一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

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2 悲しい誕生日

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「リディアお嬢様、私が以前、『マクスウェル公爵家の後継は男でなければならない』というお話をしたことは覚えていらっしゃいますね?」
「うん、覚えてるよ」

 コクコクと頷いた。
 その話は物心ついた時から、これまで何度も聞いてきたもの。

 私は、国の三大公爵の一つ、マクスウェル公爵家の次期当主であるローレンス公子の長女だ。
 歴史あるマクスウェル公爵家は、後継を男性と定めている。その為『しきたり』が存在していた。

 後継となる男児より先に女児が生まれた場合にのみ行われている『しきたり』は、後継となる男児の出生まで、女児を公爵家から離れた場所で育てるというものだった。
 女児は、後継となる男児が誕生した暁には公爵家に戻ることが許される。

 誕生日の今日、この話をするということは……。

 ………もしかして………?
 さっき感じた嫌な予感はすっかり忘れ、つい期待してしまった。
 弟が生まれ公爵家に戻ることになった、そう言われるのだと思ったのだ。
 けれど……。

「……お嬢様が本邸へ戻ることは、望めなくなりました」
「え……?」

 どういうことかわからず首を傾げると、ノエルは悲しげな顔をした。
 ジャスミンもジョンも暗い顔をしている。

「お母さまであるアニス様に、これ以上子供を授かることができないとわかったのです」
「あ…………」

 今度はさすがにわかった。

 子供を授かれないということは、後継となる男児が生まれないということ。
 後継が誕生しなければ私は……。

「私は、ずっとここで暮らすの?」
「私共もずっと一緒です」

 ノエルの言葉に、ジャスミンとジョンが目を潤ませながら頷いた。

 私の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
 ノエルもジャスミンもジョンのことも好き。これまで通りに、みんなと一緒に暮らせることは嬉しい。……けれど、私は。

 お父さまとお母さまと一緒に暮らしたかった。

 ——誕生日の願いを間違えたのかな?
 弟が生まれますようにと願えばよかった。
 それとも、もっとたくさん息を吸って、ロウソクの火を消せていたら……。

「……会うこともできないの?」

 公爵家のしきたりで、一緒に暮らせないことはわかっている。でも、弟が生まれれば、一緒に暮らせると思っていたから、これまでがまんできた。
 それがもう、永遠にないというのなら、会うことぐらい許されてもいいと思う。
 だって、私は子供なんだから——。

 ノエルは目を伏せ、首を横にした。

「……会えなくとも、ご両親はリディアお嬢様を想っておられます」
 祖父である公爵閣下は会うことを許さないだろう、そうノエルは言葉を継いだ。

「…………」
 涙は溢れるのに、何一つ言葉は出てこなかった。

「リディアお嬢様……」

 泣いている私があまりに哀れだったのか、ノエルが、プレゼントと称し、これまで届けられていた手紙の束と、美しい男女の肖像画を渡してくれた。

「これ……は?」
「手紙はアニス様から届けられていたものです。肖像画は、いつかお嬢様にお見せしようと思っておりました。そこに描かれているのはローレンス様とアニス様です。リディアお嬢様のお父さまとお母さまですよ」

 ケーキと同じくらいの大きさの、丸い額縁のある肖像画。そこに金色の髪に緑色の目をした端麗な男の人と、私と同じ栗色の長い髪に、美しい青い目の儚げな女性が描かれていた。

「これが私のお父さまとお母さま……」
 胸がきゅっと切なくなった。

「お嬢様はお母さまによく似ていらっしゃいます」

 ノエルは、二人はしきたりを最後まで拒絶していたと教えてくれた。けれど、祖父である公爵閣下の命令に逆らうことができず、泣く泣く託されたのだと話した。

「アニス様にお子様が望めないとわかれば、公爵夫妻はローレンス様に妾を用意されるでしょう」
「妾って?」
「アニス様に代わり、後継となる男児を生む女です」
 ……?
「お母さまが子供を生めないから、代わりに生める女の人を用意するの?」
「そうです」
 ですが、とノエルは「妾が男児を生んでもお嬢様は本邸で暮らすことはできないでしょう」と声を落とした。

◇◇◇

 ——夢も希望も失った、八歳の誕生日から十年が過ぎ、私は十八歳になった。

 別邸での暮らしは変わらずで、ノエルとジャスミン、ジョンと一緒に平凡な毎日を過ごしていた。
そういえば一つだけ変わったことがある。あの八歳の誕生日から、私はお母さまと手紙のやり取りをするようになったのだ。
 私を不憫に思ったノエルが、年に一度でいいから会わせてあげて欲しいと公爵夫妻に掛け合ってくれた。
 しかし、残念ながら会うことは許されなかった。だが、私とお母さまの手紙のやりとりは許されたのだ。
 手紙の内容は、親子とは思えないほどぎこちなく互いに気遣う文面ばかりだったけれど。
 そんな内容であっても、手紙からお母さまを感じられ、私はとても嬉しかった。

 そうして、迎えた十八歳の誕生日。
 十日前に届いたお母さまからの手紙に、十八歳の誕生日には特別な物を贈る、楽しみにしているようにと伝えられていた私は、手紙を楽しみに待っていた。

 ——ところが。
 届いたのは、お母さまからの手紙ではなく、お父さまからの手紙だった。
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