少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

文字の大きさ
17 / 87

国家機密は薔薇の香り。

しおりを挟む
「さて、ロージー・ローズ。あなたはこの文字を書くのに魔力を使いましたか?」

「いいえ」

 なんの念も込めてません。久々の日本の文字だから、丁寧を心がけただけです。

「ローゼウス卿、本日伺ったのは、騎士団からの申し出を伝えるためです。その任はあなたの三男殿が担って来ていますが、知識の宝珠について説明するために、私が同行しました」

「うむぅ」

ザシャル先生の声がおだやかに響いた。父様が低く唸って、兄様たちの顔色はいささか悪い。

「白鷹騎士団のフィッツヒュー団長から、宝石姫を白鷹騎士団に迎えたいとの打診を預かってきた。父上が承諾すればローゼウス家の薔薇の宝珠は、学院に籍を置いたまま、騎士団預かりになる」

 三兄様が鉛を飲んだような口調で言って、ウチの家族は唇を噛み締めた。

 え、そんな大ごとなの?

 ちょっと火柱立てただけじゃん。そりゃ魔術とは系統が違うから、学院では実習できないって話だけどさ。ユン⋯⋯て言うか、守護龍さんのついでみたいな感じかと思ってた。

「ロージー・ローズ。あなたは今この瞬間、国家機密になりましたよ」

「え、嘘」

 なんで?

「ローゼウス卿は、文字に魔力を流すだけで火をつけましたね」

 青白くて、キレイな色の火だったよ。

「魔力の消費もほとんど無いと」

 燃費が良くていいんじゃない?

「つまりですね、あなたが聖句を書いた紙を持っていれば、小さな子供でも攻撃的な魔術が使えてしまうんですよ」

 え?

「例えば帝国と仲の悪い、東のヴィラード国にあなたが攫われたら、延々攻撃魔術の聖句を紙に書かされ続けるでしょうね」

 は?

 なんですと⁈

「そして兵士に持たせるでしょう」

 オーマイガッ‼︎

 そりゃ、国家機密になるさ‼︎

「我が領地は東の辺境だ。愛しい娘を領地に返すわけにはいかぬな」

 父様が拳を強く握っている。ブルブルと震えていて、その強さが傍目にもわかった。ローゼウス辺境伯爵領は、その爵位が示す通り帝国の端っこにある。

 東西南の辺境は武門の一族が辺境伯爵の位を賜って治めている。他の領地では許されない、私設の兵団を持つことが許されているのは、常に隣国と緊張関係にあるからなのよ。

 ちなみに北の辺境は辺境伯爵を置かず、バロライの一族に自治を任せている。

 北はさておき、東を預かる父様は親馬鹿を隠せば、帝国にこの人ありと言われた武の守護神である。東のヴィラード国はなにかと帝国にちょっかいをかけてくるので、父様は帝都に来ることはあまりない。

 三兄様が帝都の騎士団にいるのは父様の代理と言って良い。父様と継嗣の大兄様、頭脳担当の次兄様はローゼウス辺境伯爵領でヴィラード国を見張っていなければならないからだ。

 全員が帝都にいる今は、従兄弟や叔父様たちが張り切っていると思われる。

 そして帝都よりもヴィラード国に近いと言うだけで、私に何かあってはと、父様たちの不安は増すのだろう。

「父様たちが護ってくださるから、怖くないわ」

 しばらく帰るつもりはないけど、もしものときは信じてるもの。

 なにしろローゼウスの男連中は、数代ぶりに生まれた直系の女の子の私を宝石姫と呼び、私を生んだ母様を宝石を生みし女神と讃えている。領地にいて私と母様に危害が及ぶのは、ローゼウスが滅ぶときだと思っている。

「明日、フィッツヒューに会いに行こう」

 父様が物々しく言った。え、団長さん呼び捨てなの⁈

「今日の明日だが、私の面会を断わる彼奴あやつではないわ」

「わかりました、団長に伝えておきます。詳しい時間などは、馬を出します」

「私たちも同行は可能ですか?」

 父様と三兄様に、次兄様が身を乗り出すようにして言った。質問のようでいて、行く気満々でしょうに。

「宝石姫は寮を引き払うことになるのだろう? ならば今夜はうちにいればいい」

 大兄様は勿体ぶって言うけど、どうせこのまま実家住まいさせる気なんだわ。

「いえ、ロージー・ローズは寮に連れて帰ります。外泊などいつもと違う行動をして、目をつけられても困りますから」

「むぅ」

 ザシャル先生の正論に大兄様は撃沈した。私を前にしたときの兄様を簡単にあしらう人、母様とスーパーメイドなカロルさん、家宰のチャーリー爺や以外に初めて見たわ!

 こうしてザシャル先生の家庭訪問は終了し、私は寮の自室に無事帰宅できたのだった。

 
 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

処理中です...