6 / 7
神の末裔は褥に微睡む。
堅物将軍(今は王様) × 美少年(中身おっさん)
シュトレーゼンの建築中の城が満月にぽっかり浮かび上がっている。前世と違って夜は闇に包まれるから、月光が怖いくらいに明るく見える。
つか、建設中の城と満月って、カッコ良くね? 廃墟とか工場の夜景もいいけど、ヨーロッパの城っぽい建築現場なんて、前世じゃ見ることが叶わないからな。うわ、なんか血湧き肉躍ってきた。
ちょっと探検でもしてみようかな。
とは言え、仮にも王妃がフラフラと夜中に外出など出来るわけがない。たとえ生まれ育った長閑な田舎だとしても、事前の根回しは必要だろう。
「でも明日になったら満月じゃないしなぁ。しょうがない、テラスで月見酒でもいっとくか」
⋯⋯この身体で、酒を飲んだことがないけど。
エーレィエン王国ではとっくに成人だし、年齢による飲酒の規制はないけれど、なんとなく『お酒は二十歳になってから』という意識が働く。前世はアラフィフのおっさんだったしアリスレアの身体も二十歳を越えた。そろそろ飲酒を解禁してみようか?
ちょうど旦那が風呂から出てきたので、月見で一杯やらないかと誘ってみた。
「どうしたんだ? アリスから酒に誘われるなんてはじめてだな」
こら、びっくり眼でナチュラルに抱き上げるな。
「おっさんだったときは普通に飲んでたよ。窓から見えた城と満月が風流でさ、なんとなく一杯やりたくなったんだ。ただ、アリスレアの身体で飲んだことないから、ジェムが一緒にいてくれてるときのがいいかなって思って」
西洋人に下戸はいないというのが通説だけど、この身体は西洋人じゃなくて異世界人だ。飲んでみなきゃ下戸かどうかわからないしな。
「そういうことなら、付き合おう」
俺たちの会話を聞いていた出来る侍従官のシュリが、ささっとテラスに酒席を整えてくれた。昼間は夏の名残で暑いけど、日が落ちると途端に肌寒くなる初秋。神子返りの小柄な身体はつい最近まで将軍だった男の逞しい胸を背もたれにしている。
ジェムの手には彼の好きな蒸留酒があって、俺には甘い果実酒が用意された。薄める為の発泡水と和らぎ水も並べてあってシュリの気遣いを感じた。後ろで控えるシュリに視線でお礼を伝えると、柔らかい微笑みが返ってきた。
ちびりと飲む。
梅酒とか杏酒とかの漬け込み系だな。甘くて爽やかな中に、確かなアルコールを感じる。これ、サワーにしたほうが好きだ。発泡水を入れるとしゅわしゅわと泡が弾けて、飲みやすくなった。
「ほわぁ、お酒だぁ」
「そりゃアリスが酒を飲もうと言ったものな」
俺の間抜けな感想にジェムは目を細めた。
「月は綺麗だし、お酒は美味しいし、旦那は男前だし、すっごい幸せ」
つい最近まで、生きるか死ぬかの大騒動をしていたのが夢みたいだ。
卓に並べられた葡萄を一粒口に入れると、果実酒に負けない甘味が広がった。程よく冷えていて美味しい。チーズがキューブに切ってあったので、それも口の中に放り込む。テラスに分厚い絨毯をひいて半分寝そべってお酒を楽しむなんて、風流を通り越してひどい贅沢だ。
ふわふわして楽しい。
「はい、ジェム。あーんして」
指で摘んだ葡萄をジェムの口に持っていく。とても美味しかったから、ジェムにも食べて欲しくなった。
「悪い子だな」
「なにが?」
よくわからない返答をして、ジェムは俺の手首を掴んで口を開けた。葡萄と一緒におれの指先も口に含まれた。
「やっ」
「旨いな」
指先を舌でくすぐってから離れていく。
「いつものジェムの飲んでる量より断然少ないのに、もう酔っ払ってんのかよ」
恥ずかしさを振り払うように、ジェムの顎をグイグイ押しやるけど、神子返りの非力な腕じゃびくともしない。
「妻が可愛くて堪らないだけだ」
「馬鹿なこと言ってないで、月を愛でろよ。せっかくの月見酒なのに、俺ばっかり見てるんじゃないよ」
「月も月に照らされる城も美しいが、アリスが一番美しい」
絶句。
ジェムはおべっかとか忖度とか言う言葉を知らないんじゃないかって言うほど、堅物だと思う。そして、言葉を惜しまない。
つまりジェムが俺のことを一番美しいと言うのなら、それは心の底からそう思っていると言うことだ。いつも言われるので耐性がついたと思っていたけど、月影の下で逞しい胸にもたれて聞くと効果は抜群だ。
「⋯⋯恥ずかしいんだよ、この野郎」
恥ずかしさを紛らわすように、グラスの中の果実酒を煽ったら、発泡水にむせた。
「無理しないで。はじめての酒なんだろう?」
大きな手のひらが背中をさすってくれる。ケホケホするのはしばらくして治った。生理的な涙が滲む目でジェムを見上げる。取り敢えず背中をさすってくれた礼を言わねば。
と思ったのに。
言葉はジェムの口の中に消えた。
「あなたが美しすぎるのがいけない」
ふたたび唇が塞がれて、酒の代わりにジェムの唾液を飲み込む羽目になった。
あれ?
月見酒、強制終了?
俺はジェムに夫婦の寝室に連れ込まれて、神の甘露も飲んでないのにどろどろに蕩かされたのだった。
〈おしまい〉。
シュトレーゼンの建築中の城が満月にぽっかり浮かび上がっている。前世と違って夜は闇に包まれるから、月光が怖いくらいに明るく見える。
つか、建設中の城と満月って、カッコ良くね? 廃墟とか工場の夜景もいいけど、ヨーロッパの城っぽい建築現場なんて、前世じゃ見ることが叶わないからな。うわ、なんか血湧き肉躍ってきた。
ちょっと探検でもしてみようかな。
とは言え、仮にも王妃がフラフラと夜中に外出など出来るわけがない。たとえ生まれ育った長閑な田舎だとしても、事前の根回しは必要だろう。
「でも明日になったら満月じゃないしなぁ。しょうがない、テラスで月見酒でもいっとくか」
⋯⋯この身体で、酒を飲んだことがないけど。
エーレィエン王国ではとっくに成人だし、年齢による飲酒の規制はないけれど、なんとなく『お酒は二十歳になってから』という意識が働く。前世はアラフィフのおっさんだったしアリスレアの身体も二十歳を越えた。そろそろ飲酒を解禁してみようか?
ちょうど旦那が風呂から出てきたので、月見で一杯やらないかと誘ってみた。
「どうしたんだ? アリスから酒に誘われるなんてはじめてだな」
こら、びっくり眼でナチュラルに抱き上げるな。
「おっさんだったときは普通に飲んでたよ。窓から見えた城と満月が風流でさ、なんとなく一杯やりたくなったんだ。ただ、アリスレアの身体で飲んだことないから、ジェムが一緒にいてくれてるときのがいいかなって思って」
西洋人に下戸はいないというのが通説だけど、この身体は西洋人じゃなくて異世界人だ。飲んでみなきゃ下戸かどうかわからないしな。
「そういうことなら、付き合おう」
俺たちの会話を聞いていた出来る侍従官のシュリが、ささっとテラスに酒席を整えてくれた。昼間は夏の名残で暑いけど、日が落ちると途端に肌寒くなる初秋。神子返りの小柄な身体はつい最近まで将軍だった男の逞しい胸を背もたれにしている。
ジェムの手には彼の好きな蒸留酒があって、俺には甘い果実酒が用意された。薄める為の発泡水と和らぎ水も並べてあってシュリの気遣いを感じた。後ろで控えるシュリに視線でお礼を伝えると、柔らかい微笑みが返ってきた。
ちびりと飲む。
梅酒とか杏酒とかの漬け込み系だな。甘くて爽やかな中に、確かなアルコールを感じる。これ、サワーにしたほうが好きだ。発泡水を入れるとしゅわしゅわと泡が弾けて、飲みやすくなった。
「ほわぁ、お酒だぁ」
「そりゃアリスが酒を飲もうと言ったものな」
俺の間抜けな感想にジェムは目を細めた。
「月は綺麗だし、お酒は美味しいし、旦那は男前だし、すっごい幸せ」
つい最近まで、生きるか死ぬかの大騒動をしていたのが夢みたいだ。
卓に並べられた葡萄を一粒口に入れると、果実酒に負けない甘味が広がった。程よく冷えていて美味しい。チーズがキューブに切ってあったので、それも口の中に放り込む。テラスに分厚い絨毯をひいて半分寝そべってお酒を楽しむなんて、風流を通り越してひどい贅沢だ。
ふわふわして楽しい。
「はい、ジェム。あーんして」
指で摘んだ葡萄をジェムの口に持っていく。とても美味しかったから、ジェムにも食べて欲しくなった。
「悪い子だな」
「なにが?」
よくわからない返答をして、ジェムは俺の手首を掴んで口を開けた。葡萄と一緒におれの指先も口に含まれた。
「やっ」
「旨いな」
指先を舌でくすぐってから離れていく。
「いつものジェムの飲んでる量より断然少ないのに、もう酔っ払ってんのかよ」
恥ずかしさを振り払うように、ジェムの顎をグイグイ押しやるけど、神子返りの非力な腕じゃびくともしない。
「妻が可愛くて堪らないだけだ」
「馬鹿なこと言ってないで、月を愛でろよ。せっかくの月見酒なのに、俺ばっかり見てるんじゃないよ」
「月も月に照らされる城も美しいが、アリスが一番美しい」
絶句。
ジェムはおべっかとか忖度とか言う言葉を知らないんじゃないかって言うほど、堅物だと思う。そして、言葉を惜しまない。
つまりジェムが俺のことを一番美しいと言うのなら、それは心の底からそう思っていると言うことだ。いつも言われるので耐性がついたと思っていたけど、月影の下で逞しい胸にもたれて聞くと効果は抜群だ。
「⋯⋯恥ずかしいんだよ、この野郎」
恥ずかしさを紛らわすように、グラスの中の果実酒を煽ったら、発泡水にむせた。
「無理しないで。はじめての酒なんだろう?」
大きな手のひらが背中をさすってくれる。ケホケホするのはしばらくして治った。生理的な涙が滲む目でジェムを見上げる。取り敢えず背中をさすってくれた礼を言わねば。
と思ったのに。
言葉はジェムの口の中に消えた。
「あなたが美しすぎるのがいけない」
ふたたび唇が塞がれて、酒の代わりにジェムの唾液を飲み込む羽目になった。
あれ?
月見酒、強制終了?
俺はジェムに夫婦の寝室に連れ込まれて、神の甘露も飲んでないのにどろどろに蕩かされたのだった。
〈おしまい〉。
あなたにおすすめの小説
契約結婚だけど大好きです!
泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。
そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。
片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。
しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。
イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。
......
「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」
彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。
「すみません。僕はこれから用事があるので」
本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。
この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。
※小説家になろうにも掲載しております
※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!