少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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宝石姫とは誰だろう。

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 柔らかな午後の日差し、真っ白なテーブルクロス、繊細なカーブを描くティーカップのお茶はとってもいい香りがする。大好きな大兄様おおにいさまのお膝の上で、カップの縁にくちびるをつけた瞬間。

 お膝抱っこでアフタヌーンティーだとぉ?

 いきなり我に返った。
 
 エレガントな午後のお茶の席には、エレガントな人々が似合うと思う。例えば向かいに座る三兄様さんのにいさまはさわやかな騎士様で、その隣の次兄様つぎのにいさまは儚い美人。反対側には男臭い美形の従兄がいて、私を膝に乗せているのは……。

 振り返って見ると、そこには色気を滴らせた大兄様がいた。

 何が起こった?

 今日の安息日は久々に兄様たちが全員揃って、従兄もたまたま遊びに来てて、お茶を一緒にどうかと誘われて、そんでもって何の疑問もなく大兄様の膝に乗せてもらったんだ。

 そう、何の疑問もなく!

 ないわー。 

 何で私の兄様たちが、こんな美形なの。そもそも人種が違うでしょ。金髪で碧の瞳で明らかに白人で東洋人の要素がまるでない。第一私より年下の兄って、なんなんだ。

 ん、年下?

 いや私、五歳児だよね。

 三兄様の十歳下で、四兄弟の末っ子で、女の子は私だけ。なのに何で、こんなこと考えているんだろう。我ながらこんな五歳児イヤだ⋯⋯っていう思考がおかしい。

「どうしたの?」

  耳元で色気の滴る甘い声がした。大兄様が突然固まった妹にびっくりして、心配気に眉を顰めている。

「お茶が熱かったの? 私の愛しい薔薇の宝石」
「それは大変だ、俺の薔薇姫。冷たい果実水で冷やさなければ」
「何がお前のだ、従兄の分際で。薔薇姫はうちの大事な妹だ」

 向かいから次兄様たちも身を乗り出している。

 薔薇の宝石?

 薔薇姫って誰やねん⋯⋯って私か!

 そんな馬鹿な。薔薇な要素がどこにある。昭和顔って言われ続けたが、かろうじて平成生まれの日本人を薔薇なんかに例えるな。こっぱずかしくて穴があったら入りたいわ‼︎

 昭和?
 日本人?
 なにそれ?

 回る回る、ぐるぐる。

「薔薇姫?」
「薔薇姫、気分が悪いの?」
「お医者様を呼ぼう!」

 ぐるぐる、ぐるぐる。
 遠くで兄様たちの声がする。

 ガシャーーーン!

 何の音?  

 あ、カップ落としちゃった。
 綺麗な花模様だったのに。

「宝石姫! 火傷は⁉︎」
「誰かいるか⁉︎ 早く着替えを!」

 また新しいの出たなぁ。宝石姫かぁ。
 ぐるぐるぐるぐる。

 そのまますうっと意識が遠のいた。

 目が覚めたら、自室のベッドの上だった。
 やっちまったぜ、異世界転生。

 ギリ昭和じゃない生まれの日本人、地方から上京して就職して、結婚はしてたかな~? ちょっと曖昧だわ、そこらへん。

 趣味は主婦雑誌の節約術と収納術を試すこと。片付け収納断捨離のムック本が既にゴミ。まさに本末転倒。

 誰だ、あるある~とか言った奴。

 それはさて置き、情報を収集せねばなるまい。
 
 まず、自分の名前が分からない。別にこの身体の記憶がないわけじゃない。ただ産まれた瞬間の記憶やら、細かな情報がないのよ。

 五歳なのはわかる。先週お誕生日のお祝いしてもらったもん。けど、それ以外が五歳児の思い出だからさぁ。

 父様は『父様』だし母様は『母様』、兄様たちは上から順番に『大兄様』『次兄様』『三兄様』。

 辛うじて従兄が『アル従兄様』。従兄いっぱいいるから名前も付けなきゃ区別がつかない。それだって愛称だからアルの続きは分からない。

 自分の名前に至っては『薔薇の宝石』『薔薇姫』『宝石姫』。絶対本名にかすってないよね!

 いいお家のお嬢様なのは確か。

 見慣れた自室は白ベースにピンクとグリーンと小花で甘々コーデ、ベッドだってマットはフカフカでクッション盛り盛り。お茶してた時のテーブルセットだって、芸術品みたいなカップ&ソーサーで、女の子が喜びそうなお菓子がキラキラしてた。

 そんな訳でベッドの上で呆然としていたら、様子を見に来たメイドさんが母様を呼んできて、呼んでもいない兄様たちが乱入し、部屋に入れてもらえない従兄様が廊下でわちゃわちゃしてて収拾がつかなくなって。結局、男どもは全員メイドさんに追い払われた。

 メイドさん強い。

 そしてこの強いメイドさんにお世話されつつ、家族の愛情に包まれてすくすく成長した私は、じっくりゆっくり情報を収集したのだった。
 
 
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