一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

文字の大きさ
25 / 39

25 見られてる?

しおりを挟む
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう」

 翌朝、部屋付きのメイドであるミリーメイとともに、テイラーが部屋を訪れた。
 明るい笑顔で挨拶をするテイラーに動揺した私の声は裏返ってしまった。

 二人はふふ、と笑う。
「二人で来たので驚かれたのですね」とミリーメイが話した。
 テイラーは会釈をし「失礼します」とワゴンを押し部屋へと入った。
 衣類を抱えたミリーメイはその後に続いた。

「今朝は、メイドの仕事の確認のため同行致しました」
 そう話したテイラーは、お父さまラリーが今朝早くに執事と共に出掛けたことを私に伝え、ミリーメイに着替えを手伝うように命じた。

「はい。ではリディアお嬢様、こちらへ」

 部屋の一角には丸い絨毯が敷いてある。
 そこには鏡台と姿見が置いてある。
 金の枠に白い布が張られた衝立に、ミリーメイは持ってきた衣装を下げた。
 シンプルな形のグレーのワンピース。裾には上品な刺繍が施されている。
「素敵ね」
「こちらも、アニス様がご用意されていた物です」
 ミリーメイは裾の刺繍に目を留めて微笑んだ。

「この刺繍の色、公爵様の瞳の色と同じですね」
「本当ね……」

(ラリーの瞳の色……)
 刺繍に目を落とすと確かに彼の目の色と同じで、甘く見つめられ重なった唇を鮮明に思い出してしまい、頬が熱くなった。

「リディアお嬢様、お顔が少し赤いようですが体調は?」

 鏡越しに私を見ていたミリーメイは、心配そうに眉を寄せている。

「だ、大丈夫よ。ちょっと暑くなっただけ……」

 本当は、口づけを思い出したからだ。けれど、そんなことは言えない。

 ミリーメイは何やらわかったようにコクコクと頷いた。

「このワンピースは生地が厚いのでそのせいですね。どうしましょうか? 違う物に着替えますか?」
「ううん、このままでいいわ」
「そうですか? 遠慮はしないでくださいね」

 ミリーメイは背中のボタンを留めながら、何度も私の顔を覗き見る。

「本当に、大丈夫だから……」

 鏡越しにミリーメイを見て話していると、そこにこちらを凝視するテイラーの姿が映っていた。
 テイラーの鋭い目はなぜか私へと向けられている。
 ミリーメイの仕事の確認ではなかったのだろうか?
 まるで、私を確認しているように見える。
 気になって見ていると、テイラーと視線が合った。
 テイラーは慌てることなくスッと視線をミリーメイへと移す。
(やはり、私を見ていたのね……)
 ミリーメイはテイラーから見られていることなど気にならないのか、部屋着を片付けていた。
 きれいにたたみ、カゴにしまう。
 それを見ていたテイラーがなぜか顔を顰めた。

「お嬢様、昨夜お部屋を出られたのですか?」
「えっ……?」

 テイラーの視線は、カゴの横に置かれている部屋用の布靴に注がれている。

(あっ……)
 布靴はところどころに草がつき土で汚れていた。
 部屋の外に出たことは一目瞭然だった。

「眠れなくて少し散歩をしたの」

 心臓がドキドキと音を立てる。
 眠れなかったというのは嘘、本当は地下室を覗くことができるのかを確かめるため、テイラーが、私たちを見ていたかどうかを確認するために行ったのだ。

「そうですか。眠れなかったのなら仕方がありませんね」
 優しく話したテイラーは、スッと姿勢を正し私に目を据えた。

「しかしながらお嬢様、夜中に部屋着のまま邸の中をうろつき庭に出るなどの行為は公爵令嬢として好ましくありません」

「はい……」

「そういえば、『ラリー』も眠れないと夜遅くに部屋を抜け出しているわね。親子だから似ているのかしら?」

 テイラーは、口元を隠しながら笑った。

 わざとらしく、お父さまのことを『ラリー』と言って。
(そういえば聞いていなかった)

 テイラーが『ラリー』と呼ぶ理由を、彼に聞くつもりでいたけれど、今ここで直接テイラーに尋ねることにした。
 
「『ラリー』って、お父さまの愛称よね? どうしてあなたがその名前を呼ぶの?」

 私が聞くと、テイラーは待っていたかのように一笑した。

「ああ、お嬢様にはお話しておりませんでしたね。私はラリーとは親しい仲なのです。彼に直接その名を呼ぶことを許されているの」
「直接……?」

 ラリーが許したの?
 彼はテイラーのことは何とも思っていないと言っていた。けれど、その呼び名は公爵夫妻と恋人の『リディア』にしか許さなかったのに。

「私は公爵夫妻からも公認されていて、是非後妻にと望まれていたの」
「後妻に……? メイド長を?」
「メイド長といっても、私は貴族ですもの。身分のないメイドとは違うわ」

 私を食い入る様に見つめながら、テイラーは意味ありげに含み笑いをした。

 ──彼女テイラーは、気づいているのではないだろうか。
 私が生まれ変わりだということに。
 
 ──生まれ変わりだと知られたら──
 ノエルの言葉を思い出し、ゾッとした。

「まぁ、そのお話はこのぐらいにして、朝食をどうぞ。美味しいお茶もお入れしますよ」

 テイラーは表情を変え、椅子に座るよう勧めてきた。

 私とテイラーの間には剣呑な雰囲気が漂っている。
 ミリーメイはそんな私たちを遠巻きに見ていた。
 私が座ると、ミリーメイがスープを運んでくれた。

 テイラーはミリーメイの様子を見ながら、ふと思い出したように口を開いた。

「そうだわお嬢様。これからミリーメイと一緒にアニス様のお墓へとお出かけになられませんか?」
「えっ、お母さまのお墓……?」

 急な話の切り替えに、驚いたものの、その提案は嬉しいものだった。

 お母さまのお墓……行きたい。

 すでにラリーは出掛けているし、私は特にすることもない。

 祖父母の埋葬の時にマクスウェル公爵家の墓地へ行ったのに、お母さまのお墓へは行く時間もなく帰ることになった。
 せめてお花だけでも手向けられたらよかったのにと、心残りに思っていた。
 お母さまのお墓へ行くのなら、仲良くしていたノエルも誘いたい。

「ノエルも一緒に行くことはできるかしら」

 そう言うと、テイラーは首を横に振った。

「申し訳ありませんが、ノエルには昨日出来なかった仕事が残っています。残念ながら私も仕事がありますので、お嬢様はミリーメイと向かわれてください」
「わかりました……」

 テイラーは行かないと聞き、ほっとした。
 けれど、ノエルも無理だと知り残念な気持ちにもなった。
(仕方ないわ)

「墓地へ行くのなら着替えた方がいい? 風も強かったから髪も纏めた方がいいかしら?」

 グレーのワンピースは派手ではない、髪はハーフアップにしてあるものの、強い風が吹けば乱れてしまうだろう。
 テイラーは頭の先からつま先まで見ると大きく頷いた。

「墓地へ行くだけですから、服はそのままで。髪も問題ないでしょう。いざとなればミリーメイがその場で纏めます」
 テイラーはミリーメイにチラリと目を向ける。
「出来るわよね」
「はい、お任せください」

 ミリーメイは胸を叩き満面の笑顔を見せた。

「では、私は馬車の手配をして参ります。ミリーメイ、すぐに支度をしてお嬢様と玄関へ行くのよ」
「はい、かしこまりました」

 テイラーは、テーブルにお茶の入ったカップを置くと、すぐに部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

処理中です...