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9 墓地
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地中に納められている二つの棺を、お父さまは心痛な面持ちで見下ろしている。
棺に眠っているのはお父さまの両親、私の祖父母となるマクスウェル公爵夫妻だ。
馬車の事故で亡くなった祖父母の遺体は損傷が激しかったため、お父さまと執事以外、誰の目にも触れることなく棺に収められたという。
しきたりを理由に私を両親から引き離した祖父母。
亡くなったと聞いた時も、棺を目の前にしても、悲しいとは思えなかった。
リディア・マクスウェルとしては一度も会うことはなかったから当然だろうか。
前世では優しくしてもらったこともあったのだ。
しかし、棺を見て真っ先に思い出したのは、鬼の形相で息子を誑かしたと罵る声と振り下ろされた手だった。
罵声や恐怖は幸せな思い出よりも深く心に刻まれるのだろうか。
(怖かった記憶と一緒に、メイドのリディアを庇ってくれたラリーのことも覚えている……)
生まれ変われば、もう二度と公爵夫妻と会うことはないと思っていたのに、こうして孫として生まれ変わるなんて、私はもちろん公爵夫妻も思いもよらなかっただろう。
私にとっては前世も今も思い入れのないマクスウェル公爵夫妻。
だが、お父さまにとっては大切な両親だ。
棺を見つめ静かに涙を溢すお父さまを見ていたら、悲しくないのに胸が詰まり目に涙が浮かんできた。
両親を失った彼の悲しみはわかる。
前世で私も両親を亡くしているから。
けれど、こんな時どう声をかければいいのかわからない。
どんな言葉も彼の心を癒すことはできないと知っているから。
私は何も言わずに、ただお父さまの横に並び立っていた。
◇
ミリーメイが話したように、墓地に吹く風は強く、私は時折前髪を押さえながら、墓地を訪れる人々を様子見ていた。
参列者には公爵家に所縁のある貴族や公爵家の使用人たち、領民の姿があった。
彼らは故人を弔う側、マクスウェル公爵当主となったお父さまに会いに来ているように見えた。
だが、近寄ってはくるものの、お父さまの沈痛な表情に、一言も声をかけることができず離れていく。
(心から公爵夫妻を弔いに来ている人は少ないのね……)
お父さまだけではない。
はじめて公の場に現れた、公爵令嬢である自分に向けられる視線も多く感じられる。
私は、好奇に向けられる視線を無視して、棺に土がかけられ埋められる様子を静かに見届けていた。
鎮魂の歌が聞こえる中、風に乗り参列者たちのひそひそとした話し声が私の耳に入ってきた。
「あの方がこれまで隠されていた娘なの?」
「本当にいらしたとは……」
「公爵様とは似ていないようだが本当に娘なのか?」
こうした声を聞くことは想定内。特に気にはならなかった。
(私は別邸にいただけで隠されていたつもりはないし、お父さまに似ていないのは事実だから)
「あの子にそっくりだわ」
「リディア……名前まで同じなんて……」
「見て、あの紫色の目、リディアと全く同じよ」
「もしかしたら生まれ変わりなのでは……」
「そんなこと……」
(えっ……?)
違う方向から聞こえてきた声は、明らかに前世の私を知る者の言葉だった。
声のした方に顔を向けると、話していただろう婦人たちがパッと顔を背けた。
(あの人たちは……)
見えたのは一瞬だったが、その顔には見覚えがあった。
婦人たちは、前世の私が最初に働いていた伯爵家の娘達だ。
両親を亡くし、唯一の肉親となった兄とも離れて伯爵家で働きはじめた頃、私は仕事を覚える側で幼かった彼女達の遊び相手役をしていた。
(立派になったのね……)
マクスウェル公爵家で働くようになってからは一度も会うことはなかったが、メイドのリディアのことを覚えていてくれたのだ。
見つめていると、彼女たちと目が合った。つい嬉しくなって微笑むと、彼女達はまるで幽霊を見たかのような顔をして人混みの中へ消えてしまった。
棺に眠っているのはお父さまの両親、私の祖父母となるマクスウェル公爵夫妻だ。
馬車の事故で亡くなった祖父母の遺体は損傷が激しかったため、お父さまと執事以外、誰の目にも触れることなく棺に収められたという。
しきたりを理由に私を両親から引き離した祖父母。
亡くなったと聞いた時も、棺を目の前にしても、悲しいとは思えなかった。
リディア・マクスウェルとしては一度も会うことはなかったから当然だろうか。
前世では優しくしてもらったこともあったのだ。
しかし、棺を見て真っ先に思い出したのは、鬼の形相で息子を誑かしたと罵る声と振り下ろされた手だった。
罵声や恐怖は幸せな思い出よりも深く心に刻まれるのだろうか。
(怖かった記憶と一緒に、メイドのリディアを庇ってくれたラリーのことも覚えている……)
生まれ変われば、もう二度と公爵夫妻と会うことはないと思っていたのに、こうして孫として生まれ変わるなんて、私はもちろん公爵夫妻も思いもよらなかっただろう。
私にとっては前世も今も思い入れのないマクスウェル公爵夫妻。
だが、お父さまにとっては大切な両親だ。
棺を見つめ静かに涙を溢すお父さまを見ていたら、悲しくないのに胸が詰まり目に涙が浮かんできた。
両親を失った彼の悲しみはわかる。
前世で私も両親を亡くしているから。
けれど、こんな時どう声をかければいいのかわからない。
どんな言葉も彼の心を癒すことはできないと知っているから。
私は何も言わずに、ただお父さまの横に並び立っていた。
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彼らは故人を弔う側、マクスウェル公爵当主となったお父さまに会いに来ているように見えた。
だが、近寄ってはくるものの、お父さまの沈痛な表情に、一言も声をかけることができず離れていく。
(心から公爵夫妻を弔いに来ている人は少ないのね……)
お父さまだけではない。
はじめて公の場に現れた、公爵令嬢である自分に向けられる視線も多く感じられる。
私は、好奇に向けられる視線を無視して、棺に土がかけられ埋められる様子を静かに見届けていた。
鎮魂の歌が聞こえる中、風に乗り参列者たちのひそひそとした話し声が私の耳に入ってきた。
「あの方がこれまで隠されていた娘なの?」
「本当にいらしたとは……」
「公爵様とは似ていないようだが本当に娘なのか?」
こうした声を聞くことは想定内。特に気にはならなかった。
(私は別邸にいただけで隠されていたつもりはないし、お父さまに似ていないのは事実だから)
「あの子にそっくりだわ」
「リディア……名前まで同じなんて……」
「見て、あの紫色の目、リディアと全く同じよ」
「もしかしたら生まれ変わりなのでは……」
「そんなこと……」
(えっ……?)
違う方向から聞こえてきた声は、明らかに前世の私を知る者の言葉だった。
声のした方に顔を向けると、話していただろう婦人たちがパッと顔を背けた。
(あの人たちは……)
見えたのは一瞬だったが、その顔には見覚えがあった。
婦人たちは、前世の私が最初に働いていた伯爵家の娘達だ。
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(立派になったのね……)
マクスウェル公爵家で働くようになってからは一度も会うことはなかったが、メイドのリディアのことを覚えていてくれたのだ。
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