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10 公爵邸へ
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日の落ちる頃、私たちは帰路についた。
公爵邸までの帰りは、お父さまとは別の馬車に乗ることになった。
(よかった。二人きりではどうすればいいかわからなかったから)
ほっとしたものの、ある事をすっかり忘れていた私のせいで今度は違う緊張感に包まれることとなってしまった。
私はテイラーとミリーメイとの三人で公爵邸へ帰ることになっていた。
墓地でノエルの姿を見つけた私は、話をしたいと思い、同乗を求めた。
(どうしよう。もっと早くに思い出していれば……)
二人が顔を合わせた途端、鋭い視線を交わしたのを見て、私はノエルとテイラーが犬猿の仲だったことを思い出した。
ただ、メイドのリディアが公爵家で働きはじめて間もなくノエルは休職した為、二人の仲が悪い理由はわからない。
「お元気そうね、テイラー」
私の横に座るノエルが、口角を上げてテイラーに話しかけた。(でも、目が笑っていない)
対面に座るテイラーは、ノエルをチラリと目にすると視線を逸らした。
「ええ、あなたも」
静まり返った車内には、ぴりぴりとした空気が漂っている。
(ノエルとたくさん話をしたかったのに、こんな雰囲気じゃ話なんてできない)
緊張しているのは私だけではなかった。テイラーの隣に座るミリーメイは、カチカチに固まっている。
(ごめんね、ミリーメイ)
公爵邸まで俯いたままだったミリーメイは、馬車が邸に到着するとハッと顔を上げ、席を立った。
「リディアお嬢様、わ、私は先にお部屋の用意をしてまいります」
早口で話しペコリとお辞儀をすると、あっという間に馬車を降り、小走りに屋敷の中に入っていった。
その様子に、テイラーは眉を吊り上げた。
「見苦しい。貧乏男爵の娘だから躾も教養もないのかしら」
その口調が公爵夫妻とあまりにもよく似ていて、どきっとした。
(そんなに強い言い方をする人じゃなかったのに)
テイラーはマクスウェル公爵家の遠縁にあたる子爵家の三女だ。
公爵家で働いているのは、結婚相手が決まるまでの間だと話していた。
(そういえば……)
今も公爵家にいるということは、まだ結婚していないのだろうか?
彼女の手に結婚指輪は見当たらない。
生まれ変わり、再び公爵家で会えたことは嬉しいけれど、結婚していないことは疑問に思えた。
(テイラーほどの女性がどうして?)
テイラーは知的で美しい女性だ。
背中までの長く真っ直ぐなプラチナブロンドの髪に切れ長の灰色の目、スッと伸びる鼻筋、引き締まった赤い唇、醸し出される雰囲気に、前世の私は憧れていた。
メイドのリディアが亡くなった時、彼女は十九歳。
縁談はいくつもあったはずだ。なかったとは考えられない。
私の乳母になってしまったノエルのように、理由があってこれまで結婚しなかったのだろうか。
馬車を降りると、ノエルも仕事があると先に屋敷に入ってしまった。
「ただのメイドのノエルにはまだやるべき仕事がたくさんありますから」
屈辱を含んだような口調でノエルのことを話したテイラーは、私へと体を向けると急に笑顔になった。
「お嬢様、一人でお部屋まで戻れますか?」
「私の部屋?」
「はい、お部屋の場所は覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、わかります」
私は昨日ここへ来たばかり。
これまで移動時には誰かが付き添っていた為、テイラーは心配してくれているのだろう。
しかし私には前世の記憶がある。公爵家が大きく改装されていない限りは大丈夫だ。
「玄関フロアを左へ真っ直ぐ行き、着いた先の階段を三階まで上がり、廊下を西にいった突き当りの部屋ですよね」
「素晴らしい、その通りです」
テイラーは急ぎの用事を思い出した為、一人で部屋へ戻って欲しいのだと話した。
「わかりました」
玄関ホールまで一緒に入ったテイラーは、そこから急ぎ足で正面にある階段を上り二階へと向かった。
メイドのリディアの記憶では、公爵家の二階フロアは主人の居住スペースだった。
二階へ入ることが許されていたのは、執事だけ。メイドや使用人は、呼び鈴が鳴らされた時にだけ、入ることが許されていた。
(ルールが変わった? メイド長も自由な往来が許されたの?)
昨日、テイラーが彼を『ラリー』と呼んだことも気になっていただけに、急いで二階へと向かったことに胸が騒いだ。
それと同時にある疑問が浮かんだ。
(どうしてお母さまの部屋は三階にあるのだろう)
私の部屋は、お母さまが生前使われていた部屋だと聞いた。
そこは公爵邸の三階、元は客間だった部屋。
考えればおかしな話だ。
ラリーの部屋は二階のフロアにあった。彼の部屋は結婚後もそのまま住むことを想定し作られていて、部屋には続き部屋もあった。その部屋が家族となる人の部屋になると聞いていた。
(どうしてお母さまの部屋はあの部屋じゃないの?)
お母さまが自ら三階の客間を自室として使いたいと言ったのならば、わからなくもないけれど。
公爵邸までの帰りは、お父さまとは別の馬車に乗ることになった。
(よかった。二人きりではどうすればいいかわからなかったから)
ほっとしたものの、ある事をすっかり忘れていた私のせいで今度は違う緊張感に包まれることとなってしまった。
私はテイラーとミリーメイとの三人で公爵邸へ帰ることになっていた。
墓地でノエルの姿を見つけた私は、話をしたいと思い、同乗を求めた。
(どうしよう。もっと早くに思い出していれば……)
二人が顔を合わせた途端、鋭い視線を交わしたのを見て、私はノエルとテイラーが犬猿の仲だったことを思い出した。
ただ、メイドのリディアが公爵家で働きはじめて間もなくノエルは休職した為、二人の仲が悪い理由はわからない。
「お元気そうね、テイラー」
私の横に座るノエルが、口角を上げてテイラーに話しかけた。(でも、目が笑っていない)
対面に座るテイラーは、ノエルをチラリと目にすると視線を逸らした。
「ええ、あなたも」
静まり返った車内には、ぴりぴりとした空気が漂っている。
(ノエルとたくさん話をしたかったのに、こんな雰囲気じゃ話なんてできない)
緊張しているのは私だけではなかった。テイラーの隣に座るミリーメイは、カチカチに固まっている。
(ごめんね、ミリーメイ)
公爵邸まで俯いたままだったミリーメイは、馬車が邸に到着するとハッと顔を上げ、席を立った。
「リディアお嬢様、わ、私は先にお部屋の用意をしてまいります」
早口で話しペコリとお辞儀をすると、あっという間に馬車を降り、小走りに屋敷の中に入っていった。
その様子に、テイラーは眉を吊り上げた。
「見苦しい。貧乏男爵の娘だから躾も教養もないのかしら」
その口調が公爵夫妻とあまりにもよく似ていて、どきっとした。
(そんなに強い言い方をする人じゃなかったのに)
テイラーはマクスウェル公爵家の遠縁にあたる子爵家の三女だ。
公爵家で働いているのは、結婚相手が決まるまでの間だと話していた。
(そういえば……)
今も公爵家にいるということは、まだ結婚していないのだろうか?
彼女の手に結婚指輪は見当たらない。
生まれ変わり、再び公爵家で会えたことは嬉しいけれど、結婚していないことは疑問に思えた。
(テイラーほどの女性がどうして?)
テイラーは知的で美しい女性だ。
背中までの長く真っ直ぐなプラチナブロンドの髪に切れ長の灰色の目、スッと伸びる鼻筋、引き締まった赤い唇、醸し出される雰囲気に、前世の私は憧れていた。
メイドのリディアが亡くなった時、彼女は十九歳。
縁談はいくつもあったはずだ。なかったとは考えられない。
私の乳母になってしまったノエルのように、理由があってこれまで結婚しなかったのだろうか。
馬車を降りると、ノエルも仕事があると先に屋敷に入ってしまった。
「ただのメイドのノエルにはまだやるべき仕事がたくさんありますから」
屈辱を含んだような口調でノエルのことを話したテイラーは、私へと体を向けると急に笑顔になった。
「お嬢様、一人でお部屋まで戻れますか?」
「私の部屋?」
「はい、お部屋の場所は覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、わかります」
私は昨日ここへ来たばかり。
これまで移動時には誰かが付き添っていた為、テイラーは心配してくれているのだろう。
しかし私には前世の記憶がある。公爵家が大きく改装されていない限りは大丈夫だ。
「玄関フロアを左へ真っ直ぐ行き、着いた先の階段を三階まで上がり、廊下を西にいった突き当りの部屋ですよね」
「素晴らしい、その通りです」
テイラーは急ぎの用事を思い出した為、一人で部屋へ戻って欲しいのだと話した。
「わかりました」
玄関ホールまで一緒に入ったテイラーは、そこから急ぎ足で正面にある階段を上り二階へと向かった。
メイドのリディアの記憶では、公爵家の二階フロアは主人の居住スペースだった。
二階へ入ることが許されていたのは、執事だけ。メイドや使用人は、呼び鈴が鳴らされた時にだけ、入ることが許されていた。
(ルールが変わった? メイド長も自由な往来が許されたの?)
昨日、テイラーが彼を『ラリー』と呼んだことも気になっていただけに、急いで二階へと向かったことに胸が騒いだ。
それと同時にある疑問が浮かんだ。
(どうしてお母さまの部屋は三階にあるのだろう)
私の部屋は、お母さまが生前使われていた部屋だと聞いた。
そこは公爵邸の三階、元は客間だった部屋。
考えればおかしな話だ。
ラリーの部屋は二階のフロアにあった。彼の部屋は結婚後もそのまま住むことを想定し作られていて、部屋には続き部屋もあった。その部屋が家族となる人の部屋になると聞いていた。
(どうしてお母さまの部屋はあの部屋じゃないの?)
お母さまが自ら三階の客間を自室として使いたいと言ったのならば、わからなくもないけれど。
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