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4 絶望の再会
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王都の端にあるマクスウェル公爵邸へ到着したのは、日が暮れて薄暗くなるころだった。
到着予定をずいぶんと過ぎていたというのに、公爵邸の広いエントランスホールには、別邸から来た私たちを出迎える為に、多くの使用人たちが集まっていた。
——と、その中央に、黒い衣装を身に着けた端正な男性の立ち姿が見えた。
(ああ……そんな……)
遠目からもその人が誰か、ハッキリとわかった。
だって、私は彼に再び巡り合う為に生まれ変わったのだから。
(ラリー……)
前世で私が愛した人。ローレンス・マクスウェル。
現マクスウェル公爵である、私の……お父さま。
彼であると認識した瞬間、私の中の小さな希望は絶望へと変わった。
なぜなら、彼が生きているということは……私は裏切られていたということだから。
お父さまの下へ、一歩一歩近づく度に、私の心臓はバクバクと、今にも口から出てきそうなほど大きな音を立てはじめた。背中には冷たい汗が流れてきている。
重くなった脚を動かし、どうにかお父さまの前に立つと顔を見上げた。
(ラリー、本当にラリーだ……)
前世で何度も触れた柔らかな金色の髪、優しい緑色の目は、あの頃と変わっていない。
あまたの令嬢を虜にした端正な顔立ちは、大人になり深みと妖艶さが増したように感じるけれど。
(変わってない、大好きなラリーのまま……)
思わず泣きそうになり、ぐっと奥歯に力を込めた。
無理に口角を上げ、笑顔を作る。
「はじめまして、ローレンスお父さま」
声は震えてしまったが、なんとか笑顔で挨拶ができた。
上手く笑えているかは、わからないけれど。
お父さまはハッと息を吐き、目を見開いた。
「『リディア』……本当に?」
別れた時には腕に抱かれる赤ん坊だった娘が、成長し、大人の女性となって現れたのだから驚くのも無理はないのだと、この時私は思っていた。
「はい……私が、リディア・マクスウェルです。お父さま」
笑顔で答えると、お父さまは泣き出しそうな顔になった。
「どうして…………」
私の顔を見つめたまま、お父さまが漏らした声で、ようやく理由に気がついた。
お父さまは、大人になった娘を見て驚いたのではない。
私の顔に驚いているのだ。
なぜなら私自身も、今朝、鏡を見て驚いたから。
十八年間見てきた顔——。
ノエルに、お母さまに似ていると言ってもらい嬉しくなった顔は、前世を思い出し改めて見ると、メイドのリディアとそっくりだった。
栗色の髪も、目尻の下がった大きな紫色の目も、小さな鼻も唇も。
けれど、それも願ったことだ。
ラリーは死の間際、生まれ変わった私を必ず見つけると約束してくれた。
私は、すぐに見つけてもらえるよう、今と変わらない姿に生まれ変わりたいと神様に願った。
だから…………。
しばらく見合っていると、お父さまの態度が急変した。
「信じられない……」と呟き、顔色を悪くして私から顔をそらして。
「お父さま……?」
「まさか……そんな……」
「お父さま、どうなされたのですか?」
「リディア……」
顔を背けたまま、私の名前を呼んだお父さまは「すまない……」と声を落とした。
「…………?」
なぜ、謝罪の言葉を?
私が戸惑っていると、周りにいる使用人たちも、ざわざわとしはじめた。
「どうされたのだ」
「お嬢様の顔を見た途端おかしくなられた」
「若奥様に似ていらっしゃるから?」
「それにしては、おかしいわ」
「まるで死人にでも会ったような顔をされて……」
死人……。
(ああ……お父さまは……)
使用人たちの話声で、お父さまが謝りの言葉を口にした理由がわかった。
私が神様に願ったこの顔は、お父さまにとっては二度と見たくない顔だったのだ。
あの時の言葉はすべて、私を騙すための偽りの言葉だった。それを、私が真に受けて、神様に願ってしまったから……。
彼は、私が生まれ変わることも望んでいなかっただろう。
悲しく思っていると、お父さまがその場に膝から崩れ落ちた。
「お父さま⁈」
「すまない、すまなかった……」
お父さまは膝の上で拳を握り、何度も首を横に振り、涙声で謝り続ける。
(すまないって、なに?)
お父さまが謝っている理由がわからない。
主人の様子の異常さに、使用人たちのざわめきも大きくなってきた。
——このままではいけない。
お父さまを起こそうと手を伸ばした、その時。
「ラリー、大丈夫⁈」
すぐ近くにいたメイドが声を上げ、私を撥ね退けお父さまに駆け寄り肩を抱いた。
(えっ? ラリー?)
存外に扱われたことよりも、メイドが発したお父さまの呼び名に驚いた。
『ラリー』ローレンスの愛称であるその呼び名は、ごく親しいものにしか許していないものだった。
私が覚えている限り、両親である公爵夫妻とメイドのリディアにしか呼ばせていなかった。その名をメイドが……なぜ呼ぶの?
私が戸惑っている間に、メイドは、まるで女主人のように近くの使用人を呼びつけ、お父さまを部屋で休ませるようにと命じた。
執事と若い男の使用人二人が、お父さまを部屋へと運ぶ姿を見届けると、私へ体を向け、ニッコリと笑って。
「はじめまして、リディアお嬢様。私は、マクスウェル公爵家のメイド長、テイラーと申します」
テイラーは、今朝方から、お父さまの体調がおもわしくなかったと告げた。
それから、また使用人を呼びつけ、別邸から一緒に来たノエル、ジャスミン、ジョンをそれぞれの持ち場へと案内させた。
「リディアお嬢様は、私が案内いたします」
テイラーは両手を前に組むと、私に有無を言わさず先を歩きはじめた。
到着予定をずいぶんと過ぎていたというのに、公爵邸の広いエントランスホールには、別邸から来た私たちを出迎える為に、多くの使用人たちが集まっていた。
——と、その中央に、黒い衣装を身に着けた端正な男性の立ち姿が見えた。
(ああ……そんな……)
遠目からもその人が誰か、ハッキリとわかった。
だって、私は彼に再び巡り合う為に生まれ変わったのだから。
(ラリー……)
前世で私が愛した人。ローレンス・マクスウェル。
現マクスウェル公爵である、私の……お父さま。
彼であると認識した瞬間、私の中の小さな希望は絶望へと変わった。
なぜなら、彼が生きているということは……私は裏切られていたということだから。
お父さまの下へ、一歩一歩近づく度に、私の心臓はバクバクと、今にも口から出てきそうなほど大きな音を立てはじめた。背中には冷たい汗が流れてきている。
重くなった脚を動かし、どうにかお父さまの前に立つと顔を見上げた。
(ラリー、本当にラリーだ……)
前世で何度も触れた柔らかな金色の髪、優しい緑色の目は、あの頃と変わっていない。
あまたの令嬢を虜にした端正な顔立ちは、大人になり深みと妖艶さが増したように感じるけれど。
(変わってない、大好きなラリーのまま……)
思わず泣きそうになり、ぐっと奥歯に力を込めた。
無理に口角を上げ、笑顔を作る。
「はじめまして、ローレンスお父さま」
声は震えてしまったが、なんとか笑顔で挨拶ができた。
上手く笑えているかは、わからないけれど。
お父さまはハッと息を吐き、目を見開いた。
「『リディア』……本当に?」
別れた時には腕に抱かれる赤ん坊だった娘が、成長し、大人の女性となって現れたのだから驚くのも無理はないのだと、この時私は思っていた。
「はい……私が、リディア・マクスウェルです。お父さま」
笑顔で答えると、お父さまは泣き出しそうな顔になった。
「どうして…………」
私の顔を見つめたまま、お父さまが漏らした声で、ようやく理由に気がついた。
お父さまは、大人になった娘を見て驚いたのではない。
私の顔に驚いているのだ。
なぜなら私自身も、今朝、鏡を見て驚いたから。
十八年間見てきた顔——。
ノエルに、お母さまに似ていると言ってもらい嬉しくなった顔は、前世を思い出し改めて見ると、メイドのリディアとそっくりだった。
栗色の髪も、目尻の下がった大きな紫色の目も、小さな鼻も唇も。
けれど、それも願ったことだ。
ラリーは死の間際、生まれ変わった私を必ず見つけると約束してくれた。
私は、すぐに見つけてもらえるよう、今と変わらない姿に生まれ変わりたいと神様に願った。
だから…………。
しばらく見合っていると、お父さまの態度が急変した。
「信じられない……」と呟き、顔色を悪くして私から顔をそらして。
「お父さま……?」
「まさか……そんな……」
「お父さま、どうなされたのですか?」
「リディア……」
顔を背けたまま、私の名前を呼んだお父さまは「すまない……」と声を落とした。
「…………?」
なぜ、謝罪の言葉を?
私が戸惑っていると、周りにいる使用人たちも、ざわざわとしはじめた。
「どうされたのだ」
「お嬢様の顔を見た途端おかしくなられた」
「若奥様に似ていらっしゃるから?」
「それにしては、おかしいわ」
「まるで死人にでも会ったような顔をされて……」
死人……。
(ああ……お父さまは……)
使用人たちの話声で、お父さまが謝りの言葉を口にした理由がわかった。
私が神様に願ったこの顔は、お父さまにとっては二度と見たくない顔だったのだ。
あの時の言葉はすべて、私を騙すための偽りの言葉だった。それを、私が真に受けて、神様に願ってしまったから……。
彼は、私が生まれ変わることも望んでいなかっただろう。
悲しく思っていると、お父さまがその場に膝から崩れ落ちた。
「お父さま⁈」
「すまない、すまなかった……」
お父さまは膝の上で拳を握り、何度も首を横に振り、涙声で謝り続ける。
(すまないって、なに?)
お父さまが謝っている理由がわからない。
主人の様子の異常さに、使用人たちのざわめきも大きくなってきた。
——このままではいけない。
お父さまを起こそうと手を伸ばした、その時。
「ラリー、大丈夫⁈」
すぐ近くにいたメイドが声を上げ、私を撥ね退けお父さまに駆け寄り肩を抱いた。
(えっ? ラリー?)
存外に扱われたことよりも、メイドが発したお父さまの呼び名に驚いた。
『ラリー』ローレンスの愛称であるその呼び名は、ごく親しいものにしか許していないものだった。
私が覚えている限り、両親である公爵夫妻とメイドのリディアにしか呼ばせていなかった。その名をメイドが……なぜ呼ぶの?
私が戸惑っている間に、メイドは、まるで女主人のように近くの使用人を呼びつけ、お父さまを部屋で休ませるようにと命じた。
執事と若い男の使用人二人が、お父さまを部屋へと運ぶ姿を見届けると、私へ体を向け、ニッコリと笑って。
「はじめまして、リディアお嬢様。私は、マクスウェル公爵家のメイド長、テイラーと申します」
テイラーは、今朝方から、お父さまの体調がおもわしくなかったと告げた。
それから、また使用人を呼びつけ、別邸から一緒に来たノエル、ジャスミン、ジョンをそれぞれの持ち場へと案内させた。
「リディアお嬢様は、私が案内いたします」
テイラーは両手を前に組むと、私に有無を言わさず先を歩きはじめた。
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