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そう言えばの笹岡くん。
伊集院隼人 × 笹岡雄大
「うん、可愛い」
笹岡雄大の頭にするんとカチューシャをさして、伊集院隼人は満足げに頷いた。頭の上に白いウサギの耳をちょこんと乗せて、笹岡は首を傾げる。彼の恋人はいつも突拍子もなくて、笹岡の想像の外側から出来事を運んでくる。
「どうしたの、ウサギさんの耳なんか用意して」
「う、ウサギさん⋯⋯さん付けかよ、ゆーだが可愛いが過ぎて心臓がもたねぇ」
首を傾げた笹岡を見て、伊集院はがっくりと膝から崩れた。
「隼人君、具合が悪いの?」
高校生のころから何年も付き合っているのに、笹岡は相変わらず伊集院の不審な挙動にも真面目に対応する。真剣に心配する姿が益々可愛くて、伊集院は鼻の奥が熱くなるのを気合いで抑えた。気を抜いたら赤い雫が垂れてきそうだ。
「なんでもないよ。それより、ウサ耳はさ。今日の夕方から子どもたちとお月見イベントじゃん。月のウサギって子どもが喜ぶんじゃないかと思って」
ふたりは伊集院の実家が経営する『高原の山小屋』と言う、乳幼児やアレルギー持ちの子どもがいるファミリー向けの小さなホテルで仕事をしている。伊集院は実質責任者で、笹岡は大学時代に取得した幼稚園教諭と保育士の免許を活用して、母親がエステを楽しんでいる間に子どもを預かったりするサービスを請け負っている。
ターゲットが小さな子どもがいる家庭なので、イベントも大人のためのラグジュアリーなものより、お遊戯会の延長のようなノリですることが多い。
笹岡は伊集院の提案にほんにゃりと笑った。
「じゃあ、子どもたちのお耳も用意しようね」
従業員の作業室の一角で模造紙と輪ゴムを材料にして器用にウサ耳カチューシャを作る。黒い模造紙でカチューシャ部分を作ると、耳の部分はいろんな色で立体的に作っていく。笹岡がものの十五分で三十セットを作り上げるのを、伊集院はニコニコしながら見守った。従業員の一部はこの見守り行動にドン引いているが、笹岡が気にしていないので何も言わずにいてくれている。
未就学児がメインのお月見会は夕方の五時から開始した。ススキと御三方に乗った団子が飾られた会場で食事をして、デザートにお団子を食べ、虫の音をイメージした弦楽器の音色を楽しんだ。子どもたちの頭には会場の入り口で配られたウサ耳がぴーんと立っていて、とても微笑ましい。
子どもたちはキャアキャアとはしゃいで、とても楽しそうだ。保護者たちもそれなりに楽しんでいて、それを見ている笹岡もほんにゃりと笑っていてとても可愛い。
子どもが主役のお月見会は七時半にはお開きになって、会場の撤収も九時には完全に終了した。酒宴と違って子ども向けのイベントは夜遅くならないのがいい。伊集院は点検を済ませると笹岡と肩を並べてタイムカードを切った。
その夜は寝室のカーテンを開け放って、月の光を部屋中に入れた。満月は伊集院の腹の上でトロリと色を滴らせる笹岡の影を黒々と映し出した。影にはピンと耳が立っている。
「ゆーだは、可愛いねぇ」
伊集院は笹岡の胎内をタプタプにすることに尽力し、笹岡も一生懸命それに応えた。
そうして長い時間が過ぎた。疲れ果てて眠る笹岡の長いまつ毛の先で、涙の滴が月の光に照らされてキラキラと反射している。
「俺の恋人は最高だって、月に自慢したい気分だ」
伊集院は愛おしげに笹岡の身体を抱きしめて、瞳を閉じる。今夜見る夢はきっと、笹岡の夢に違いない。
〈おしまい〉
「うん、可愛い」
笹岡雄大の頭にするんとカチューシャをさして、伊集院隼人は満足げに頷いた。頭の上に白いウサギの耳をちょこんと乗せて、笹岡は首を傾げる。彼の恋人はいつも突拍子もなくて、笹岡の想像の外側から出来事を運んでくる。
「どうしたの、ウサギさんの耳なんか用意して」
「う、ウサギさん⋯⋯さん付けかよ、ゆーだが可愛いが過ぎて心臓がもたねぇ」
首を傾げた笹岡を見て、伊集院はがっくりと膝から崩れた。
「隼人君、具合が悪いの?」
高校生のころから何年も付き合っているのに、笹岡は相変わらず伊集院の不審な挙動にも真面目に対応する。真剣に心配する姿が益々可愛くて、伊集院は鼻の奥が熱くなるのを気合いで抑えた。気を抜いたら赤い雫が垂れてきそうだ。
「なんでもないよ。それより、ウサ耳はさ。今日の夕方から子どもたちとお月見イベントじゃん。月のウサギって子どもが喜ぶんじゃないかと思って」
ふたりは伊集院の実家が経営する『高原の山小屋』と言う、乳幼児やアレルギー持ちの子どもがいるファミリー向けの小さなホテルで仕事をしている。伊集院は実質責任者で、笹岡は大学時代に取得した幼稚園教諭と保育士の免許を活用して、母親がエステを楽しんでいる間に子どもを預かったりするサービスを請け負っている。
ターゲットが小さな子どもがいる家庭なので、イベントも大人のためのラグジュアリーなものより、お遊戯会の延長のようなノリですることが多い。
笹岡は伊集院の提案にほんにゃりと笑った。
「じゃあ、子どもたちのお耳も用意しようね」
従業員の作業室の一角で模造紙と輪ゴムを材料にして器用にウサ耳カチューシャを作る。黒い模造紙でカチューシャ部分を作ると、耳の部分はいろんな色で立体的に作っていく。笹岡がものの十五分で三十セットを作り上げるのを、伊集院はニコニコしながら見守った。従業員の一部はこの見守り行動にドン引いているが、笹岡が気にしていないので何も言わずにいてくれている。
未就学児がメインのお月見会は夕方の五時から開始した。ススキと御三方に乗った団子が飾られた会場で食事をして、デザートにお団子を食べ、虫の音をイメージした弦楽器の音色を楽しんだ。子どもたちの頭には会場の入り口で配られたウサ耳がぴーんと立っていて、とても微笑ましい。
子どもたちはキャアキャアとはしゃいで、とても楽しそうだ。保護者たちもそれなりに楽しんでいて、それを見ている笹岡もほんにゃりと笑っていてとても可愛い。
子どもが主役のお月見会は七時半にはお開きになって、会場の撤収も九時には完全に終了した。酒宴と違って子ども向けのイベントは夜遅くならないのがいい。伊集院は点検を済ませると笹岡と肩を並べてタイムカードを切った。
その夜は寝室のカーテンを開け放って、月の光を部屋中に入れた。満月は伊集院の腹の上でトロリと色を滴らせる笹岡の影を黒々と映し出した。影にはピンと耳が立っている。
「ゆーだは、可愛いねぇ」
伊集院は笹岡の胎内をタプタプにすることに尽力し、笹岡も一生懸命それに応えた。
そうして長い時間が過ぎた。疲れ果てて眠る笹岡の長いまつ毛の先で、涙の滴が月の光に照らされてキラキラと反射している。
「俺の恋人は最高だって、月に自慢したい気分だ」
伊集院は愛おしげに笹岡の身体を抱きしめて、瞳を閉じる。今夜見る夢はきっと、笹岡の夢に違いない。
〈おしまい〉
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