2 / 87
薔薇ったら、薔薇。
しおりを挟む
そして十年。
当時の三兄様と同じ十五歳になった私、ロージー・ローズは自分の名前にいささか思うところがある。
無駄に派手で、自己主張が強すぎる。地味で平凡な容姿は完全に名前負けだと思う。
ロージー・ローズは愛称だ。
正式な名前は、ロザリア・ロザモンド・ロザリンデ・ローゼウス。
大陸の大部分を占める帝国の中でも、有力な貴族であるローゼウス辺境伯爵家の娘だった。
ローゼウス家はここ数代、男ばかりが生まれていた。跡取りとそのスペアには全く困らなかったけど、婚姻や報償の手駒になる娘がいなかった。最後の女の子の記録が、曾々お祖父様の後妻の連れ子ってどうなの。実子の記録はさらに五代遡って七歳で夭折。
そりゃ大事にされるよ。薔薇姫で宝石姫だよ。蝶よ花よと真綿でくるんで、大事に大事に育てられますとも。娘は手駒? そんなワケあるか。ウチの天使は嫁になんてやらん。
それが私、ロージー・ローズである。
薔薇薔薇薔薇薔薇、薔薇ったら薔薇だ。
せめて火薔薇のごとき艶やかな容姿だったり、野薔薇のごとき可憐な容姿だったりしたら諦めもついたんだけどさぁ。
色気で大兄様に劣り、儚げな風情は完全に次兄様に軍配があがる。三兄様は男っぽいから置いておいたとしても、父方の従兄弟連中よりどりみどり、タイプの違う美形揃いだ。
例え金髪碧眼の見てくれが、昭和顔の何百倍も可愛かろうと、目の前のエフェクト背負った美形の集団の前ではひれ伏すしかないわ!
ぽ◯ちゃん人形(知育お世話人形)とジュモー(アンティークドール)くらい違うわよ!
ローゼウスの至宝、薔薇の宝石。
ロージー・ローズに向かって真顔で囁くが、ちゃんちゃらおかしい。一族の男どもは目と頭の機能を損なっている。
心の底からそう思う。
そして、疲れはてていた。美しすぎる兄たちの過保護っぷりに。
三姉妹の真ん中育ちの母様と、五歳の時からそばにいるスーパーメイドさんがいなかったら、私はとんでもないワガママ娘に育ったに違いない。
だから迷わなかった。
「私、帝都の学院に魔法を習いに行くから!」
きっぱりと言い切った末の子に、慌てふためいたのはローゼウス家の男たちである。
「 可愛い可愛い薔薇姫が、領地を出るなんてありえない! 」
「ひとりで帝都などに足を踏み入れるなんて、その瞬間に人攫いに拐かされてしまうよ!」
帝都がどんなに恐ろしいところなのか、世の中の男どもがどんなに野蛮なのか、兄様たちは切々と訴えた。
けれども兄様たちが語れば語るほどに、私の決意はより強固になった。
帝都の学院は基本的に誰でも入れる。基準年齢に達していて試験にさえ合格すれば、国籍も性別も身分も問わないと、学則に明記されている。
ちなみに試験は領地ですでに受けた。帝国って広いから、地方の領民は地方会場で試験して合否通知を受ける。
多分領地によって試験日もマチマチじゃないかなぁ。
試験問題の漏洩?
後の日程のが有利?
ないない。一番早い情報伝達方法が宮廷魔術師の伝令魔法で、その次が騎士団の早馬⋯⋯それも伝令のためだけに訓練してる馬術のプロ。そんな国の重要機関に不正の片棒担がせるなんて無理っしょ。
早速、入学許可証と入寮許可証、そして着替えを適当にトランクに詰めて屋敷を出る。父様は仕事に出てるので手紙を書いて家宰に預けておく。
父様がいたら今生の別れみたいな愁嘆場が引き起こされるに決まってる。家宰も然もありなん、て顔して頷いてたからね。
「せめて、父上が戻られるまで待たないか?」
「誰か父上に伝令を!」
兄様たちの時間稼ぎが始まったわ。この調子で十五年、大事に大事にされてきたけどねぇ、可愛い子には旅をさせろって言うじゃない。
世間知らずなパープーに育ててどうするつもりよ。中身がおばちゃんじゃなかったら、とっくに勘違いして「私の言うことをお聞きなさいっ」てなことを言う、勘違いお嬢さまに育ってたわよ。母様とスーパーメイドさんだって、サジ投げてたんじゃないかしら?
「あぁそうだ。この間森で綺麗な兎を見たんだ。捕まえてプレゼントしよう!」
三兄様、そう言うとこよ!
物で釣るな!
「野生の動物は野生のままが、いちばん美しいんですのよ」
スーパーメイドさんに教わった、虫けらを見るような視線を試してみた。三兄様が絶望感を漂わせてガックリと膝をついた。あら、意外と効果あり?
そして私はトドメにつぶやいた。
「兄様たち、ウザい」
かくして、麗しい兄たちが妹からのウザい認定に魂を抜かれている隙に、私は母様とスーパーメイドさんに支度を手伝ってもらって、さっさと王都へ向かって出奔ーーーー否、出発したのであった。
当時の三兄様と同じ十五歳になった私、ロージー・ローズは自分の名前にいささか思うところがある。
無駄に派手で、自己主張が強すぎる。地味で平凡な容姿は完全に名前負けだと思う。
ロージー・ローズは愛称だ。
正式な名前は、ロザリア・ロザモンド・ロザリンデ・ローゼウス。
大陸の大部分を占める帝国の中でも、有力な貴族であるローゼウス辺境伯爵家の娘だった。
ローゼウス家はここ数代、男ばかりが生まれていた。跡取りとそのスペアには全く困らなかったけど、婚姻や報償の手駒になる娘がいなかった。最後の女の子の記録が、曾々お祖父様の後妻の連れ子ってどうなの。実子の記録はさらに五代遡って七歳で夭折。
そりゃ大事にされるよ。薔薇姫で宝石姫だよ。蝶よ花よと真綿でくるんで、大事に大事に育てられますとも。娘は手駒? そんなワケあるか。ウチの天使は嫁になんてやらん。
それが私、ロージー・ローズである。
薔薇薔薇薔薇薔薇、薔薇ったら薔薇だ。
せめて火薔薇のごとき艶やかな容姿だったり、野薔薇のごとき可憐な容姿だったりしたら諦めもついたんだけどさぁ。
色気で大兄様に劣り、儚げな風情は完全に次兄様に軍配があがる。三兄様は男っぽいから置いておいたとしても、父方の従兄弟連中よりどりみどり、タイプの違う美形揃いだ。
例え金髪碧眼の見てくれが、昭和顔の何百倍も可愛かろうと、目の前のエフェクト背負った美形の集団の前ではひれ伏すしかないわ!
ぽ◯ちゃん人形(知育お世話人形)とジュモー(アンティークドール)くらい違うわよ!
ローゼウスの至宝、薔薇の宝石。
ロージー・ローズに向かって真顔で囁くが、ちゃんちゃらおかしい。一族の男どもは目と頭の機能を損なっている。
心の底からそう思う。
そして、疲れはてていた。美しすぎる兄たちの過保護っぷりに。
三姉妹の真ん中育ちの母様と、五歳の時からそばにいるスーパーメイドさんがいなかったら、私はとんでもないワガママ娘に育ったに違いない。
だから迷わなかった。
「私、帝都の学院に魔法を習いに行くから!」
きっぱりと言い切った末の子に、慌てふためいたのはローゼウス家の男たちである。
「 可愛い可愛い薔薇姫が、領地を出るなんてありえない! 」
「ひとりで帝都などに足を踏み入れるなんて、その瞬間に人攫いに拐かされてしまうよ!」
帝都がどんなに恐ろしいところなのか、世の中の男どもがどんなに野蛮なのか、兄様たちは切々と訴えた。
けれども兄様たちが語れば語るほどに、私の決意はより強固になった。
帝都の学院は基本的に誰でも入れる。基準年齢に達していて試験にさえ合格すれば、国籍も性別も身分も問わないと、学則に明記されている。
ちなみに試験は領地ですでに受けた。帝国って広いから、地方の領民は地方会場で試験して合否通知を受ける。
多分領地によって試験日もマチマチじゃないかなぁ。
試験問題の漏洩?
後の日程のが有利?
ないない。一番早い情報伝達方法が宮廷魔術師の伝令魔法で、その次が騎士団の早馬⋯⋯それも伝令のためだけに訓練してる馬術のプロ。そんな国の重要機関に不正の片棒担がせるなんて無理っしょ。
早速、入学許可証と入寮許可証、そして着替えを適当にトランクに詰めて屋敷を出る。父様は仕事に出てるので手紙を書いて家宰に預けておく。
父様がいたら今生の別れみたいな愁嘆場が引き起こされるに決まってる。家宰も然もありなん、て顔して頷いてたからね。
「せめて、父上が戻られるまで待たないか?」
「誰か父上に伝令を!」
兄様たちの時間稼ぎが始まったわ。この調子で十五年、大事に大事にされてきたけどねぇ、可愛い子には旅をさせろって言うじゃない。
世間知らずなパープーに育ててどうするつもりよ。中身がおばちゃんじゃなかったら、とっくに勘違いして「私の言うことをお聞きなさいっ」てなことを言う、勘違いお嬢さまに育ってたわよ。母様とスーパーメイドさんだって、サジ投げてたんじゃないかしら?
「あぁそうだ。この間森で綺麗な兎を見たんだ。捕まえてプレゼントしよう!」
三兄様、そう言うとこよ!
物で釣るな!
「野生の動物は野生のままが、いちばん美しいんですのよ」
スーパーメイドさんに教わった、虫けらを見るような視線を試してみた。三兄様が絶望感を漂わせてガックリと膝をついた。あら、意外と効果あり?
そして私はトドメにつぶやいた。
「兄様たち、ウザい」
かくして、麗しい兄たちが妹からのウザい認定に魂を抜かれている隙に、私は母様とスーパーメイドさんに支度を手伝ってもらって、さっさと王都へ向かって出奔ーーーー否、出発したのであった。
5
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる