一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

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14 追想②〜ローレンス〜

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 翌日、私は学園からいつもの時間に邸へ帰った。
 昨夜リディアと結ばれたこともあり、かなり浮かれていた。
 いっそこのまま、リディアとの間に子供ができれば。
 マクスウェル公爵家の子供を孕っているならば、すぐに結婚を許されるのではないかと考えていた。



 異変を覚えたのは玄関ホールだった。

 出迎えたセバスチャンの顔色が悪い。

(何かあったのか?)

 嫌な予感を抱えたまま二階へと階段を上り終えたところに、テイラーが走ってきた。

「ローレンス様、すぐに執務室へ! リディアが! このままでは死んでしまいます!」
「……!」

 理由はわからないまま、すぐに執務室へと向かった。

 勢いよく扉を開くと、部屋の中央で母親の足下に蹲っているリディアの姿が目に入った。

(何があった⁈)

 母親の手には鞭が見える。
 その手が振り上げられた瞬間、私は彼女を庇うようにして、母親との間に入り両手を広げた。

「ローレンス、どきなさい!」

 振り下ろすことのできない手が、わなわなと震えている。

「やめて下さい、どうしたのですか!」

 この時私は、交際が知られているとは思わず、何か母親の逆鱗に触れてしまったのだと考えていた。
 普段温厚な母親だが、気に入らないことがあると途端にこのような癇癪を起こすことがままあったからだ。

 母親は鞭を両手で握りしめ、私に目を向けた。

「聞いたのよ、あなたがこの女に誑かされたと。メイドごときが、私たちの大切な息子に手を出すなんて! 穢らわしい女には罰を与えなければ!」

 誑かされた……?
 一体母親は何を言っているのか?

「誑かされてなどいません、僕は」

 この際、この場で彼女リディアとの交際を話してしまおう。
 すぐには許されなくとも、許してもらえるまで何度も気持ちを伝えれば、必ず……。

 私にはとにかく優しい両親だ。
 心から伝えればわかってくれる、そう思っていた。
 ──だが、それは私の都合のいい甘い考えだった。

「お前が何と言おうと関係ない。そのメイドには罰を与えねばならん!」

 父親が声を荒げる。

「父上、聞いて下さい。僕は彼女と」

 昨夜、プロポーズをした、結婚を約束したと、話すつもりだった。

 だが、父親は私の話を聞くどころか、顔も見ようとせず、冷たい目でリディアを見据える。

「父上!」

「その女は公爵家から出て行ってもらう」

 父親が言い捨てると、母親は「そうね、そうしましょう」と同意を示した。

「何を……まさかここから、彼女を追い出すというのですか?」

「当然だ。体を使い息子を誘惑するようなあばずれは公爵家においては置けない」

 父親が信じられないことを口にした。
 リディアが体を使い誘惑するようなあばずれ?
 違う、違う……!

「違う! 僕は彼女と交際しています! 彼女は恋人です、結婚するんです!」

 父親の腕を掴み、無理矢理顔を合わせ叫んだ。
 昨夜プロポーズをしたんだ。
 結婚する、幸せにすると決めたんだ!

「ローレンス!」

 父親は私の手を振り払い目を据えた。

「メイドを恋人などとふざけたことを!」
「本当です! 僕は、本気で」

 口ごたえをする私に、父親は血相を変えて拳を振り上げた。

「あなた!」

 私を庇うように、母親が目の前に立ち塞がった。

「あなた、ローレンスを叱らないで。この子は、悪くないの。結婚相手を決めるまでの間、ちょっと遊びたかっただけなのよ」

 母親は私へと振り向き「そうでしょう?」と目を細めた。

(違う、僕は本気だ。遊びなんかじゃない)

 本気だ、本気でリディアと結婚したい、するつもりでいる。
 しかし、今私がそれを口にすれば、父親は再び怒りだし、母親はすぐさまリディアに鞭を振るうだろう。

 ──そう思うと体が動かなかった。

 立ち尽くす私を見て、母親は満足そうに微笑んだ。

 父親は顔を顰めたまま、振り上げていた手を下ろし、母親と目を合わせた。

「ただの遊びだというのか?」
「そうよ、あなただって覚えがあるでしょう?」

 母親に問われ、父親は気まずそうに目を逸らした。

 母親は床に蹲っているリディアを冷たく見据える。
 リディアは下を向いたままカタカタと震えていた。

「メイド、お前はもういいわ。部屋に戻って荷物をまとめて、明日の早朝、屋敷を出ていきなさい」

 リディアは蹲ったまま床に両手を突き頭を下げた。

「……申し訳……ございませんでした……」

 リディアは下を向いたまま、足を引きずるようにして部屋を出ていった。





 その後、私は両親から謹慎を言い渡された。

 部屋外には、私を見張るために使用人が置かれた。

 私は、部屋から一歩も出ることができなくなってしまった。

 私は、リディアが好きだと言っていた椅子に腰を下ろし、頭を抱えていた。


「諦めてしまうのですか?」

 私を心配して部屋へ来てくれていたテイラーが、今にも泣き出しそうな声で話した。

 このままリディアと離れ離れになってもいいのかと言って、テイラーは私を慰めるように肩に手を置いた。

「情けないが、どうすればいいのかわからない」
「ローレンス様」

 今すぐにリディアの下へ行きたいのに、それすら出来ない自分が情けなかった。

 そもそも、こうなってしまったのは自分のせいだ。

 さっき母親は、私とリディアの関係を『聞いた』と言っていた。
 誰から聞いたのだろう。
 私たちの交際は、テイラー以外誰も知らない。
 テイラーは私たちの味方だ。
 彼女が話すはずはない。

 昨夜、誰かに見られていたのだ。
 今朝方かもしれない。それしか考えられない。
 油断していた、浮かれて周りを確認できていなかった。

(もっとちゃんとしていれば……)

 ──今更、そんなことを考えても意味はない。

「この家を捨てて、リディアを連れてどこか遠くに行きたい」

 何の考えもなく、思いつくまま気持ちを言葉にした。

「ローレンス様、それは無理です。公爵家で生まれ、貴族の暮らし方しか知らない貴方が、リディアを連れて外に出て暮らしていけると思いますか? 世間はそう甘くはありません」

 冷静なテイラーの言葉に、ついカッとなって声を荒げた。

「だったら、どうすればいいと言うんだ! このままリディアを失うぐらいなら、僕は死んだ方がましだ!」

 本心だった、もう死んでもいいと思っていた。
 明日になれば彼女は、ここを追い出される。
 永遠に会えなくなるかもしれない。

「ローレンス様……」

 テイラーは哀れむような眼差しで私を見た。

「すまない……」

 子供のように当たり散らしてしまった自分が恥ずかしく思えた。

「死んでもかまわないと言われるのなら……」
「……?」
「──ローレンス様、こんな言い伝えがあることをご存知ですか?」

 テイラーが私の耳に囁いた。

「言い伝え?」

 テイラーに目を向けると、彼女は満面の笑みを浮かべ、私がしらなかった生まれ変わりの言い伝えを教えてくれた。

それは、
『満月の明かりの下、二人同時に誓いを立てて、命を絶つ』
というものだった。

 偶然にも、その日は満月だった。

 私は、テイラーから聞いた言い伝えを信じ、二人で命を断つことを決めた。





 ──真夜中。
 夜空には眩しいほどに丸く大きな月が輝いていた。

 テイラーの手を借りて部屋を抜け出した私は、秘密の逢瀬の場所である地下室で、リディアと会った。

 言い伝えを信じ生まれ変わると決めた私たちのために、テイラーは、苦しむことなく死ぬことができるようにと、毒の入ったワインと、二つのグラスを用意してくれていた。

 グラスには青い星と赤い星が描かれていた。
 テイラーは、青い星のグラスを私に、赤い星のグラスをリディアに使って欲しいと言った。
 二つの星が二人を導き、再び出逢えるようにと思いを込めたと話すと、私とリディアに別れの言葉を告げて部屋を後にした。



 テイラーを見送った後、私たちは、部屋の奥にある長椅子にいつものように二人並んで座り見つめ合った。

 リディアの頬は赤くなっていた。
 手や足にもいくつも傷が見える。
 全部、私の両親がつけた傷だ。
 しかし、それもすべて私のせい。
 私が、彼女を傷つけてしまった。

「リディア、守れなくてごめん」

 愛する人を守ることもできず、立ち尽くしていた自分が情けない。
 こうして謝ることしかできない。

「守ってくれたわ」

 リディアは柔らかく微笑んだ。

「あんなの守ったとはいえない。何も出来なかった」

 リディアはニッコリと笑って、首を横にした。

「恋人だと言ってくれて嬉しかった」
「リディア……」

 私は、テイラーが用意してくれた二つのグラスに、毒の入った赤いワインを注ぎ入れた。

 芳醇な香りに酔いそうになりながら、ワインを見つめた。

 ──これを飲めば生まれ変われる──

 それだけを思っていた。
 死ぬことは怖くなかった。
 私たちは死ぬのではない、二人一緒に生まれ変わるのだ。

 最初に私が一口飲んだ。
「不味いっ……」

 その味に顔を顰めると、リディアがグラスを手に取りコクコクト飲んだ。

「本当だ。美味しくない……」

 もっと美味しいものだと思っていたと、残念そうな顔をする。
 その顔がかわいくて、私はおもわず笑ってしまった。
 リディアも一緒に笑って……。

 その後、二人でグラスに注いだワインを飲み干し、最後の口づけを交わした。

「生まれ変わったら、一緒になろう。どんな姿に変わっても、僕は必ず君を見つける、君を好きになる』

「私は、すぐに見つけてもらえるように、今と同じ姿に……生まれ変わる。あなたの……そばに……」

「リディア……」


 ──生まれ変わったら、必ず君に会いに行く──
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