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邪魔するのは誰だ!
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タタンは前を見ている。
前しか見ていない。
なぜならエスコートしているザッカーリャの見事なお胸様が、たゆんたゆんと揺れているからだ。耳が赤い。
どうしよう、長い髪をお胸様の前に垂らして隠してあげるべきなんだろうか。そんなこと言ったら、タタンが余計に恥ずかしいかしら。
アホなことを考えながら、斜面を降る。登りより降りの方が足元がおぼつかない。タタンは見事な体幹で、エスコートしながら歩いている。
何気にハイスペックな子よね。⋯⋯耳が赤いけど。
「あの方が病とは⋯⋯?」
ザッカーリャの不安げな声。喪う哀しみを知る声音。
「大地の女神様、あなた様のお苦しみが大地を揺さぶります。神子の現身は稚く、あまりに脆い」
ユンが巫女モードで言葉を紡ぐ。髪の毛に通したビーズがシャラシャラと涼しげな音を立てた。
「救う術はあります」
「なんと!」
「大地の女神様の力が及ばぬ、遠くへ逃げること」
「⋯⋯⋯⋯それで、あの方がお救いできるの?」
淡々と告げるユンに、ザッカーリャは弱々しく訊ねた。邪神にはとても見えない。どこか途方に暮れたような口調で、彼女が神として幼いことがうかがえる。
「はい」
「なれば、祠に戻りましょう」
ザッカーリャが止まった。エスコートするタタンの手をそっと押しやる。
「お待ち下さい、女神よ。もうひとつ、道があるのです」
「わたくしが出来ることなら」
「あなた様が心を鎮め、大地の震えを抑えるのです。そのためにあなた様の神子は、無理をおしてお待ち申し上げているのです」
ユン、うまい!
上げて落として、また上げる。『愛しい神子に逢える』から『自分のせいで神子が苦しんでいる』に持ってきて『自分が頑張れば解決!』に持ち込んだわ。
「わたくしが⋯⋯心を鎮める? 出来るかしら? 黒くて澱んだ怨嗟を落ち着かせることが⋯⋯本当に?」
「そのための、神子です。そして今生の神子のそばには、知識の宝珠が控えています」
いきなり、こっちのハードル上げないで!
ユンってば、急に私の存在をぶち込んでこないでよ。あぁ、驚いた。
「神子は今生の全てを、大地の女神に捧げるでしょう。諦めてはなりません」
なんか新興宗教の教祖様めいてきたわ。ん? ユンは巫女様だから宗教関係者なのかしら? 土着信仰だから違うのかな。
まぁいい。
岩だらけだった足元に、地面を這うように小さな花が見えるようになった。標高が下がってきて、植物が発芽できる環境になってきたのね。
登りよりもハイペースで降りてきたから、もう少しで三合目のベースに着きそうだわ。
あら? 知らない馬車が見える。
馬車の傍らにザシャル先生とアル従兄様が立っている。遠目に見ても従兄様がイラついているのがわかる。
ザッカーリャを見られたら、マズくない?
そう思ったとき馬車の影から人が現れて、ザッカーリャを指差して、何かを叫んだ。
「あああぁあぁぁっ」
ザッカーリャが魂切るような悲鳴を上げた。
気付いたら、空を見ていた。
内臓がひっくり返るふわっとした浮遊感の後、重力に引かれる落下感。
ザッカーリャの全身から放たれるなにかのチカラに弾かれて、彼女に寄り添っていた私たちは弾き飛ばされた。
走馬灯? スローモーション? 全てがやけにゆっくり感じた。視界の上に逆さまになったザッカーリャが見える。違う、私が頭から落下してるんだ。
言葉⁈ ダメだ、咄嗟になにを思えばいい⁈
「《反重力》とか⁈」
「フェイ!」
私の声とユンの声が重なった。
ふわんと落下が止まった。
分厚い雲が空を覆い、太陽の光が遮られた。稲妻を背に巨大な龍身がうねり、私たちはその手のひらにちんまりと乗っていた。
バロライの守護龍さんは愛しい巫女姫を助けるついでに、私たちも助けてくれたみたいだ。
「ユン、守護龍さん、ありがとう!」
「バロライの龍の君、感謝いたします」
「ありがとうございますぅぅ」
守護龍さんは感謝の言葉に全身の鱗を震わせた。返事をしてくれたんだろうけど、生憎龍身では言葉は通じない。
龍の指の隙間から下を見ると、ザッカーリャがのたうちまわっていた。ビタンビタンと尻尾が地面を叩き、岩が崩れ、大地がひび割れ、黒い瘴気が吹き出した。
知らない三人の男が剣を抜いて叫び続けている。ザシャル先生がなにかしてるんだろう。ザッカーリャに向かって行きたそうにして、不自然に押さえつけられていた。アル従兄様がその前に立って剣を抜いた。
まさかまさか。邪神討伐の勇者さま御一行じゃないわよね⁈
せっかくザッカーリャから抜いた邪念、元に戻してんじゃないわよ!
ふざけんな‼︎
前しか見ていない。
なぜならエスコートしているザッカーリャの見事なお胸様が、たゆんたゆんと揺れているからだ。耳が赤い。
どうしよう、長い髪をお胸様の前に垂らして隠してあげるべきなんだろうか。そんなこと言ったら、タタンが余計に恥ずかしいかしら。
アホなことを考えながら、斜面を降る。登りより降りの方が足元がおぼつかない。タタンは見事な体幹で、エスコートしながら歩いている。
何気にハイスペックな子よね。⋯⋯耳が赤いけど。
「あの方が病とは⋯⋯?」
ザッカーリャの不安げな声。喪う哀しみを知る声音。
「大地の女神様、あなた様のお苦しみが大地を揺さぶります。神子の現身は稚く、あまりに脆い」
ユンが巫女モードで言葉を紡ぐ。髪の毛に通したビーズがシャラシャラと涼しげな音を立てた。
「救う術はあります」
「なんと!」
「大地の女神様の力が及ばぬ、遠くへ逃げること」
「⋯⋯⋯⋯それで、あの方がお救いできるの?」
淡々と告げるユンに、ザッカーリャは弱々しく訊ねた。邪神にはとても見えない。どこか途方に暮れたような口調で、彼女が神として幼いことがうかがえる。
「はい」
「なれば、祠に戻りましょう」
ザッカーリャが止まった。エスコートするタタンの手をそっと押しやる。
「お待ち下さい、女神よ。もうひとつ、道があるのです」
「わたくしが出来ることなら」
「あなた様が心を鎮め、大地の震えを抑えるのです。そのためにあなた様の神子は、無理をおしてお待ち申し上げているのです」
ユン、うまい!
上げて落として、また上げる。『愛しい神子に逢える』から『自分のせいで神子が苦しんでいる』に持ってきて『自分が頑張れば解決!』に持ち込んだわ。
「わたくしが⋯⋯心を鎮める? 出来るかしら? 黒くて澱んだ怨嗟を落ち着かせることが⋯⋯本当に?」
「そのための、神子です。そして今生の神子のそばには、知識の宝珠が控えています」
いきなり、こっちのハードル上げないで!
ユンってば、急に私の存在をぶち込んでこないでよ。あぁ、驚いた。
「神子は今生の全てを、大地の女神に捧げるでしょう。諦めてはなりません」
なんか新興宗教の教祖様めいてきたわ。ん? ユンは巫女様だから宗教関係者なのかしら? 土着信仰だから違うのかな。
まぁいい。
岩だらけだった足元に、地面を這うように小さな花が見えるようになった。標高が下がってきて、植物が発芽できる環境になってきたのね。
登りよりもハイペースで降りてきたから、もう少しで三合目のベースに着きそうだわ。
あら? 知らない馬車が見える。
馬車の傍らにザシャル先生とアル従兄様が立っている。遠目に見ても従兄様がイラついているのがわかる。
ザッカーリャを見られたら、マズくない?
そう思ったとき馬車の影から人が現れて、ザッカーリャを指差して、何かを叫んだ。
「あああぁあぁぁっ」
ザッカーリャが魂切るような悲鳴を上げた。
気付いたら、空を見ていた。
内臓がひっくり返るふわっとした浮遊感の後、重力に引かれる落下感。
ザッカーリャの全身から放たれるなにかのチカラに弾かれて、彼女に寄り添っていた私たちは弾き飛ばされた。
走馬灯? スローモーション? 全てがやけにゆっくり感じた。視界の上に逆さまになったザッカーリャが見える。違う、私が頭から落下してるんだ。
言葉⁈ ダメだ、咄嗟になにを思えばいい⁈
「《反重力》とか⁈」
「フェイ!」
私の声とユンの声が重なった。
ふわんと落下が止まった。
分厚い雲が空を覆い、太陽の光が遮られた。稲妻を背に巨大な龍身がうねり、私たちはその手のひらにちんまりと乗っていた。
バロライの守護龍さんは愛しい巫女姫を助けるついでに、私たちも助けてくれたみたいだ。
「ユン、守護龍さん、ありがとう!」
「バロライの龍の君、感謝いたします」
「ありがとうございますぅぅ」
守護龍さんは感謝の言葉に全身の鱗を震わせた。返事をしてくれたんだろうけど、生憎龍身では言葉は通じない。
龍の指の隙間から下を見ると、ザッカーリャがのたうちまわっていた。ビタンビタンと尻尾が地面を叩き、岩が崩れ、大地がひび割れ、黒い瘴気が吹き出した。
知らない三人の男が剣を抜いて叫び続けている。ザシャル先生がなにかしてるんだろう。ザッカーリャに向かって行きたそうにして、不自然に押さえつけられていた。アル従兄様がその前に立って剣を抜いた。
まさかまさか。邪神討伐の勇者さま御一行じゃないわよね⁈
せっかくザッカーリャから抜いた邪念、元に戻してんじゃないわよ!
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