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3 思い出した前世
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はじめて見たのにどこか懐かしさを覚えるような几帳面な文字で綴られたその手紙には、数日前、お母さまが原因不明の病に侵され、天に召されたと書いてあった。
病の為にすぐに葬儀を行わなければならず、知らせが遅れたことと、葬儀の翌日に祖父母が馬車の事故で亡くなったことが記されていた。
そして、公爵家の本邸でこの先一緒に暮らして欲しいと、書いてあったのだ。
——公爵家で暮らす。それは、これまでずっと願っていたこと。
でも……こんな形は望んでいなかった。
心は複雑だった。
もちろん、公爵家で暮らせることは嬉しい。
お母さまはいなくとも、お父さまには会えるから。
(できることなら、お母さまともお会いしたかった……)
けれど、これはすべてしきたりを強制していた祖父母が亡くなったことによるもの。
それを思うと、胸の中はぐちゃぐちゃになった。
(本当に公爵家に行っていいの? それに私は十八歳、こんなに大きくなった私を、お父さまは娘と思える? 私だって肖像画でしかお父さまのことを知らないのに)
深く考えすぎたせいか、もとより決められていた運命だったのか。
マクスウェル公爵家に向かう前日のこと。
ベッドに入ったものの、なかなか寝付けずにいた私は窓の外に目を向けていた。
夜空に青白い月が輝いている。
(きれい……)
これまでも何度も見たことのある月夜。なのに、今夜は妙に胸が締め付けられた。
(お母さま……)
手紙をもらってから三日が過ぎた。
お母さまの葬儀はすでに終わっていて、祖父母の葬儀も今日行われたはずだ。
埋葬は、私が公爵家に到着次第行われると手紙に書いてあった。
私の存在は、一部の者しか知らないらしく墓地が披露目の場所となると、ノエルが話した。
突然現れた公爵令嬢、それも唯一の後継者。
私と結婚すれば、マクスウェル公爵家が手に入ると考える貪欲な者達が、盛んに動き出すだろうとも。
(ノエルはそう言っていたけど、本当かしら?)
どちらにせよ、明日が忙しいことは間違いない。
早く眠らなければと、とりあえず瞼を閉じた。
その瞬間——。
頭の中に、次々と記憶が浮かんできた。
(何…………これは?)
まるでお城の様なお屋敷——。
鏡に映る私は、栗色の髪を二つに結び、紫色の輝く瞳が印象的な可愛いメイドの『リディア』だ。
リディアは、働いているお屋敷の嫡男と恋に落ちた。
しかし、身分違いの恋は許されるものではない。けれど互いに十七歳、若い二人は恋心を止めるすべをしらず、人知れず逢瀬を重ね愛し合った。
だが、それを知った子息の両親から、すぐに別れるように告げられ、私は屋敷を追い出されることになった。
(これは、私の記憶……)
『生まれ変わったら一緒になろう』
約束を交わし、私たちは生まれ変わりの言い伝えに習い、来世で結ばれることを願いながら自ら命を絶つことを選んだ。
(そうよ……思い出した……)
最期に聞いた彼の声も、月明りの下で見たキレイな緑色の瞳も。
頬を撫でる優しく大きな手を、最期に交わした口づけを。
——息ができなくて苦しかったことを。最後に見たのは月明りに輝く彼の金色の髪だったことも。
(ああ…………)
私は……愛する彼の傍に生まれ変わりたいと願った。
次に生まれ変わる時には身分の差などなく、彼と家族となれるようにと神様に頼んだ。どうか、願いを叶えてと強く祈ったのだ。
(まさか……)
ゆっくりと目を開くと、朝焼けが目に映った。
(……どうして……)
思い出してしまった、私の前世の記憶。
(私は……)
言い伝えは本当だった。私は、あの日死に、生まれ変わったのだ。
神様は、願いを叶えてくれた。
願った通りに、前世の記憶もそのままで……。
けれど、これは——。
「ラリー……」
前世の私、メイドの『リディア』の恋人ラリー。
それは、一緒に命を絶った公爵令息ローレンスの愛称。
ローレンス・マクスウェル。
生まれ変わった私の、お父さまと同じ名前……。
「……彼じゃない。彼であるわけがない……」
名前は偶然だ。お父さまが『彼』であるはずはない。ありえない。
だって、一緒に毒の入ったワインを飲み『あんまり美味しくないね』って笑いあって、これで最後だと泣きながら口づけたもの。
私がこうして生まれ変わっているということは、彼も、どこかに生まれ変わっているはずなのだから。
だってそうじゃなきゃ、おかしい……。
ローレンス・マクスウェル公爵は、三十六歳だ。
私は、お父さまが十七歳の時に生まれた子供ということ。
もし、ラリーが私の父親だとしたら——。
一緒に命を絶とうと言った時、すでにお母さまとの婚約が決まっていたということに……。
(ありえない。そんなはずはない。彼が私を裏切るなんて……)
それに、お父さまがラリーなら、娘に『リディア』と名付けることはしないはず。
私は、お父さまは彼ではないと、メイドのリディアは裏切られていないという希望をもって、『お父さま』と対面をした。
けれど……お父さまの姿を目にした瞬間、わかってしまった。
——彼だ。
目の前にいるのは、紛れもなく前世の私、メイドのリディアが愛した人。
生まれ変わって一緒になろうと約束した、前世の恋人『ローレンス・マクスウェル』だった。
病の為にすぐに葬儀を行わなければならず、知らせが遅れたことと、葬儀の翌日に祖父母が馬車の事故で亡くなったことが記されていた。
そして、公爵家の本邸でこの先一緒に暮らして欲しいと、書いてあったのだ。
——公爵家で暮らす。それは、これまでずっと願っていたこと。
でも……こんな形は望んでいなかった。
心は複雑だった。
もちろん、公爵家で暮らせることは嬉しい。
お母さまはいなくとも、お父さまには会えるから。
(できることなら、お母さまともお会いしたかった……)
けれど、これはすべてしきたりを強制していた祖父母が亡くなったことによるもの。
それを思うと、胸の中はぐちゃぐちゃになった。
(本当に公爵家に行っていいの? それに私は十八歳、こんなに大きくなった私を、お父さまは娘と思える? 私だって肖像画でしかお父さまのことを知らないのに)
深く考えすぎたせいか、もとより決められていた運命だったのか。
マクスウェル公爵家に向かう前日のこと。
ベッドに入ったものの、なかなか寝付けずにいた私は窓の外に目を向けていた。
夜空に青白い月が輝いている。
(きれい……)
これまでも何度も見たことのある月夜。なのに、今夜は妙に胸が締め付けられた。
(お母さま……)
手紙をもらってから三日が過ぎた。
お母さまの葬儀はすでに終わっていて、祖父母の葬儀も今日行われたはずだ。
埋葬は、私が公爵家に到着次第行われると手紙に書いてあった。
私の存在は、一部の者しか知らないらしく墓地が披露目の場所となると、ノエルが話した。
突然現れた公爵令嬢、それも唯一の後継者。
私と結婚すれば、マクスウェル公爵家が手に入ると考える貪欲な者達が、盛んに動き出すだろうとも。
(ノエルはそう言っていたけど、本当かしら?)
どちらにせよ、明日が忙しいことは間違いない。
早く眠らなければと、とりあえず瞼を閉じた。
その瞬間——。
頭の中に、次々と記憶が浮かんできた。
(何…………これは?)
まるでお城の様なお屋敷——。
鏡に映る私は、栗色の髪を二つに結び、紫色の輝く瞳が印象的な可愛いメイドの『リディア』だ。
リディアは、働いているお屋敷の嫡男と恋に落ちた。
しかし、身分違いの恋は許されるものではない。けれど互いに十七歳、若い二人は恋心を止めるすべをしらず、人知れず逢瀬を重ね愛し合った。
だが、それを知った子息の両親から、すぐに別れるように告げられ、私は屋敷を追い出されることになった。
(これは、私の記憶……)
『生まれ変わったら一緒になろう』
約束を交わし、私たちは生まれ変わりの言い伝えに習い、来世で結ばれることを願いながら自ら命を絶つことを選んだ。
(そうよ……思い出した……)
最期に聞いた彼の声も、月明りの下で見たキレイな緑色の瞳も。
頬を撫でる優しく大きな手を、最期に交わした口づけを。
——息ができなくて苦しかったことを。最後に見たのは月明りに輝く彼の金色の髪だったことも。
(ああ…………)
私は……愛する彼の傍に生まれ変わりたいと願った。
次に生まれ変わる時には身分の差などなく、彼と家族となれるようにと神様に頼んだ。どうか、願いを叶えてと強く祈ったのだ。
(まさか……)
ゆっくりと目を開くと、朝焼けが目に映った。
(……どうして……)
思い出してしまった、私の前世の記憶。
(私は……)
言い伝えは本当だった。私は、あの日死に、生まれ変わったのだ。
神様は、願いを叶えてくれた。
願った通りに、前世の記憶もそのままで……。
けれど、これは——。
「ラリー……」
前世の私、メイドの『リディア』の恋人ラリー。
それは、一緒に命を絶った公爵令息ローレンスの愛称。
ローレンス・マクスウェル。
生まれ変わった私の、お父さまと同じ名前……。
「……彼じゃない。彼であるわけがない……」
名前は偶然だ。お父さまが『彼』であるはずはない。ありえない。
だって、一緒に毒の入ったワインを飲み『あんまり美味しくないね』って笑いあって、これで最後だと泣きながら口づけたもの。
私がこうして生まれ変わっているということは、彼も、どこかに生まれ変わっているはずなのだから。
だってそうじゃなきゃ、おかしい……。
ローレンス・マクスウェル公爵は、三十六歳だ。
私は、お父さまが十七歳の時に生まれた子供ということ。
もし、ラリーが私の父親だとしたら——。
一緒に命を絶とうと言った時、すでにお母さまとの婚約が決まっていたということに……。
(ありえない。そんなはずはない。彼が私を裏切るなんて……)
それに、お父さまがラリーなら、娘に『リディア』と名付けることはしないはず。
私は、お父さまは彼ではないと、メイドのリディアは裏切られていないという希望をもって、『お父さま』と対面をした。
けれど……お父さまの姿を目にした瞬間、わかってしまった。
——彼だ。
目の前にいるのは、紛れもなく前世の私、メイドのリディアが愛した人。
生まれ変わって一緒になろうと約束した、前世の恋人『ローレンス・マクスウェル』だった。
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