかじゃない。ただの大食い。そしてスズの胃袋はパパに似たらしい。つまり、スズも大食いだ。

 今日も給食のおかわりジャンケンに勝って、イカと大根の煮物をゲットした。お腹いっぱい幸せな昼休み、クラスの男子が寄ってきた。

「なぁ、木村。お前ん家の母ちゃん、ゴクツマ? 昨日の夕方、ドラッグストアの前でお前と一緒にいただろ?」

 昨日、仕事帰りのママと学校近くのドラッグストアの前でばったり会って、一緒に家まで帰ったけどゴクツマってなんだ?

 知らない単語に首を傾げると、お調子者の高橋がニヤニヤしながら大きな声で言った。

「木村の母ちゃんヤクザのオンナなんだぜ! 昨日見たんだ! そのうちコウソウで銃に撃たれて死んじゃうんだろ?」

「え?」

 ママが死ぬ⋯⋯?

 死ぬって言葉を聞いて、目の前が真っ暗になった。違う、ママは死なないって言ったもん。死なないために手術するんだもん。そのためにお仕事の引き継ぎに行った帰り、スズと会ったんだもん。

 かーーっとなって、目の前にあった机を引き倒す。大きな音がして、文房具が床に散らかった。

「うわっなんだよ、そんなに怒ることないだろ? ちょっとからかっただけじゃん!」

「うるさい! あんた、ママが死ぬって言った! ママは死なない! 絶対死なない!」

 高橋が肩を押してきた。スズも押し返す。

「ケンカはダメだよ、スズちゃん。高橋もあやまってよ。今のはぜったい、あんたが悪い!」

 クラスのリーダー、マナちゃんがスズのお腹に手を回して、高橋から引き剥がした。高橋のことは、男子が何人かでおさえている。

「冗談くらいわかれよ、このキョーボー女!」

「はい、ストップ」

 高橋が大きな声を出したとき、ぬっと大きな影が割って入った。誰かが先生を呼んできたんだ。

「ユキナリ、スズシ、ちょっと落ち着け」

 担任の新谷先生は、クラスの児童を下の名前で呼ぶ。近くにいた子にスズが倒した机を起こすように頼むと、高橋とふたりで教卓のところまで連れて行かれた。

 一息つくと落ち着いて、そしたら涙が出てきた。

「女は泣けばいいから、ズルイよな」

 高橋が言った。

「ユキナリ、黙ろうか。順番に聞くよ、机をひっくり返したのはどっち?」

 スズは黙って手をあげた。

「本当は別々に聞いた方がいいんだろうけど、こんだけみんなが見てるからなぁ。うーん、マナカ、最初から知ってる?」

 先生はマナちゃんを呼んだ。近くにいたマナちゃんは最初から全部見ていて、そのまんまを話してくれた。

「そりゃユキナリが原因だな」

 先生は『悪い』とは言わなかった。

「からかったんじゃなくて、普通に悪口だ。スズシのお母さんは呉服屋の店員だって聞いてたぞ。着物くらい着るだろう」

「⋯⋯昨日はお仕事に行ったから、帰り道で会ったの」

「それに着物を着ている人がヤクザなら、旅館の仲居さんや、駅前のしゃぶしゃぶチェーン店のバイトさんだって、みんなヤクザじゃないか」

「そんなのわかってるよ。冗談言っただけじゃん」

 高橋がプイッとよそを向いたので、またお腹の中がざわざわした。

「あんたは冗談でママが死ぬって言ったの?」

「そうだよ、冗談だよ。ホントに死ぬんじゃないからいいだろ⁈」

 死なない。

 死なないけど、スズのお爺ちゃんは今のママと同じ歳で死んじゃったもん。⋯⋯がんで。

 また、涙が出た。

「先生⋯⋯ママ、ホントに死んじゃうかもしれない。もうすぐがんの手術なの」

「え?」

 一度口から出た言葉は戻らなくて、お友だちにはナイショねって言われてたのに言っちゃった。ワンワン泣きながらしゃがみ込んだ。

 高橋がオロオロしてる気配がするけど、そんなのかまうもんか。

「えー、高橋、最低! 病気のスズちゃんのママに死んじゃえって言ったの?」

「オレはそんなこと言ってない! ⋯⋯かもしれない、みたいなことは言ったけど、死んじゃえなんて思ってない! それに病気なんて知らなかったし!」

「知らなきゃ言ってもいいの?」

「やだぁ、高橋、コイツ最悪なんですけど」

 女子は一斉に高橋を責めた。一致団結したら男子なんてコテンパンだ。

「みんな静かに。ただの喧嘩じゃないなぁ。スズシ、保健室で休むか? ユキナリ、悪意のある言葉は冗談にならないからな。お前だって、お父さんやお母さんにひどいことを言われたら怒るだろう?」

 新谷先生の声に重なって、昼休み終了のチャイムが鳴るのが聞こえた。
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