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カリスマ主婦の息子、王様を餌付けする。
王様 × パン屋の倅
秋の星林檎祭は俺とリュシー様の結婚記念日だ。秋の最初の満月が終わったあと、最初に迎える新月の夜に星を見たり林檎の料理を食べて冬に向かって風邪をひかないように願掛けをする。
星林檎祭が盛大なせいか、秋の一番美しい満月はその準備期間で気づけば過ぎ去っている。
「せっかくの美しい満月がもったいないよね」
星林檎祭の日は毎年夜会が開かれることになった。夫婦の記念日なんだから、家族でお祝いさせて欲しいんだけど、旦那様が王様じゃ仕方がない。こんなことなら思い出の星林檎祭の日に結婚式をするんじゃなかった。俺の誕生日にしておけば、誕生日祝いの夜会と一緒にできて一石二鳥だったんじゃね?
それはともかく、満月だよ。秋の最初の満月といえば、中秋の名月だよね。エスターク王国じゃ中秋とか言わないけど、月が綺麗なのは間違いない。星林檎祭が夜会のせいで家族で祝えないから、星の代わりに月を愛でよう。
「ねぇリュシー様、夜会の準備で忙しいのは理解してるんだけどさ、秋の最初の満月の夜にちょっとだけでいいからお祝いしようよ」
「お祝い?」
「うん、俺たち王様と后子でいる限り、一緒に星林檎祭のお祝いは出来ないでしょ? リューイは当日はまだ夜会に参加しないから、ひとりでお祝いのお料理を食べることになるじゃない」
「そうか、それは寂しがらせるな」
リュシー様は微笑んで賛成してくれた。最近ちょっと忙しくて居間のソファーでのんびりお話しする時間がない。眠る前の少しの時間、ベッドで寝そべるリュシー様の胸にもたれて言葉を交わす。
やっぱりお月見にはお団子とススキだよね。お団子はリューイと一緒に作ろうかな、とか、お月見の日のご馳走ってなんだっけ、とか、楽しいことを考えていたらリュシー様の体温がぬくぬくして眠ってしまった。
そうして迎えた満月の日は、昼間にリューイとその学友たちと一緒にお団子とスイートポテトを作った。子どもたち、お餅っぽいもの食べたことないみたいだから、スイートポテトは保険だね。中秋の名月は芋名月とも呼ばれてサツマイモやサトイモを供えるらしいから、お芋を使ったおやつといえば⋯⋯で、スイートポテトだ。
スイートポテトをオーブンで焼いている間、子どもたちは真面目な表情でお団子を丸めている。ひびが入らないよう注意してねって事前に言ったから、みんな真剣だ。
「みんな上手! お団子は茹でるよ。ぐらぐらさせたお湯は熱いから、火傷に気をつけてね」
「はぁい」
子どもたちのお返事は、いつも可愛い。
「エルぅ。エルはどうして、おいしいもののつくりかた、いっぱい知ってるの?」
リューイがにこにこして質問してきた。カリスマ主婦仕込みだけれど、それは内緒。
「それはねぇ、大好きなみんなに美味しいものをいっぱい食べて欲しいからだよ」
「このまえ、こじいんの人が、エルフィンさまは、ようせいさまだからって言ってたよ」
「それなら、おいしいものをたくさん知ってるの、とうぜんですね」
フレッド君、なにを言い出すかな? そしてナサニエル君、当然なんて難しい言葉で納得しないでくれるかな?
この一年でリューイはお昼寝をしなくなった。昼間に学友とはしゃいで夕食後にバルコニーから満月をみてはしゃぐという、いつもよりちょっぴり体力を使うことをしたので、ダリウスに秘密基地に連れて行かれるとすぐに眠ってしまった。
可愛い寝顔を眺めていたら、リュシー様が俺の肩にケープを掛けてくれた。
「星林檎祭もだけれど、はじめての結婚記念日もふたりで祝えないのは寂しいからね」
そう言って中庭に誘われた。煌々と照る乳白色の月光は洋燈の灯りなんて必要としないほどに明るい。二年前の求婚の夜は新月で、洋燈の柔らかなオレンジ色の光が足元を照らしてくれていたけれど、それとは違う美しさに胸が詰まった。
リュシー様に手を引かれて中庭の真ん中に立つ。夜の芝生が月光に照らされて、黒猫の背中みたいな艶を放っている。
「月影の中で見るフィンは、美しいね」
いつもは可愛らしいのにね、と囁かれた。結婚してもうすぐ一年。数え切れないほど夜を過ごしてきたのに、リュシー様の甘やかなとろみを帯びた声に腰が抜けそうになる。
「⋯⋯リュシー様のほうが綺麗だよ」
銀髪が月光を弾いて眩いくらいだ。思わず目を細めると、リュシー様が覆い被さってきて唇が塞がれた。チュッチュと何度か可愛らしい音がして離れる。
「目を閉じて待ってるなんて、誘ってくれてるの?」
いや、違うし。眩しかっただけだし。
でも、結婚記念日の代わりだから。
俺は少しだけ上を向いて、もう一度目を閉じた。
唇は落ちてこなかった。
「ひゃあッ」
変な声が出たのは仕方がない。リュシー様が俺の膝裏を掬って抱き上げたからだ。目を閉じてるときにそんなことされたら、誰だって驚く。
そうしてあれよという間に寝室に連れ込まれて。
あとは。
どろんどろんのぐっちゃんぐっちゃん。
〈おしまい〉
秋の星林檎祭は俺とリュシー様の結婚記念日だ。秋の最初の満月が終わったあと、最初に迎える新月の夜に星を見たり林檎の料理を食べて冬に向かって風邪をひかないように願掛けをする。
星林檎祭が盛大なせいか、秋の一番美しい満月はその準備期間で気づけば過ぎ去っている。
「せっかくの美しい満月がもったいないよね」
星林檎祭の日は毎年夜会が開かれることになった。夫婦の記念日なんだから、家族でお祝いさせて欲しいんだけど、旦那様が王様じゃ仕方がない。こんなことなら思い出の星林檎祭の日に結婚式をするんじゃなかった。俺の誕生日にしておけば、誕生日祝いの夜会と一緒にできて一石二鳥だったんじゃね?
それはともかく、満月だよ。秋の最初の満月といえば、中秋の名月だよね。エスターク王国じゃ中秋とか言わないけど、月が綺麗なのは間違いない。星林檎祭が夜会のせいで家族で祝えないから、星の代わりに月を愛でよう。
「ねぇリュシー様、夜会の準備で忙しいのは理解してるんだけどさ、秋の最初の満月の夜にちょっとだけでいいからお祝いしようよ」
「お祝い?」
「うん、俺たち王様と后子でいる限り、一緒に星林檎祭のお祝いは出来ないでしょ? リューイは当日はまだ夜会に参加しないから、ひとりでお祝いのお料理を食べることになるじゃない」
「そうか、それは寂しがらせるな」
リュシー様は微笑んで賛成してくれた。最近ちょっと忙しくて居間のソファーでのんびりお話しする時間がない。眠る前の少しの時間、ベッドで寝そべるリュシー様の胸にもたれて言葉を交わす。
やっぱりお月見にはお団子とススキだよね。お団子はリューイと一緒に作ろうかな、とか、お月見の日のご馳走ってなんだっけ、とか、楽しいことを考えていたらリュシー様の体温がぬくぬくして眠ってしまった。
そうして迎えた満月の日は、昼間にリューイとその学友たちと一緒にお団子とスイートポテトを作った。子どもたち、お餅っぽいもの食べたことないみたいだから、スイートポテトは保険だね。中秋の名月は芋名月とも呼ばれてサツマイモやサトイモを供えるらしいから、お芋を使ったおやつといえば⋯⋯で、スイートポテトだ。
スイートポテトをオーブンで焼いている間、子どもたちは真面目な表情でお団子を丸めている。ひびが入らないよう注意してねって事前に言ったから、みんな真剣だ。
「みんな上手! お団子は茹でるよ。ぐらぐらさせたお湯は熱いから、火傷に気をつけてね」
「はぁい」
子どもたちのお返事は、いつも可愛い。
「エルぅ。エルはどうして、おいしいもののつくりかた、いっぱい知ってるの?」
リューイがにこにこして質問してきた。カリスマ主婦仕込みだけれど、それは内緒。
「それはねぇ、大好きなみんなに美味しいものをいっぱい食べて欲しいからだよ」
「このまえ、こじいんの人が、エルフィンさまは、ようせいさまだからって言ってたよ」
「それなら、おいしいものをたくさん知ってるの、とうぜんですね」
フレッド君、なにを言い出すかな? そしてナサニエル君、当然なんて難しい言葉で納得しないでくれるかな?
この一年でリューイはお昼寝をしなくなった。昼間に学友とはしゃいで夕食後にバルコニーから満月をみてはしゃぐという、いつもよりちょっぴり体力を使うことをしたので、ダリウスに秘密基地に連れて行かれるとすぐに眠ってしまった。
可愛い寝顔を眺めていたら、リュシー様が俺の肩にケープを掛けてくれた。
「星林檎祭もだけれど、はじめての結婚記念日もふたりで祝えないのは寂しいからね」
そう言って中庭に誘われた。煌々と照る乳白色の月光は洋燈の灯りなんて必要としないほどに明るい。二年前の求婚の夜は新月で、洋燈の柔らかなオレンジ色の光が足元を照らしてくれていたけれど、それとは違う美しさに胸が詰まった。
リュシー様に手を引かれて中庭の真ん中に立つ。夜の芝生が月光に照らされて、黒猫の背中みたいな艶を放っている。
「月影の中で見るフィンは、美しいね」
いつもは可愛らしいのにね、と囁かれた。結婚してもうすぐ一年。数え切れないほど夜を過ごしてきたのに、リュシー様の甘やかなとろみを帯びた声に腰が抜けそうになる。
「⋯⋯リュシー様のほうが綺麗だよ」
銀髪が月光を弾いて眩いくらいだ。思わず目を細めると、リュシー様が覆い被さってきて唇が塞がれた。チュッチュと何度か可愛らしい音がして離れる。
「目を閉じて待ってるなんて、誘ってくれてるの?」
いや、違うし。眩しかっただけだし。
でも、結婚記念日の代わりだから。
俺は少しだけ上を向いて、もう一度目を閉じた。
唇は落ちてこなかった。
「ひゃあッ」
変な声が出たのは仕方がない。リュシー様が俺の膝裏を掬って抱き上げたからだ。目を閉じてるときにそんなことされたら、誰だって驚く。
そうしてあれよという間に寝室に連れ込まれて。
あとは。
どろんどろんのぐっちゃんぐっちゃん。
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