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ヤマトナデシコはじめました。
レオンブライト × 玻璃
「これ、なんて言うんだっけ?」
「三宝よ」
そうだ、三宝だ。お正月に鏡餅を乗せたりするヤツ。
るぅ姉が持って来た三宝は、ばあちゃん家の蔵で見つけたらしい。王太子妃になった俺は王都からあんまり出られないけど、ジーンスワーク辺境伯爵領に婚約者がいるるぅ姉は、なんだかんだで王都と辺境を行ったり来たりしていて、魔女様の森の中にあるばあちゃん家の蔵や離れの二階から、いろんなものを持って来てくれる。
俺とるぅ姉は呉服屋を営んでいた亡きばあちゃんの自宅ごと、異世界に落ちて来た。しかも敷地全部まとめて。なのでこの国、ひいてはこの世界にないはずのものも沢山ある。
その最たるものは、俺とるぅ姉が身につけている着物なんだけど。この世界の人々は、俺たちが着物を着ていると喜ぶ。異世界情緒たっぷりだもんな。一般的な日本人、よほどの着物好きじゃない限り、着物を日常着にはしないんだけど。よれたティーシャツとダボダボのカーゴパンツが懐かしい。
「で、なんでまた、三宝なの?」
「あら、秋の夜長のお楽しみじゃない。王太子殿下とお月見でもしたら? 最近忙しそうだから、ゆっくりしてもらいたいって言ってたじゃないの」
お月見とくれば月見団子。
だから三宝を持って来たのか。台座の三方に穴が空いているから三方って言うんだけど、花柳家では三宝って書く。
「満月に間に合ってよかったわ。お天気もいいし、きっと月も綺麗よ」
るぅ姉はジーンスワークで試験的に栽培した米を挽いて米の粉まで持って来てくれたので、夜までの時間を待つ間に団子を用意した。
王太子宮の茶話室のテラスに三宝に乗せた団子を供える。ススキかわからないけど、茅みたいな稲科っぽいシュッとした植物も飾って満足する。るぅ姉は侍女さんトリオにお月見の詳細を伝えてくれていたみたいで、三宝のとなりにはきちんと穀物や野菜も供えてあった。
「五穀豊穣の祭事だと、ルリ嬢に聞いたよ」
夜のテラスは少し肌寒い。美しい化粧タイルの上に温かなカーペットを敷き詰めて、盛り盛りクッションの上で寛ぎながら、ブライト様が微笑んだ。俺はと言えば、胡座を組んだブライト様の足の間にちんまりと収まって、ぬくぬくと体温を堪能している。
ブライト様の豪奢な金髪は獅子の煌めきの名前の通りに太陽の輝きを放っているけど、柔らかな月の光の中でもキラキラしてとても綺麗だ。
「うん、将来帝国を背負って立つ方には、ぴったりのお祭りだと思う」
「そうだね」
日本で言うところの中秋の名月は、ちょうど秋の収穫が始まるころになる。収穫した野菜を神様にお供えして、月に見立てた丸い団子に神様の力を浴びさせて食べることで、身の内に取り込んでその年の豊作を祈願したんだって。ちなみにススキは神様の依代でぶっちゃけ門松と同じだ。ばあちゃんは季節の行事は大切にする人だったから、毎年同じ話を聞かされて育ったんだよ。
「ニホンには魔法はないんだろう? 神の力は信じるのかい?」
「それが日本人だから」
それしか言いようがない。本当に五穀豊穣を願って神事のように恭しく取り行っていたのは遠い昔の話で、ススキを飾る家は珍しくなったし、本来は月の光を浴びていない団子を食べても意味がないってこと、知らない人も多い。うちはばあちゃんがそこんとこ厳しかったけど、クラスメイトはその日のおやつにスーパーで買ってきた団子を食べるだけだって言ってた。
ハロウィンにカボチャ料理を食べて、クリスマスにチキンとケーキ、バレンタインにはチョコレート、それの並びに中秋の名月には月見団子。
そんな浮ついた気持ちじゃなくて、国の繁栄を祈ってお月見をしたくなった。だって俺の旦那様は、将来は大シュザネット帝国の皇帝になるんだもんな。
「今年の実りも豊かだといいね」
「今宵の月は格別に美しい。玻璃の願いも叶えてくれるよ」
「そうだね、月が綺麗だもん」
ちょっと特別な想いを込めて月を讃えると、お腹を支えてくれていたブライト様の手が、顎を掬い上げてきた。上向かされて小鳥のキスが落ちてくる。チュッチュッと繰り返しながら俺の身体が反転されて、ブライト様の太腿に跨るような格好になった。着物の裾が割れて盛大に太腿が露出する。さっきまで暖かかった背中もすぅすぅする。
「ルリ嬢から、玻璃が『月が綺麗だ』と言ったら、『死んでも良い』と答えると良いと助言を受けたよ」
るぅ姉、『死んでも良い』なんて、月関係なくなってるじゃないか。
文豪たちのI love youはとてもロマンチックだ。夏目漱石と二葉亭四迷、どっちが好きかと問われたら迷う。
「死んでも良い、とは言ったけれど、君を残しては死ねないから困ったものだね」
「ふふっ、ブライト様。月がとってもとっても綺麗ですね」
小鳥のキスを満足するまで繰り返しているうちに、なんだか可笑しくなってきてキスをやめて笑い合った。俺が先に死んだらブライト様が絶望で国を滅ぼしてしまうらしいから、冗談でも死んでも良いとは言えない。
「神様の力を分けてもらったお団子を食べて、長生きしようね」
剥き出しの足が冷えて来たのを、ブライト様の熱い手のひらが辿る。寒さとは違う震えが背中に走った。
綺麗な綺麗な月の光を浴びながら沢山キスをして、今年の豊かな実りを願う。
「お団子は⋯⋯明日でいいかな?」
「ん⋯⋯」
すぐ食べちゃうより、いっぱい月の光を浴びてた方がご利益ありそう、なんて屁理屈を自分に言い聞かせながら頷いた。
ブライト様の手が袖から入ってきて、身体を捩る。
「月が見てる⋯⋯」
抗議は聞き入れられて、俺は月の光が届かない寝室で陽が昇るまで愛されたのだった。
〈おしまい〉
「これ、なんて言うんだっけ?」
「三宝よ」
そうだ、三宝だ。お正月に鏡餅を乗せたりするヤツ。
るぅ姉が持って来た三宝は、ばあちゃん家の蔵で見つけたらしい。王太子妃になった俺は王都からあんまり出られないけど、ジーンスワーク辺境伯爵領に婚約者がいるるぅ姉は、なんだかんだで王都と辺境を行ったり来たりしていて、魔女様の森の中にあるばあちゃん家の蔵や離れの二階から、いろんなものを持って来てくれる。
俺とるぅ姉は呉服屋を営んでいた亡きばあちゃんの自宅ごと、異世界に落ちて来た。しかも敷地全部まとめて。なのでこの国、ひいてはこの世界にないはずのものも沢山ある。
その最たるものは、俺とるぅ姉が身につけている着物なんだけど。この世界の人々は、俺たちが着物を着ていると喜ぶ。異世界情緒たっぷりだもんな。一般的な日本人、よほどの着物好きじゃない限り、着物を日常着にはしないんだけど。よれたティーシャツとダボダボのカーゴパンツが懐かしい。
「で、なんでまた、三宝なの?」
「あら、秋の夜長のお楽しみじゃない。王太子殿下とお月見でもしたら? 最近忙しそうだから、ゆっくりしてもらいたいって言ってたじゃないの」
お月見とくれば月見団子。
だから三宝を持って来たのか。台座の三方に穴が空いているから三方って言うんだけど、花柳家では三宝って書く。
「満月に間に合ってよかったわ。お天気もいいし、きっと月も綺麗よ」
るぅ姉はジーンスワークで試験的に栽培した米を挽いて米の粉まで持って来てくれたので、夜までの時間を待つ間に団子を用意した。
王太子宮の茶話室のテラスに三宝に乗せた団子を供える。ススキかわからないけど、茅みたいな稲科っぽいシュッとした植物も飾って満足する。るぅ姉は侍女さんトリオにお月見の詳細を伝えてくれていたみたいで、三宝のとなりにはきちんと穀物や野菜も供えてあった。
「五穀豊穣の祭事だと、ルリ嬢に聞いたよ」
夜のテラスは少し肌寒い。美しい化粧タイルの上に温かなカーペットを敷き詰めて、盛り盛りクッションの上で寛ぎながら、ブライト様が微笑んだ。俺はと言えば、胡座を組んだブライト様の足の間にちんまりと収まって、ぬくぬくと体温を堪能している。
ブライト様の豪奢な金髪は獅子の煌めきの名前の通りに太陽の輝きを放っているけど、柔らかな月の光の中でもキラキラしてとても綺麗だ。
「うん、将来帝国を背負って立つ方には、ぴったりのお祭りだと思う」
「そうだね」
日本で言うところの中秋の名月は、ちょうど秋の収穫が始まるころになる。収穫した野菜を神様にお供えして、月に見立てた丸い団子に神様の力を浴びさせて食べることで、身の内に取り込んでその年の豊作を祈願したんだって。ちなみにススキは神様の依代でぶっちゃけ門松と同じだ。ばあちゃんは季節の行事は大切にする人だったから、毎年同じ話を聞かされて育ったんだよ。
「ニホンには魔法はないんだろう? 神の力は信じるのかい?」
「それが日本人だから」
それしか言いようがない。本当に五穀豊穣を願って神事のように恭しく取り行っていたのは遠い昔の話で、ススキを飾る家は珍しくなったし、本来は月の光を浴びていない団子を食べても意味がないってこと、知らない人も多い。うちはばあちゃんがそこんとこ厳しかったけど、クラスメイトはその日のおやつにスーパーで買ってきた団子を食べるだけだって言ってた。
ハロウィンにカボチャ料理を食べて、クリスマスにチキンとケーキ、バレンタインにはチョコレート、それの並びに中秋の名月には月見団子。
そんな浮ついた気持ちじゃなくて、国の繁栄を祈ってお月見をしたくなった。だって俺の旦那様は、将来は大シュザネット帝国の皇帝になるんだもんな。
「今年の実りも豊かだといいね」
「今宵の月は格別に美しい。玻璃の願いも叶えてくれるよ」
「そうだね、月が綺麗だもん」
ちょっと特別な想いを込めて月を讃えると、お腹を支えてくれていたブライト様の手が、顎を掬い上げてきた。上向かされて小鳥のキスが落ちてくる。チュッチュッと繰り返しながら俺の身体が反転されて、ブライト様の太腿に跨るような格好になった。着物の裾が割れて盛大に太腿が露出する。さっきまで暖かかった背中もすぅすぅする。
「ルリ嬢から、玻璃が『月が綺麗だ』と言ったら、『死んでも良い』と答えると良いと助言を受けたよ」
るぅ姉、『死んでも良い』なんて、月関係なくなってるじゃないか。
文豪たちのI love youはとてもロマンチックだ。夏目漱石と二葉亭四迷、どっちが好きかと問われたら迷う。
「死んでも良い、とは言ったけれど、君を残しては死ねないから困ったものだね」
「ふふっ、ブライト様。月がとってもとっても綺麗ですね」
小鳥のキスを満足するまで繰り返しているうちに、なんだか可笑しくなってきてキスをやめて笑い合った。俺が先に死んだらブライト様が絶望で国を滅ぼしてしまうらしいから、冗談でも死んでも良いとは言えない。
「神様の力を分けてもらったお団子を食べて、長生きしようね」
剥き出しの足が冷えて来たのを、ブライト様の熱い手のひらが辿る。寒さとは違う震えが背中に走った。
綺麗な綺麗な月の光を浴びながら沢山キスをして、今年の豊かな実りを願う。
「お団子は⋯⋯明日でいいかな?」
「ん⋯⋯」
すぐ食べちゃうより、いっぱい月の光を浴びてた方がご利益ありそう、なんて屁理屈を自分に言い聞かせながら頷いた。
ブライト様の手が袖から入ってきて、身体を捩る。
「月が見てる⋯⋯」
抗議は聞き入れられて、俺は月の光が届かない寝室で陽が昇るまで愛されたのだった。
〈おしまい〉
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