一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

文字の大きさ
23 / 39

23 もう少し話を

しおりを挟む
 馬車が公爵邸へと着いたのは、西の空に明るい星が見える頃だった。
 玄関横に馬車をつけると、両開きの扉が開かれた。
 ホールには帰りをずっと待っていたのか、不機嫌な様子のテイラーと、疲れた顔をしたミリーメイ、他に数名の使用人の姿があった。

「お帰りなさいませ」

 ラリーが馬車を降りると、テイラーが誰よりも先に近づいてきた。

 さっき話を聞いたばかりだからか、行動のひとつひとつが怪しく思えて、つい目で追ってしまった。
(いけない、こんな風に見ていたら怪しまれちゃう)

 ラリーに続くように、私とセバスチャンとノエルは馬車を降り、玄関ホールへと入った。

 ノエルはその場で「それでは、失礼いたします」と告げ、仕事へと向かった。
 帰りの馬車の中で聞いた現在のノエルの仕事は、主に若いメイドが働く掃除メイドだった。
 私の乳母であるノエルにその職はありえないと、ラリーはセバスチャンに詰め寄った。

「現在、使用人の統括はメイド長であるテイラーに任されております」
 それを聞いたラリーは、ノエルに「すまない」と謝罪の言葉を述べた。

 急遽、公爵夫妻が亡くなったために、今のラリーは公爵の継承者ではあるものの、すべての権限を持たないのだという。
 国王から爵位継承の書状が届けられれば、襲爵し正式なマクスウェル公爵となると。

「あと半月程で書状が届く。そうなれば私がすべての権限を持つ。それまではすまないが…」

 ラリーが爵位を継承するまでは、前公爵の発言が有効とされる。
 前公爵からいろいろな権限を与えられているテイラーが、ラリーとの関係を急ぐ理由はそのためのようだ。

 ノエルを見送り、待っていてくれたミリーメイに声を掛け部屋へと戻ろうとしていると、ラリーに声を掛けられた。

「リディア、さっきのことでもう少し話がしたい。夕食の時間まで私の部屋で話をしよう」

 さっきのこと?
 テイラーのことだろうか? それとも?

「はい……お父さま」

 どの話かはわからないけれど、大切な話なのだろうと返事をした。
 ちゃんと、お父さまと言って。

 ラリーは真面目な顔をしたまま頷くと、ミリーメイにも声を掛けた。

「ミリーメイ、時間になったらリディアを迎えに私の部屋までが来るように。いいね?」
「はい! かしこまりました」
 名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、ミリーメイは大きな声で返事をして頭を下げた。

 先に階段を上りはじめたラリーに続き、私がその後ろを行こうとすると、テイラーが割り込み前を歩いた。

 それに気づいたラリーが足を止め、振り返る。

「テイラー、君は来なくていい」
「でも……っ」
「私は部屋へ戻るだけだ。君には別の仕事があるだろう? 用があれば呼ぶ」

「……どうして、私は……」

 何か言いたげなテイラーには目を留めず、ラリーは私へと手を伸ばした。

「リディア、行こう」
「はい……」

 テイラーの鋭い目の前で、ラリーの手を取ることは怖くてできなかった。
 私は手すりを握り、ラリーの後をついて行くことにした。後ろにはセバスチャンもいる。

 テイラーは、部屋へ向かうのは三人だと確認すると、踵を返し足音を鳴らしながら去っていった。



 二階フロアへ着くと、セバスチャンは立ち止まった。
「リディアお嬢様のお迎えが来るまで、執務室で待機しております」
 セバスチャンはお辞儀をして、さっと執務室へと入ってしまった。

「リディア、行こうか」

 ラリーは笑みを浮かべ、私の手を握ると自室へ向かった。
 扉の鍵を開け、中へ入り鍵を掛ける。

「お父さま、お話って……」
「リディア、違うよ」

 ラリーは私の腰に手を回し自分の方へぐっと体を引き寄せた。
「ラリー?」
 見上げると、熱を孕んだ緑色の瞳と目が合った。

「リディア」
「ラ……」

 次の瞬間、ラリーの唇が私の唇を塞いだ。

「んっ……っ」

 求めるように押し付けられた彼の唇は、食むように動き、私の唇を開かせた。
 熱い舌先がぬるりと口腔へ入ってくる。
 舌の感触に、びくりと体が強張った。思わず体を後ろへ引くと、ラリーはもう片方の手で後頭部を抱え込み、拘束するように腰に回した手にも力を込めた。
 絶対に離さないと言われているような気がして嬉しくて。私はラリーに体を預けた。
 深く入った彼の熱い舌先に私の口腔はゆっくりと舐られた。奥まった舌に触れられ、絡め取られ吸い上げられる。

「んっ……っ」

 二人の唾液が絡み合う。くちゅくちゅとした淫らな音が唇の間から漏れ、鼓膜を震わせる。
 ラリーは何度も顔の角度を変えながら、口腔内を蹂躙する。
 もたらせれる快感に足の力が抜けそうになった。
 けれど、このキスを止めたいとは思わない。
 寧ろ、もっととねだるように自ら舌を差し出していた。
(はじめてなのに……私……)
 口づけは、リディア・マクスウェルの体でははじめての行為だ。
 けれど前世の私は何度もラリーと唇を重ねている。
 それを覚えているからだろう。自然と鼻で息をして、自ら舌を絡ませてしまうのは。
 彼からの突然のキスに恥ずかしさはなかった。ただ嬉しくて幸せだった。
 だって私は、彼にもう一度愛されたくて、愛したくて、一緒になりたくて生まれ変わってきたのだから。

 ラリーは尖らせた舌先で歯列を舐り、上顎の内側の粘膜を擦っていく。その快感に体はぴくぴくと震え粟立った。
 立っていることがままならず、彼の首に腕を回した。

「リディア」

 唇を離したラリーは、熱い吐息とともに名前を口にして、そのまま私の体を持ち上げた。
「ラリー?」
 抱き抱えながらゆっくりと歩き、窓辺に置かれていた長椅子へと移った。
 ラリーは私をそっと椅子へ横たえると、そのまま覆い被さるようにして再び唇を重ねた。
 髪を撫でた手が、耳の形を象るように滑り首筋へと下りていく。

「んんっ……」

 ラリーは深い口づけをしながら、手を下へと伸ばしスカートを巻くし上げた。
 脚に触れた手は、ゆっくりと滑るように内腿を弄り、さらに奥へと伸びて──。


 ──コンコン。

 突然のノックの音に、同時に体を震わせた。

「ミリーメイです。お嬢様をお迎えに参りました」

(ミリーメイ……もう夕食の時間?)

 ラリーとの情事に溺れ、時が経つのを忘れてしまっていた。

 ラリーはゆっくりと体を起こすと、扉へと顔を向けて。

「ミリーメイ迎えにきてくれてありがとう。今いくよ」

 ミリーメイに声をかけたラリーは、私を見下ろして、「残念、ここまでだね」と微笑んで、もう一度唇を重ねた。





 ラリーとセバスチャンに見送られ、ミリーメイと部屋へと戻った。
 部屋までの廊下を二人並んで歩いていると、なぜかミリーメイがチラチラと私を覗き見てくる。

「どうかしたの?」

 思い切って聞いてみると、反対に尋ねられた。

「リディアお嬢様、何かありましたか?」
「えっ?」

 何か、と言われたら……。
 あった。とても人には話せないようなことが。

 ミリーメイはなぜかニヤリと笑う。

「リディアお嬢様……」
「な、何?」
「公爵様のお部屋で……」

 ミリーメイの澄んだ瞳に、何もかも見透かされているようで、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 私の様子を見たミリーメイは目を細めた。

「お話って言われていたけど、食べられていたんですよね?」
「──えっ!」

 食べられた……?
 それはどういう意味の……。

「隠さなくてもわかりますよ。口紅、とれちゃってます」

 ──ドキドキと胸の鼓動が速くなる。
(私たちがしていたことがわかるの?)
 咄嗟に左手を添え唇を隠した。

「もう、リディアお嬢様。そんなに恥ずかしがることはありませんよ。──あ、指輪……」

 私の顔を見ていたミリーメイの視線が、小指の銀の指輪へ移った。

「その指輪、贈り物ですか?」
「ええ、さっきもらったの」

 話題が指輪へと変わりホッとしたところで、私たちは三階にある部屋へと着いた。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

処理中です...