一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

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11 使用人たちの話

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 いろいろと考えながら、部屋へと続く廊下を歩いていると、少しだけ開いていた窓から声が聞こえてきた。
 覗きなんて悪いことだと思いながらも、気になりそっと覗いてみると、庭の片隅に集まっている使用人たちの姿があった。
 別邸で一緒に暮らしていたジョンの姿もそこにある。

 公爵家には百人ほどの使用人がいる。
 メイドのリディアは面識がなかったが、ジョンは以前から公爵邸で働いていたのだ。
 使用人たちは、どうやら久しぶりに本邸へと戻ったジョンを囲んで世間話に花を咲かせているようだ。

「まだ飯の時間じゃないのか?」
「さっきメイドたちが帰ったばかりだからまだ時間がかかるだろう」

 使用人の話で、先に部屋へと戻ったミリーメイのことを思い出した。
(早く部屋へ行かなくちゃ。ミリーメイが待ってるかもしれない)
 その場を立ち去ろうとした時、使用人たちの笑い声が上がった。

(何の話をしているんだろう)
 つい気になった私は、彼らに気づかれないように壁に隠れ、聞き耳を立てた。

「エールも飲んだことがないってホントかよ?」
「ああ、別邸に男は俺だけだったし、二人も飲まないから酒は飲んでいない」
「ま、待てよ! ジョン、お前まさかこの十八年女と一度も寝てないとか言わないよな⁈」
 それはないだろうと使用人たちが笑う。
「そこは、まあ……」
 小さくなったジョンの声に、いろいろと想像した私はぎゅっと目を瞑りぶんぶんと首を横に振った。

(聞かない方がよかった)
 ずっと一緒に暮らしてきた家族同然のジョンの事情は、知らなくてもよかった。
 盗み聞きなんてした私が悪いとわかっているけど、なんだかモヤモヤする。

「そうか、ま、そんな話は置いといて」
 使用人の一人が前振りをして、ぐっと声を低くした。

「あいつ、最近特におかしいと思わないか?」
「あいつって?」
「テイラーのことだろう?」
「しっ、名前は出すな」

「おかしいとはなんだ?」
 詳しく教えろと、ジョンの声が低くなる。

「あいつ、若奥様が亡くなる前ぐらいから急に態度が大きくなってさ。前から俺たちを見下したようにしてたけど、まるでローレンス様の後妻になったかのように振舞いはじめたんだ」
「前からローレンス様を狙ってやがったし」

(テイラーが?)
 ……そんなことはないと思う。
 テイラーはよく、弟と同じ歳だからラリーのことは男性として見ることができないと言っていた。
 ラリーのことを狙うなんて……。

「呼ばれてもいないのにローレンス様の部屋に勝手に入るようになって。何度か公爵夫人が注意されているのを聞いたんだ」
「でもあいつ夫人に気に入られてたんだろう?」
「ああ、だからそこまで強く言われていなかった」
「公認だったってことか?」
「アニス様は部屋に籠りっきりだったから」
「ローレンス様も男だしな。メイドの一人や二人、手を出してもおかしくはない」
「なんだ? 二人はそういう関係だったのか」
「いや、かもしれないって話だ」
「男と女が部屋に二人きりでいれば、そうなるのが普通だろ?」
「たとえその気がない女でも」
「女なら誰でもいいのかよ」
 使用人たちは何が楽しいのか笑っている。

(そういう関係って、お父さまラリーとテイラーが?)
 想像してぞっとした。
 今聞いた話は、使用人たちの下世話な噂話だ。
 かもしれない話だと言った。誰一人、真実は知らないのだ。
 そう思いながらも、テイラーに嫌悪感を抱いてしまった。
『ラリー』と呼んだこと、急ぐようにお父さまラリーの部屋へと向かったことが、今聞いてしまった話と繋がるせいだ。
 メイドのリディアは、テイラーのことを姉のように慕っていた。
 その気持ちは今もある。
 だから嫌いじゃない。
 けれどお父さまラリーとテイラーが関係を持っていると考えると気分が悪くなる。

 前世を思い出しているから?
 お父さまラリーに恋心を抱いているから?
 けれど、前世を思い出し、お父さまラリーへの感情が変わっても、お母さまにはこんな風に思ったことはない。
 テイラーにだけ、不快な気持ちになる。そのせいか、使用人たちの笑い声が頭に響いた。
(これ以上は聞かない方がいい)
 部屋へ戻ろうと考えていた時。

「この話、知ってるか?」
「なんだ?」
 使用人の一人が、ジョンに話しかけた。

「あの女にはさらにヤバい話があるんだぜ」
「ヤバいって?」

(テイラーの話よね?)
 お父さまとのことだけでも十分な話だと思ったが、ここまで聞くと内容が気になる。
 もう少しだけ聞かせてもらおうと、私は耳をそばだてた。

「いや、実はさ。アニス様が亡くなったのはあの女の仕業じゃないかって話があるんだよ。夫妻の馬車の事故にも一枚絡んでるんじゃないかって話もある」
「俺も聞いた! メイドが消えてんだよ、な?」
「消えたって?」
「ここだけの話だけどよ、若奥様の部屋に飲みかけのワイングラスがあったらしい」
「若奥様はご病気だった、それなのに」
「ワインってとこがさらに怪しいんだ」
「どうして?」
 ジョンが訝しげに尋ねる。
「俺はここで働きだして六年だが、その間若奥様がワインを召し上がられたなんて話は聞いた事がないんだ」
「俺も、十年目になるが一度も聞いたことがない」
「ワインはマクスウェル公爵領の特産品だ、アニス様も一度くらい飲まれたこともあるんじゃないか?」
 ジョンが話すと、数人の使用人が声を揃えた。
「いや、ない。若奥様はどんなに進められても、ワインだけは一切口にはされなかった」

 私の心臓がバクバクと音を立てはじめた。
 ワインを飲んだ後にお母さまは亡くなった、それが真実なら……。

「しかし、それだけであの女を疑うことは」
「実は、亡くなられる前の晩に若奥様の部屋から出て行くあの女の姿を見たやつがいてさ」

 テイラーが部屋を出て行く所を見た使用人と、部屋に残されていたワイングラスを最初に見つけ片付けたメイドは、その直後に公爵家を辞め、そのまま行方がわからなくなっているのだと使用人は話した。

 メイドのリディアは、テイラーが用意してくれた毒入りのワインを飲んで命を絶った。
 そのワインは見た目も味も変わらないのだと、苦しむことなく眠るように天に召されることができると……。
 テイラーなら、あのワインを手に入れることができるだろう。
 しかし、お母さまには飲む理由がないはず。
 お母さまは、私の誕生日を楽しみにしていてくれたのだから。

 使用人たちは、二人とも始末されたんじゃないかとざわつきはじめた。

「止めるんだ、証拠のない話はしないほうがいい。もし辞めていった使用人たちが本当に始末されていたのなら、今こうして話している自分たちの身も危うい」

 ジョンが諭すと、使用人たちはすぐに口を閉ざした。
 間もなく、静まり返った場を壊すようジョンが口火を切った。

「なぁ、早く食堂へ行かないか? 俺、腹減ってるんだけど」

 戯けたようにジョンが話すと、使用人たちは再び話しはじめた。

「よし、ジョン久しぶりに朝まで飲むぞ!」
「いや、無理だって。明日も仕事があるし、俺十八年間飲んでないんだぞ」
「だいじょーぶ、体は覚えてるって。それに、俺は休みだ」

 使用人たちとジョンのゲラゲラという笑い声が遠ざかった。
 食堂へ向かったのだろう。

 使用人たちがいなくなり、一人になった途端、さっき聞いた話が頭の中でぐるぐると思い出された。

 お父さまとテイラーが……。
 テイラーがお母さまを……。
 使用人とメイド……祖父母まで……。

 もしかしたら、メイドのリディアも……?

「私も、部屋に戻らないと」

 わからないことだらけで頭がうまく回らない。
 とりあえず、ミリーメイが待つ部屋へと急いだ。
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