1 / 1
婚約破棄のその後に
しおりを挟む
目が離せない
彼は今、自分の婚約者に別れを告げている。
「私は真実の愛を見つけたんだ」
嘘をついて、隣には先程雇った見目の良い女を置いて。
「君との婚約は破棄する」
婚約者だった令嬢は、彼と隣に立つ女を見る。
しかし、まったく表情は変わることなく、
「分かりました」そう一言だけ言うと、見事なカーテシーをして会場を去っていった。
振り返る事もなく真っ直ぐに出て行く。
その後を追いかける、若く凛々しい騎士がいた。
去り行く二人を見つめる彼の目は、なんとも切なげで見ているこっちが泣きたくなった。
この会場にいる者はほんの数人。
皆は彼の計画を知っている。
知らぬは婚約者であった令嬢と追いかけた騎士だけだ。
今、婚約破棄を告げた彼女の為にフィリップ王子はこの茶番劇を繰り広げたのだ。
幼い頃からの婚約者、彼女が好きなのは、心を許しているのは自分ではないと気付いてから、彼は父である王に頼んだ。
婚約を解消して欲しいと。
「ならぬ」
王が一度決めた事を覆すことは出来ないと言われた。
ならば、とフィリップ王子は考えた。
いろいろな文献資料や、今巷で流行りの小説を読み漁りこの茶番を思い付いた。
だからあの言葉か……。
私も知っているあの言葉。
何故なら、彼が読んだ小説を貸したのは私だからだ。
皆が帰り、私と二人だけになった会場は、まだ昼間だというのに薄暗く感じた。
王子からの婚約破棄、隣には彼女の知らない女を添えて……。
これならば婚約者の彼女には何もお咎めは無いはずだ、そう彼は言う。
しかし、自分は王族では無くなるかも知れないな……と、フィリップは辛そうな笑顔を私に見せた。
バカな王子様だ。
一人では生き方すら分からないくせに、
相手の事を考えて、彼女の気持ちを優先して
自分の心は押し殺すのか……。
「本当によかったのか? 彼女を手放して」
「ああ、いいんだ。私は彼女が幸せになればそれで構わない」
「お前はどうする、これからどうして行くつもりだ」
寂しそうな笑顔を私に向けるフィリップ王子の瞳は潤んでいた。
「お前はバカだ」
「ああ、知ってる」
フィリップは目頭を押さえて苦笑した。
「他の男を想い続ける女とは、一緒になっても幸せになどなれないだろう?」
「結局は自分の為にやった事だ」
掠れた声で彼は話した。
「俺なりに見てもらう努力はしたさ、したつもりだ」
「つもりではダメなんだよ」
冷たく言った私の声は少し震えてしまった。
そんな私をフィリップが不思議そうに見ている。
「なぜお前が泣くんだよ」
私は泣いていた。
彼を想って泣いたのではない。
彼がまだ彼女を好きだということが、辛くて泣いてしまったのだ。
「……フィリップ」
「……ん?」
「私ではダメか?」
今し方、好きな女性と別れた彼に私は気持ちを告げてしまった。
彼は思いの外驚いている。
そんなに驚くことか?
……まったく気がついていなかったのか……?
今日だって、この事を聞いて駆けつけて来たのに。
「だって……お前」
「私はずっとお前が好きだった」
「…………」
フィリップ王子は驚きすぎたのか、固まったように動かない。
「臣下を下されるのならその前に私が貰う、嫌とは言わせない」
「……本気か?」
「こんな事冗談では言わない」
私は隣国トネリアヌの第一王女だ。
そして後に王位を継ぐ。トネリアヌ国は長子が継ぐことになっている。
彼は未だ王子だ。
この国の第二王子、夫になるには全く申し分はない。
私は幼い頃、トネリアヌ国王とこの国を訪れた。
その時会ったフィリップ王子に恋をしたのだ。三つ歳上の彼は私の理想の王子様だった。一目で恋に落ちてしまった。
しかし、彼には既に婚約者がいた。
私の恋は初めから叶わぬ恋だった。
諦めようと何度もしたが、私は彼以上の人に出会えなかった。
……だから、彼が結婚するのを見届けてその後に誰かと結婚すればいいと思っていた。
そうしなければ諦めがつかなかったのだ。
「……しかし」
「お前が断れば宣戦布告だ」
「はぁ⁈ ……なんだよそれ」
「冗談だ」
「いや、分かるよ、それくらい」
彼の笑顔の中に困惑した表情がみえる。
「私は嫌いか?」
彼には私がどう見えているのかは知らない。
私だって王女である前に一人の女だ。
出来れば……。
「嫌いな訳ないよ」
「ならば受けろ、もうお前の父には許しを貰っている」
「ーーはぁ? 何で、どうして」
「お前の計画を知らせてくれたのはお前の父だ。ーー……その……お前の父上は私の気持ちは……知っていたから」
言っていてだんだん恥ずかしくなってきた。
しかし、これを逃せばもう私には後がない。
はじめにフィリップが婚約破棄をすると知らせてくれたのは、この国の王エドワード陛下だった。
私を幼い頃から可愛がってくれていたエドワード陛下には、私の恋心などお見通しだったようだ。
フィリップは婚約者を好いていた。
その彼が自ら婚約を解消したいと言った時は驚いたらしい。
王が決めたことを勝手に解消するのだ。臣下を下すしかないかと考えた時、私を思い出した。
「ローゼリアはこんな俺でいいのか? この俺が君の隣に立っていいのか? たった今婚約者に婚約破棄を告げた様な男でいいと言うのか?」
不安そうな顔で私を見るフィリップに、私は余裕ある微笑みで返す。
「そんな事どうでもいいよ。まだ彼女を想っていようとも構わない。いずれ必ず、私しか考えられない様になるから」
フィリップは、本当に君には敵わないな……と言って笑った。
背の高いフィリップを見上げる様に、私は彼の前に立つ
少しばかり泣いてしまったからあまり綺麗では無いかも知れないが、国では妖精姫と呼ばれる私だ。
これ以上はない笑顔で彼を見つめた。
「私はフィリップがいいんだ」
その言葉に、泣きそうな笑顔を見せる彼をやっぱり私は好きで仕方ない。
「ローゼリア」
彼は私の国へやって来た。
連れて来たと言った方が正しいか……。
フィリップは私の夫になる為に、今から一年間この国の事を学ばなければならない。
彼が婚約破棄を告げた令嬢は追いかけた騎士と幸せになっただろうか。
その後の事は私は知らない。
しかし、出来れば彼の思いが届いて……幸せになっていて欲しい。
彼は私が幸せにするから……。
年月は流れ、私は王位を継いだ。
女王となった私の隣には、もちろん
私を愛するフィリップが立っている。
彼は私と、真実の愛を見つけたのだ。
彼は今、自分の婚約者に別れを告げている。
「私は真実の愛を見つけたんだ」
嘘をついて、隣には先程雇った見目の良い女を置いて。
「君との婚約は破棄する」
婚約者だった令嬢は、彼と隣に立つ女を見る。
しかし、まったく表情は変わることなく、
「分かりました」そう一言だけ言うと、見事なカーテシーをして会場を去っていった。
振り返る事もなく真っ直ぐに出て行く。
その後を追いかける、若く凛々しい騎士がいた。
去り行く二人を見つめる彼の目は、なんとも切なげで見ているこっちが泣きたくなった。
この会場にいる者はほんの数人。
皆は彼の計画を知っている。
知らぬは婚約者であった令嬢と追いかけた騎士だけだ。
今、婚約破棄を告げた彼女の為にフィリップ王子はこの茶番劇を繰り広げたのだ。
幼い頃からの婚約者、彼女が好きなのは、心を許しているのは自分ではないと気付いてから、彼は父である王に頼んだ。
婚約を解消して欲しいと。
「ならぬ」
王が一度決めた事を覆すことは出来ないと言われた。
ならば、とフィリップ王子は考えた。
いろいろな文献資料や、今巷で流行りの小説を読み漁りこの茶番を思い付いた。
だからあの言葉か……。
私も知っているあの言葉。
何故なら、彼が読んだ小説を貸したのは私だからだ。
皆が帰り、私と二人だけになった会場は、まだ昼間だというのに薄暗く感じた。
王子からの婚約破棄、隣には彼女の知らない女を添えて……。
これならば婚約者の彼女には何もお咎めは無いはずだ、そう彼は言う。
しかし、自分は王族では無くなるかも知れないな……と、フィリップは辛そうな笑顔を私に見せた。
バカな王子様だ。
一人では生き方すら分からないくせに、
相手の事を考えて、彼女の気持ちを優先して
自分の心は押し殺すのか……。
「本当によかったのか? 彼女を手放して」
「ああ、いいんだ。私は彼女が幸せになればそれで構わない」
「お前はどうする、これからどうして行くつもりだ」
寂しそうな笑顔を私に向けるフィリップ王子の瞳は潤んでいた。
「お前はバカだ」
「ああ、知ってる」
フィリップは目頭を押さえて苦笑した。
「他の男を想い続ける女とは、一緒になっても幸せになどなれないだろう?」
「結局は自分の為にやった事だ」
掠れた声で彼は話した。
「俺なりに見てもらう努力はしたさ、したつもりだ」
「つもりではダメなんだよ」
冷たく言った私の声は少し震えてしまった。
そんな私をフィリップが不思議そうに見ている。
「なぜお前が泣くんだよ」
私は泣いていた。
彼を想って泣いたのではない。
彼がまだ彼女を好きだということが、辛くて泣いてしまったのだ。
「……フィリップ」
「……ん?」
「私ではダメか?」
今し方、好きな女性と別れた彼に私は気持ちを告げてしまった。
彼は思いの外驚いている。
そんなに驚くことか?
……まったく気がついていなかったのか……?
今日だって、この事を聞いて駆けつけて来たのに。
「だって……お前」
「私はずっとお前が好きだった」
「…………」
フィリップ王子は驚きすぎたのか、固まったように動かない。
「臣下を下されるのならその前に私が貰う、嫌とは言わせない」
「……本気か?」
「こんな事冗談では言わない」
私は隣国トネリアヌの第一王女だ。
そして後に王位を継ぐ。トネリアヌ国は長子が継ぐことになっている。
彼は未だ王子だ。
この国の第二王子、夫になるには全く申し分はない。
私は幼い頃、トネリアヌ国王とこの国を訪れた。
その時会ったフィリップ王子に恋をしたのだ。三つ歳上の彼は私の理想の王子様だった。一目で恋に落ちてしまった。
しかし、彼には既に婚約者がいた。
私の恋は初めから叶わぬ恋だった。
諦めようと何度もしたが、私は彼以上の人に出会えなかった。
……だから、彼が結婚するのを見届けてその後に誰かと結婚すればいいと思っていた。
そうしなければ諦めがつかなかったのだ。
「……しかし」
「お前が断れば宣戦布告だ」
「はぁ⁈ ……なんだよそれ」
「冗談だ」
「いや、分かるよ、それくらい」
彼の笑顔の中に困惑した表情がみえる。
「私は嫌いか?」
彼には私がどう見えているのかは知らない。
私だって王女である前に一人の女だ。
出来れば……。
「嫌いな訳ないよ」
「ならば受けろ、もうお前の父には許しを貰っている」
「ーーはぁ? 何で、どうして」
「お前の計画を知らせてくれたのはお前の父だ。ーー……その……お前の父上は私の気持ちは……知っていたから」
言っていてだんだん恥ずかしくなってきた。
しかし、これを逃せばもう私には後がない。
はじめにフィリップが婚約破棄をすると知らせてくれたのは、この国の王エドワード陛下だった。
私を幼い頃から可愛がってくれていたエドワード陛下には、私の恋心などお見通しだったようだ。
フィリップは婚約者を好いていた。
その彼が自ら婚約を解消したいと言った時は驚いたらしい。
王が決めたことを勝手に解消するのだ。臣下を下すしかないかと考えた時、私を思い出した。
「ローゼリアはこんな俺でいいのか? この俺が君の隣に立っていいのか? たった今婚約者に婚約破棄を告げた様な男でいいと言うのか?」
不安そうな顔で私を見るフィリップに、私は余裕ある微笑みで返す。
「そんな事どうでもいいよ。まだ彼女を想っていようとも構わない。いずれ必ず、私しか考えられない様になるから」
フィリップは、本当に君には敵わないな……と言って笑った。
背の高いフィリップを見上げる様に、私は彼の前に立つ
少しばかり泣いてしまったからあまり綺麗では無いかも知れないが、国では妖精姫と呼ばれる私だ。
これ以上はない笑顔で彼を見つめた。
「私はフィリップがいいんだ」
その言葉に、泣きそうな笑顔を見せる彼をやっぱり私は好きで仕方ない。
「ローゼリア」
彼は私の国へやって来た。
連れて来たと言った方が正しいか……。
フィリップは私の夫になる為に、今から一年間この国の事を学ばなければならない。
彼が婚約破棄を告げた令嬢は追いかけた騎士と幸せになっただろうか。
その後の事は私は知らない。
しかし、出来れば彼の思いが届いて……幸せになっていて欲しい。
彼は私が幸せにするから……。
年月は流れ、私は王位を継いだ。
女王となった私の隣には、もちろん
私を愛するフィリップが立っている。
彼は私と、真実の愛を見つけたのだ。
559
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
おにょれ王子め!
こもろう
恋愛
レティジアは公爵令嬢で、王子フリードの婚約者。しかし現在、フリードとの関係はこじれまくっている。
見た目は気が強そうだが実は泣き虫なレティジアは人知れず毎日涙を流し、フリードはなんだかイライラしている。
そんな二人の前に現れるのは……!
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。
どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ハッピーエンドなのに、なんだか切ない…。
フィリップがローゼリアに真実の愛を見つけてくれてよかった。
切なさが伝わって嬉しいです。
読んで頂きありがとうございました😊
ざまぁ物と思いきや…切なかった🥺
そしてローゼリア様が一途でイケメン😍
ありがとうございます
読んでいただいて嬉しいです!
ローゼリアの一途な感じが伝わっていてよかった😊