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家庭訪問は波乱の幕開け。
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「娘はやらん!」
玄関開けたら三秒で怒鳴られた。
父様を先頭にローゼウス家の男が三人、仁王立ちで待っていた。騎士団から先触れが来ていたらしい。
「お嬢さんをいただきに参ったのではありません」
「むうっ、それはそれで腹が立つ!」
ザシャル先生は挨拶すらない父様に冷静に応えを返し、父様はさらにエキサイトした。
「お久しぶりです、父様。今の時期、帝都にいらっしゃるとは思いませんでしたわ。領地の経営はいかがなさいました?」
従兄弟に丸投げして私を追いかけてきたのは三兄様に聞いてたけど、ちょっとくらいチクリとしてもいいわよね。
「この方は、私が教えを請うている学院の先生です。挨拶もなさらず怒鳴りつけるのは失礼です」
父様だけでなく、大兄様と次兄様もちょっと怯んだ。三人揃って金髪に緑の瞳が美しい。
「父が失礼した。応接室へご案内しよう」
大兄様が、非礼の全てを父様のせいにして取り繕った。アナタも一緒に仁王立ちしてたでしょ!色っぽい垂れ目でザシャル先生を見るのやめてよね!
色っぽい大兄様と清楚で可憐な次兄様は、私に縁談が来ると相手を誘惑しにいくのよ。引っかかった男は私の旦那様になる価値はないのですって。
ザシャル先生は大兄様の色っぽい視線をスルーして、私に向かって「こちらですか?」と確認してきた。眠そうな目元は大兄様の色気に怯んだ様子もない。さすが守護龍殿に説教をかましたお人だわ。
ゾロゾロと応接室へ移動して腰を落ち着ける。主人の席に父様、左右のソファーに分かれて、大兄様と次兄様が並んで座って、ザシャル先生と私が並んだ。三兄様は先生の斜め後ろに立っている。まだ仕事中って言うアピールね。
改めてザシャル先生は父様たちに挨拶をして、自分が私を伴ってローゼウス家にきたのかを説明した。
「知識の宝珠⋯⋯。うちの娘が⋯⋯」
父様が呆然として言った。それはなんだと言わないあたり、存在は知っているのね。
「なんと言うことだ! 十五年前の自分を褒めてやりたい」
いきなりなにを言ってるの、父様⁈
「よくぞ薔薇の宝石と名付けた、私よ!」
「父上! そうです、宝珠に相応しい名前です! 我らが薔薇の宝石は、名付けられるべくして名付けられたのです!」
過去世の記憶があるなんて、気持ち悪いかもとか、迫害対象だったらどうしようとか、ネガティブだった十年前の私、いらない心配だったみたいよ。
この世界にはない知識を持つ過去世持ちは、見出されると保護されるものらしい。衛生の概念やギルドの創立は過去世持ちの知識がもたらしたんだって。⋯⋯ギルド? 仲間な過去世持ちがいたわね?
「皆さんもご存知の通り、魔術を行使するためには聖句が必要です。事細かに求める事象を表しつつ、精霊と力そのものに感謝の意を伝えるため、美辞麗句を並べ立てる必要があります」
先生、美辞麗句って、身も蓋もないです!
「その点、過去世の記憶を持つ者、特に、意味を込めた文字を使う文化圏に育った者は、その文字ひとつで聖句を成り立たせることができるのです」
漢字圏からきた過去世持ちね。
「ローゼウス卿、指の先に小さな炎をともしてもらっても?」
「もちろんだ。人の営みの歓びよ、命を照らす灯火よ、温もりと輝きと、時に畏怖の象徴よ、我が内なるちからを糧にその姿を顕わしたまえ」
父様が掲げた人差し指に、青白い炎がともった。騎士団の特別顧問でもある父様、さすがに造作もない。
「では、ロージー・ローズ。あなたも」
「はい。〈灯〉」
私の人差し指にぽわんとオレンジ色の火がともる。
「次に、今の聖句を、紙に書いていただけますか?」
チャーリー爺やがさっと紙とペンを差し出した。インク壺も抜かりない。お洒落なガラスペンのセットはカロルさんのチョイスだ。
〈灯〉
文字は一瞬だけ輝いた。忘れた漢字もいっぱいあるけど、案外きれいに書けるものね。多少バカでもアホでも字がきれいなら挽回できるって言うのが、アラサーOLのモットーだったのよね。
「左側が火を現していて、右側は釘の形から作った文字で、安定する、と言う意味があります。ふたつをひとつにして、火を安定させて作る灯の意味になります」
父様も兄様たちも、いつもの残念さが鳴りを潜めて、真剣な目で私が書いた漢字一文字を見ている。
「ローゼウス卿、この文字に魔力を通してください」
「あ、あぁ」
ザシャル先生に促されて、父様が紙を持ち上げると、文字の部分からぽっと火が出て、あっという間に紙は燃え切ってしまった。
他に燃え広がるものもなかったから良かったけど、家の中でなんてことさせるのよ。なんて思っていたけど、父様は顔色を悪くしてザシャル先生に向き直った。
「魔力を殆ど使わなかったんだが」
「そうです。たったひとつの文字に凝縮されているので、聖句を唱えるときに無駄に放出される魔力が節約できるのですよ」
あら、エコだわ。そっかぁ、だから中の中しかない私の魔力でも、火柱が立ったんだわ。
後に思う。
このとき呑気だったのは、私だけだったのよね。
玄関開けたら三秒で怒鳴られた。
父様を先頭にローゼウス家の男が三人、仁王立ちで待っていた。騎士団から先触れが来ていたらしい。
「お嬢さんをいただきに参ったのではありません」
「むうっ、それはそれで腹が立つ!」
ザシャル先生は挨拶すらない父様に冷静に応えを返し、父様はさらにエキサイトした。
「お久しぶりです、父様。今の時期、帝都にいらっしゃるとは思いませんでしたわ。領地の経営はいかがなさいました?」
従兄弟に丸投げして私を追いかけてきたのは三兄様に聞いてたけど、ちょっとくらいチクリとしてもいいわよね。
「この方は、私が教えを請うている学院の先生です。挨拶もなさらず怒鳴りつけるのは失礼です」
父様だけでなく、大兄様と次兄様もちょっと怯んだ。三人揃って金髪に緑の瞳が美しい。
「父が失礼した。応接室へご案内しよう」
大兄様が、非礼の全てを父様のせいにして取り繕った。アナタも一緒に仁王立ちしてたでしょ!色っぽい垂れ目でザシャル先生を見るのやめてよね!
色っぽい大兄様と清楚で可憐な次兄様は、私に縁談が来ると相手を誘惑しにいくのよ。引っかかった男は私の旦那様になる価値はないのですって。
ザシャル先生は大兄様の色っぽい視線をスルーして、私に向かって「こちらですか?」と確認してきた。眠そうな目元は大兄様の色気に怯んだ様子もない。さすが守護龍殿に説教をかましたお人だわ。
ゾロゾロと応接室へ移動して腰を落ち着ける。主人の席に父様、左右のソファーに分かれて、大兄様と次兄様が並んで座って、ザシャル先生と私が並んだ。三兄様は先生の斜め後ろに立っている。まだ仕事中って言うアピールね。
改めてザシャル先生は父様たちに挨拶をして、自分が私を伴ってローゼウス家にきたのかを説明した。
「知識の宝珠⋯⋯。うちの娘が⋯⋯」
父様が呆然として言った。それはなんだと言わないあたり、存在は知っているのね。
「なんと言うことだ! 十五年前の自分を褒めてやりたい」
いきなりなにを言ってるの、父様⁈
「よくぞ薔薇の宝石と名付けた、私よ!」
「父上! そうです、宝珠に相応しい名前です! 我らが薔薇の宝石は、名付けられるべくして名付けられたのです!」
過去世の記憶があるなんて、気持ち悪いかもとか、迫害対象だったらどうしようとか、ネガティブだった十年前の私、いらない心配だったみたいよ。
この世界にはない知識を持つ過去世持ちは、見出されると保護されるものらしい。衛生の概念やギルドの創立は過去世持ちの知識がもたらしたんだって。⋯⋯ギルド? 仲間な過去世持ちがいたわね?
「皆さんもご存知の通り、魔術を行使するためには聖句が必要です。事細かに求める事象を表しつつ、精霊と力そのものに感謝の意を伝えるため、美辞麗句を並べ立てる必要があります」
先生、美辞麗句って、身も蓋もないです!
「その点、過去世の記憶を持つ者、特に、意味を込めた文字を使う文化圏に育った者は、その文字ひとつで聖句を成り立たせることができるのです」
漢字圏からきた過去世持ちね。
「ローゼウス卿、指の先に小さな炎をともしてもらっても?」
「もちろんだ。人の営みの歓びよ、命を照らす灯火よ、温もりと輝きと、時に畏怖の象徴よ、我が内なるちからを糧にその姿を顕わしたまえ」
父様が掲げた人差し指に、青白い炎がともった。騎士団の特別顧問でもある父様、さすがに造作もない。
「では、ロージー・ローズ。あなたも」
「はい。〈灯〉」
私の人差し指にぽわんとオレンジ色の火がともる。
「次に、今の聖句を、紙に書いていただけますか?」
チャーリー爺やがさっと紙とペンを差し出した。インク壺も抜かりない。お洒落なガラスペンのセットはカロルさんのチョイスだ。
〈灯〉
文字は一瞬だけ輝いた。忘れた漢字もいっぱいあるけど、案外きれいに書けるものね。多少バカでもアホでも字がきれいなら挽回できるって言うのが、アラサーOLのモットーだったのよね。
「左側が火を現していて、右側は釘の形から作った文字で、安定する、と言う意味があります。ふたつをひとつにして、火を安定させて作る灯の意味になります」
父様も兄様たちも、いつもの残念さが鳴りを潜めて、真剣な目で私が書いた漢字一文字を見ている。
「ローゼウス卿、この文字に魔力を通してください」
「あ、あぁ」
ザシャル先生に促されて、父様が紙を持ち上げると、文字の部分からぽっと火が出て、あっという間に紙は燃え切ってしまった。
他に燃え広がるものもなかったから良かったけど、家の中でなんてことさせるのよ。なんて思っていたけど、父様は顔色を悪くしてザシャル先生に向き直った。
「魔力を殆ど使わなかったんだが」
「そうです。たったひとつの文字に凝縮されているので、聖句を唱えるときに無駄に放出される魔力が節約できるのですよ」
あら、エコだわ。そっかぁ、だから中の中しかない私の魔力でも、火柱が立ったんだわ。
後に思う。
このとき呑気だったのは、私だけだったのよね。
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