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6 隠し扉の奥の箱
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公爵家で迎えた初めての朝は、鳥のさえずりで目覚めた。
南の窓のカーテンを開き窓を開けると、小鳥が一羽部屋の中に入ってしまった。
部屋は決して狭くはないけれど、飛び回ればぶつかって怪我をすることもあるだろう。
(外に出してあげないと)
飛び回っていた小鳥は、ベッドの奥壁の飾り棚にとまり、私の方に顔を向け首を傾げている。
「……ジッとしてて」
静かに近づいて、そっと手を伸ばした。
だが、捕まえる寸前で逃げられてしまった。
「あっ!」
小鳥は部屋の中を一周した後、窓の外へと飛んでいった。
(うん……怪我がなくてよかった)
すぐに窓を閉めて、さっき小鳥が止まった飾り棚に目を向けた。
小鳥を捕まえようと手を伸ばした時、棚の奥の壁に隙間が見えたのだ。
それがなんだか、すごく気になった。
「ここ……」
棚に飾られていた置物を退かすと、やはり隙間がある。
隠し扉のようにみえる。
とりあえず押してみたけれど、動くことはなかった。
「奥に何かありそうなんだけど」
もう一度、今度は押したまま手を横に動かしてみた。するとカタンと壁が動いた。
そこには棚と同じほどの空間があり、両手ほどの大きさの箱が置いてあった。
「どうして、こんな所に……?」
ここはお母さまの部屋だったと聞いた。
だったら、これはお母さまが……。
箱を取り出そうとした時、コンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「おはようございます。お嬢様」
扉の向こうから明るい声がする。
箱は後で調べることにして、急いで扉を閉め何事もなかったような顔をして「どうぞ」と、メイドを迎え入れた。
「リディアお嬢様、おはようございます」
挨拶をしながらカートを押して入ってきたのは、昨日、お茶を運んできてくれた若いメイドだった。
「リディアお嬢様のお部屋の担当となりましたミリーメイです。十六歳です。よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくね」
挨拶を終えたミリーメイは、手際よく運んできた朝食をテーブルの上に並べはじめた。
「ジャスミンさんから苦手な食べ物はないとお聞きしましたので、お食事は公爵様と同じ物を用意いたしました」
「ありがとう」
公爵様と同じ物……そう聞いてテーブルの上に並んだ料理を見て、思わず泣きそうになった。
(ラリーが毎朝食べていたメニューだ)
一切れのパンとキレイな形のオムレツ。野菜のスープと半分に切ったリンゴ。
スープはその日によって違ったけれど、他のメニューはいつも同じで、何も言わずに美味しそうに食べる彼に、飽きないのかと尋ねたことがあった。
『毎日メニューを考えるのは大変だからね。こうすれば、僕の朝食だけでも考えずにすむから』
優しい彼は、料理人を気遣って毎朝同じ料理を食べていた。
今も、変わっていないなんて。
ジッと料理を見ていたら、ミリーメイが「リンゴはもう少し小さくお切りしますね」とナイフで食べやすい大きさに切ってくれた。
「ありがとう、いただきます」
メニューは同じだったけれど、料理人は代わったようで、オムレツの味は覚えているものと違った。
確かあの頃料理長は40歳だったはず。辞めていてもおかしくはない。
食べ終えるころ、ミリーメイが飲み物を聞いてきた。
「紅茶になさいますか? カフェオレもご用意できます」
カフェオレには自信があるのだと、ミリーメイは瞳を輝かせる。
(そういえば、テイラーはまだお茶を上手に入れることができないと言ってた)
美味しい紅茶を淹れるのは難しく、前世の私も公爵家に入ったばかりの頃に何度も言われた。
いうだけの事はあり、テイラーの淹れるお茶は本当に美味しかった。
昨日のお茶も……。
「リディアお嬢様?」
ミリーメイの声にハッと我に返った。
前世を思い出してからというもの、メイドのリディアの記憶に捕らわれる時間が多くなっている。
「『カフェオレ』をお願いしてもいいかしら?」
「はい!」
明るい声で返事をしたミリーメイは、焙煎された珈琲豆をミルという道具に入れた。
ハンドルをくるくると回して、粉状になった珈琲豆を布のフィルターに入れ、大きめのカップに装着する。そこへゆっくりとお湯を注ぎ入れると、部屋に珈琲のほろ苦い香りが充満した。
「どうぞ温かいうちにお召し上がりください」
「ありがとう」
湯気の立つカフェオレは甘く優しい香りがした。
コーヒーはジョンが好んで飲んでいた。あまりにも美味しそうに飲むので私も一度飲んでみたのだが、苦くて酸っぱいだけで、まったく美味しいとは思えなかった。
前世でもコーヒーを淹れる様子を見たことはあったが、飲んだことは一度もなかった。
(ラリーも、苦手だと言っていた……)
カフェオレはコーヒーとミルクで作られたものだ。
香りはすごくいいけれど……。
あの時飲んだコーヒーの苦みを思い出しながら、私はカフェオレを一口飲んだ。
ミリーメイが入れてくれたカフェオレは、想像とは全く別物だった。絶妙な量のミルクとお砂糖がコーヒーの苦味を消し、味と香りを引き立てていて、私はあまりの美味しさに「おいしいっ!」と令嬢らしからぬ声を上げてしまった。
(ノエルに聞かれたら、はしたないと怒られるところだった)
コホンとひとつ咳払いをして、改めてミリーメイに「とても美味しいわ」と伝えた。
「ありがとうございます。カフェオレはお爺ちゃん直伝なんです」
ミリーメイは満面の笑みを浮かべる。
「リディアお嬢様、どうぞごゆっくり召し上がって下さい。その間に、私は着替えを用意してまいります」
そう告げて、ミリーメイは一旦部屋を出て行った。
南の窓のカーテンを開き窓を開けると、小鳥が一羽部屋の中に入ってしまった。
部屋は決して狭くはないけれど、飛び回ればぶつかって怪我をすることもあるだろう。
(外に出してあげないと)
飛び回っていた小鳥は、ベッドの奥壁の飾り棚にとまり、私の方に顔を向け首を傾げている。
「……ジッとしてて」
静かに近づいて、そっと手を伸ばした。
だが、捕まえる寸前で逃げられてしまった。
「あっ!」
小鳥は部屋の中を一周した後、窓の外へと飛んでいった。
(うん……怪我がなくてよかった)
すぐに窓を閉めて、さっき小鳥が止まった飾り棚に目を向けた。
小鳥を捕まえようと手を伸ばした時、棚の奥の壁に隙間が見えたのだ。
それがなんだか、すごく気になった。
「ここ……」
棚に飾られていた置物を退かすと、やはり隙間がある。
隠し扉のようにみえる。
とりあえず押してみたけれど、動くことはなかった。
「奥に何かありそうなんだけど」
もう一度、今度は押したまま手を横に動かしてみた。するとカタンと壁が動いた。
そこには棚と同じほどの空間があり、両手ほどの大きさの箱が置いてあった。
「どうして、こんな所に……?」
ここはお母さまの部屋だったと聞いた。
だったら、これはお母さまが……。
箱を取り出そうとした時、コンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「おはようございます。お嬢様」
扉の向こうから明るい声がする。
箱は後で調べることにして、急いで扉を閉め何事もなかったような顔をして「どうぞ」と、メイドを迎え入れた。
「リディアお嬢様、おはようございます」
挨拶をしながらカートを押して入ってきたのは、昨日、お茶を運んできてくれた若いメイドだった。
「リディアお嬢様のお部屋の担当となりましたミリーメイです。十六歳です。よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくね」
挨拶を終えたミリーメイは、手際よく運んできた朝食をテーブルの上に並べはじめた。
「ジャスミンさんから苦手な食べ物はないとお聞きしましたので、お食事は公爵様と同じ物を用意いたしました」
「ありがとう」
公爵様と同じ物……そう聞いてテーブルの上に並んだ料理を見て、思わず泣きそうになった。
(ラリーが毎朝食べていたメニューだ)
一切れのパンとキレイな形のオムレツ。野菜のスープと半分に切ったリンゴ。
スープはその日によって違ったけれど、他のメニューはいつも同じで、何も言わずに美味しそうに食べる彼に、飽きないのかと尋ねたことがあった。
『毎日メニューを考えるのは大変だからね。こうすれば、僕の朝食だけでも考えずにすむから』
優しい彼は、料理人を気遣って毎朝同じ料理を食べていた。
今も、変わっていないなんて。
ジッと料理を見ていたら、ミリーメイが「リンゴはもう少し小さくお切りしますね」とナイフで食べやすい大きさに切ってくれた。
「ありがとう、いただきます」
メニューは同じだったけれど、料理人は代わったようで、オムレツの味は覚えているものと違った。
確かあの頃料理長は40歳だったはず。辞めていてもおかしくはない。
食べ終えるころ、ミリーメイが飲み物を聞いてきた。
「紅茶になさいますか? カフェオレもご用意できます」
カフェオレには自信があるのだと、ミリーメイは瞳を輝かせる。
(そういえば、テイラーはまだお茶を上手に入れることができないと言ってた)
美味しい紅茶を淹れるのは難しく、前世の私も公爵家に入ったばかりの頃に何度も言われた。
いうだけの事はあり、テイラーの淹れるお茶は本当に美味しかった。
昨日のお茶も……。
「リディアお嬢様?」
ミリーメイの声にハッと我に返った。
前世を思い出してからというもの、メイドのリディアの記憶に捕らわれる時間が多くなっている。
「『カフェオレ』をお願いしてもいいかしら?」
「はい!」
明るい声で返事をしたミリーメイは、焙煎された珈琲豆をミルという道具に入れた。
ハンドルをくるくると回して、粉状になった珈琲豆を布のフィルターに入れ、大きめのカップに装着する。そこへゆっくりとお湯を注ぎ入れると、部屋に珈琲のほろ苦い香りが充満した。
「どうぞ温かいうちにお召し上がりください」
「ありがとう」
湯気の立つカフェオレは甘く優しい香りがした。
コーヒーはジョンが好んで飲んでいた。あまりにも美味しそうに飲むので私も一度飲んでみたのだが、苦くて酸っぱいだけで、まったく美味しいとは思えなかった。
前世でもコーヒーを淹れる様子を見たことはあったが、飲んだことは一度もなかった。
(ラリーも、苦手だと言っていた……)
カフェオレはコーヒーとミルクで作られたものだ。
香りはすごくいいけれど……。
あの時飲んだコーヒーの苦みを思い出しながら、私はカフェオレを一口飲んだ。
ミリーメイが入れてくれたカフェオレは、想像とは全く別物だった。絶妙な量のミルクとお砂糖がコーヒーの苦味を消し、味と香りを引き立てていて、私はあまりの美味しさに「おいしいっ!」と令嬢らしからぬ声を上げてしまった。
(ノエルに聞かれたら、はしたないと怒られるところだった)
コホンとひとつ咳払いをして、改めてミリーメイに「とても美味しいわ」と伝えた。
「ありがとうございます。カフェオレはお爺ちゃん直伝なんです」
ミリーメイは満面の笑みを浮かべる。
「リディアお嬢様、どうぞごゆっくり召し上がって下さい。その間に、私は着替えを用意してまいります」
そう告げて、ミリーメイは一旦部屋を出て行った。
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