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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス
第7話 『男爵』討伐
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翌日、胸焼けの苦しみで目が覚めた俺は、覚醒した瞬間に目をかっぴらいて、背筋に脂汗を流しながら時計を確認した。
「8時50分、ギリギリだな・・・」
夜更かししなかったのが幸いしたのだろうが、それでも高血糖の胸焼けの為に寝付き自体は良くなかったので、何度も夜中に胸焼けの苦しみで目が覚めては2度寝するを繰り返していた為に、明るくなってから目が覚めたらヤバいんだろうなという罪悪感の2度寝を貪っていたのだが、それでもギリギリで間に合う時間に起きられたのは、俺という人間の律儀で真面目な性格の表れとも言えるだろう。
素早く衣服を着替えると、俺は急いで目的地へと向かった。
朝から大通りを全力疾走する俺の姿を道行く人が振り返ってみるが、俺は韋駄天の如く、ましらの如く、道行く人々を踏み越え乗越えかき分けて、なんとか2キロ先の東門へとたどり着いたのであった。
「ぜーぜー、はぁはぁ、・・・うっぷ」
絶対朝飯はいらないだろうなという満腹中枢と血糖値ではあったが、その上で昨日の晩餐がまだ消化し切れていないのか、体の調子はかなり劣悪だったものの、込み上げた胃液を飲み込んでナルカの姿を探した。
特徴のある薔薇のような赤髪なのでこういう時はすぐ見つかるものと思ったが、門の周りに見知った顔は無かった。
「・・・もしかして、まだ来てないのかな?」
時計の時刻は8時59分、東門の開門時刻が9時であり、時間には間に合っている筈だが、俺が来ないと思って引き返す確率よりは、遅刻、病欠の方が高いか・・・?。
俺は東門から出入りする人々の顔を注意深く確認しながら、待ち合わせ場所を間違えたのかという不安を抱えて暫くその場に留まる。
すると10分遅れでナルカがやってきた。
「・・・ごめん、お待たせ」
「気にしないでくれ、俺も次は遅刻するかもしれないから、ってその格好・・・」
ナルカの服装は動きやすい機能性とか、汚してもいい使い古しとかではなく、レースなどの装飾のある仕立ての良いオシャレ服だった。
「どう、似合う?」
「・・・ごめん、見惚れててどこかのお姫様かと思った」
俺は今までナルカの事を生意気でポンコツなバカ女だと思っていたが、お洒落をしたナルカは貴族の令嬢と言われても納得するくらいに品があった。
故に、今の言葉も社交辞令では無くて本音であり、本当にナルカはどこかのお姫様なんじゃないかと思ったのである。
この世界において赤髪は一種のステータスだ、太陽の神を象徴するものであり、赤髪を持っている家系は往々にして優遇されるものだった。
故に、化粧をして身なりを整えたナルカの姿が高貴で愛らしく見えるのも当然の話だ。
おそらく、この10人中9人が振り返るアイドル顔負けのルックスであれば、ナルカは多少性格が悪くても周りからチヤホヤされるのは容易なんだろうと思える。
「なにそれ、あんた褒め方のレパートリー貧弱過ぎ」
そう言うナルカは満更でもなさそうに笑みを浮かべる。
「でも、今日って薬草採りに行くんだよね?、山に行くのにそんな格好でいいのかな・・・?」
「まぁ別に草むらに入るわけでも、登山する訳でもないし、山の下の湖のほとりにある薬草とキノコを取るだけだから、あとはいこれ」
そう言ってナルカは俺に風呂敷に入った包みを手渡す。
「もしかして弁当?、しかも手作り?」
「まぁ今日は手伝って貰う事だし、その報酬って事で、店で食べたらいい値段する奴だから、損はさせないし」
「わざわざありがとう、それで、お友達は大丈夫かな?」
「あ、そうだ、忘れてた、皆まだ待っててくれてるかなっ」
そう言ってナルカと一緒に辺りを見回すと、こちらを遠目で観察している女子の集団があった。
「あ、いた、みんなごめーん!、お待たせー!!」
俺はナルカの後をついてその女子のグループに混ざる。
俺は一緒に行く友達と言っても一人、二人くらいだと思っていたので、三人もいると完全にアウェーで居心地が悪いが、まぁ適当にやり過ごそうと適当にやり過ごすスイッチをオンにする。
「おそいよナルカ!、で、そっちの彼誰?、もしかして彼氏?」
「えー!?、意外、ナルカ、こんなのが趣味だったの!?」
「ち、ちち、違うしっ、彼氏とかじゃないし!!」
予想通りナルカが冷やかされて、俺は初対面で見下されたので、勝手にヒエラレルキーを構築される前に、俺は自己紹介をした。
「初めまして、今日はナルカさんに雇われて来た、護衛役のライアです、ジョブは【モンク】で、普段は村の教会のお手伝いをしています、どうぞよろしく」
ニコッと、好青年的な印象を与える事に定評のある営業スマイルで俺は挨拶する。
ジョブを先に発言する事で成人マウントも取っておく。
「え、あんた、宣告済みだったの・・・?」
宣告は村では16にやる習わしだが、一般的には義務教育卒業後や成人年齢である18歳の誕生日など、モラトリアムの卒業をする儀式として行われる。
故に、まだ学生らしいナルカが宣告を受けていないのは普通の事だった。
「ええ、とは言っても、まだひと月くらいしか経っていませんけど」
「へぇー、【モンク】かぁ、ちょっと冴えない感じだけど、話してみたら普通にかっこいいって言うか」
「えー、ちょっとセイナ、あんたさっき下着泥棒の指名手配犯と顔似てるって盛り上がってたのに変わり身早くね!」
「いやだってよく見たら普通にかっこいいじゃん、話し方も大人の余裕があるっていうか優しい感じだし」
「確かに、なんか仕事とか出来そうな感じだよね」
【モンク】の情報を先出しした事により、好印象になる職業バイアスがついたおかげか、それ以降ナルカの友達たちは俺に対して好意的に接してくれた。
やっぱりガキ相手だと、見た目と肩書きだけで雑に騙せるから俺としても演技の要求値が低くて楽だった。
道中、俺はギャル風味で生意気なナルカの友達たちに質問攻めに遭いながら、まったりと一時間かけて近くの山の麓にある湖、オーヴァー湖へとやって来た。
ナルカ達は薬学を学んでいるらしく、それに使う薬草を取りに行くのが今回の目的との事。
護衛なんているのか?ってくらい平穏で平坦な道のりだったが、まぁ護衛なんて半分は建前だろうと思っていたので、俺は気楽に構える事にした。
実際問題、Bランク以上の魔物に遭遇しても俺は足止めすら出来ない訳だし、【モンク】の俺が凶悪な魔物に勝っても不自然な話だし。
そして俺たちはオーヴァー湖のほとりで薬草を取ったり昼飯食ったりして、ピクニック気分でのんびりと穏やかな時間を過ごし、俺は荷物番をしながら昼寝をしていた折に。
「ちょっ、まじこれヤバいって」
「どうする、今から助け呼びに行って間に合うかな?」
「いや、絶対無理っしょ、なんでこんな所でCランクのジルドレッサーパンダなんているのって話だし」
と、俺に助けを求めに来たのか、青ざめた顔でナリカの友達たちが駆け寄って来た。
切迫した様子からに察するに、どうやらナルカが襲われてしまったらしい、しかもCランクの魔物に。
・・・勝てるかなぁ?、勝てないだろうなぁ、でも俺には切り札があるし、死にはしないだろう。
俺はガバッと立ち上がって、ナルカの友達たちにナルカの状況を尋ねた。
話によるとナルカがヤクマンドラゴラを採取する為に木に登っていた所にジルドレッサーパンダが現れて、それでナルカがそのまま木に避難して3人は逃げて来たという話だった。
「・・・Cランクか、一応俺には魔物よけに使える小道具があるから追い払えるだろうけど、完全に撃退出来る訳じゃないから追ってくるかもしれない、だから皆は先に逃げてて、
───────ナルカは絶対、俺が助けるから」
そう言って俺はナルカの元へと走った。
「え、ライアさん、まさか一人で!?」
「すごいねぇ、ナルカの彼氏・・・、躊躇なく向かっていったよ」
「ああ、あれは愛だね、取り敢えず何もしないよりはマシだろうし助け呼ぼうか、誰かいるかもしれないし」
「え、一匹じゃないのかよ・・・?」
Cランク相手とは言え、一匹ならタイマンでもやりようはあるかなと思って人払いした訳だが、ナルカを狙って木の下に待ち構えるジルドレッサーパンダは3匹いた。
Cランク故に多少の知性もあるのだろう、虎視眈々と獲物としてターゲットしたナルカが消耗して降りてくるのを狙っている、という具合だ。
流石にこいつらを素手で倒すのは無理ゲーだし、ナルカを救出するにはクロから貰った臭い玉を使うしか無いという状況だった。
「・・・不意打ちで攻撃すれば一網打尽だが、ナルカも気絶する、逆に敵の注意を引きつければ分散されたり更に仲間を呼ばれるかもしれない、か・・・」
なんとか音を立てずにナルカに鼻をつまむように指示したい所だったが、木の上の方にいる為か枝葉で姿が隠れていて、こちらからはナルカのパンツしか見えない状態だった。
「ちっ、これじゃあナルカに指示を出すのは無理か、仕方ない」
時間をかければジルドレッサーパンダに気づかれるだろう、故に俺は、3匹のジルドレッサーパンダを巻きむように角度を計算して、ナルカの登っている木に向かって臭い玉を投げつける。
木に当たった臭い玉は破裂して、激烈な悪臭を拡散させる。
「キャン!?、クゥーン・・・」
クロ特製臭い玉により、ジルドレッサーパンダは気絶した、至近距離で嗅げばショック死も免れないスカンク並の凶悪な品物故にその効果は絶大だ。
そして、それは木の上にいるナルカも例外では無い、気絶して木から落下した所を俺は受け止める。
そして俺はナルカを抱きかかえたままその場を離脱しようとした、しかし。
「グギャッ、グオォォォォン!!」
一匹のジルドレッサーパンダが、立ち去ろうとした俺に襲いかかってきた。
「な、こいつ!?」
俺はなんとか蹴り飛ばして反撃するが、ジルドレッサーパンダの爪によって俺の太ももは引き裂かれて、地面に血潮が飛び散った。
「痛え、クソっ、・・・こいつ、鼻が効いてないのか、それで」
俺を攻撃してきた個体の鼻は、戦いの傷だろう、潰れて歪になっていた。
見れば他の個体よりも図体がデカく、体も筋肉で肥大化していて図体がデカい、おそらくボス個体なのだろう。
太ももを損傷したせいで走って逃げるのは無理だ、しかし臭い玉の為に息を止めている為にこの場に留まって戦う事も出来ない、そしてナルカを抱えている為に両手も塞がっている。
タイマンならCランク相手でも薄っすい勝ち目はあっただろうが、状況は分が悪すぎた、こちらは満足に戦う事も逃げる事も出来ないそんな八方塞がりの状況。
せめて臭い玉の範囲外まで逃げなくては、俺はこのまま窒息するか気絶して食われるだろう。
絶体絶命、しかし助けが来ない事は分かっている、なら一か八かにかけるしかない。
短期決着、迅速に一撃でジルドレッサーパンダを倒すしかない。
秒読みの時間制限つきだったので俺は思いつきを素早く行動に移した。
俺はナルカを下ろしてジルドレッサーパンダと対峙し、ジリジリと近づいていく。
至近距離、ジルドレッサーパンダが咆哮し俺に襲いかかる。
俺のステータスはオールE、ステータスの上ではCランクのジルドレッサーパンダには勝てないだろう、故に、ただの一撃を加えた所で敗北は必至だ。
しかし俺は、そんなギリギリの状況の中でもジルドレッサーパンダの稲妻の如く俊敏な突撃を見極め、カウンターでジルドレッサーパンダの口の中にそれを投げ入れる。
────臭い玉との至近距離のキス。
臭い玉は悪臭を放つだけでなく、可燃性のあるガス兵器である。
つまり、それを胃袋に収めた生き物は、ガスの細菌により体内を汚染されて、体内でガスが膨張し、破裂する。
臭い玉を飲み込んだジルドレッサーパンダはたちまち悶え苦しみ、口から悪臭を放ちながら呻くが、俺はすぐ様ナルカを抱えてその場を離れた。
直後、ジルドレッサーパンダが自身の体内のガスによって膨張し、破裂する。
俺は既に呼吸を止めて一分以上活動していたが、それでもまだ機敏に動けたのは一重に、これも【勇者】としての本領発揮だろうか。
しかし、そこから10秒歩いた所で切り裂かれた足が悲鳴を上げて、俺はその場に崩れて呼吸をしてしまい、臭い玉の効果によって気絶してしまった。
「うっ、クセェ、なんだこの匂いは!?」
「・・・あそこに人がいるな、どうやら逃げて来たみたいだが、この匂いで気絶したのだろうか?」
「・・・おい、これってネームドのジルドレッサーパンダ、通称『男爵』の首じゃねぇか?、確か、鼻が潰れてる個体だったよな?」
「なに!?、わざわざBランクの俺たちが駆り出される獲物だってのに、倒されてたっていうのか?、どういう事だ?」
彼らはナルカの友人たちによってライア達を助けに来たBランクの冒険者だが、元々ジルドレッサーパンダのネームドモンスター、『男爵』の討伐をギルドから依頼されてここに来たのであった。
「わからねぇ、でも、内部から破裂してるって事はもしかしたら・・・、ガス爆発かなにかで、このクセェのはその影響なのかも・・・」
「なるほど・・・、まぁいい、なら目標である『男爵』の首だけ持って帰ろう、おい、大丈夫か!」
パーティーのリーダー格の男が、倒れているライアの肩を叩くが、反応は無かった。
「・・・怪我をしているな、仕方ない連れて帰るぞ、詳しく事情も聞きたいし、そっちの子はどうだ?」
「無事よ、お友達がいるみたいだし、彼女はお友達に任せましょう」
こうして男達は、ナルカの友達の元にナルカを運ぶと、気絶したライアを担いでギルドへと帰って行ったのであった。
「・・・なるほど、そういう事情で俺はギルドままで運ばれたんですね、助けて頂きありがとうございます」
俺はギルドの談話室で俺を助けた冒険者の男たちから事情聴取を受けていた。
相手は以前『女王』の討伐作戦を依頼しようと目星をつけていたパーティ「グリフォニア」の、そのリーダーの若い男だった。
「それで、君はあそこで何をしていたんだ?、『男爵』は君が?」
「へ?、『男爵』?、なんの事です?」
男爵とは貴族の事だろうか?、全く身に覚えの無い単語だったので俺は聞き返した。
「ああ、そうか、知らないのか、あそこで死んでた大型のジルドレッサーパンダ、通称『男爵』、俺たちはそれの討伐を依頼されてた冒険者だ、しかしいざ現場に来てみれば、男爵は首だけとなって破裂していて、そこに君が倒れていたという訳だ」
「・・・なるほど」
これは受け答えを間違えれば、俺が【モンク】では無い事がバレる非常に重要な場面なのだと俺は一瞬で理解し、どんな方向性で話を作るかを急いで思考する。
俺がこういう場面を想定して用意している選択肢は三つ。
1.知らないうちに解決してたパターン、2.架空の第三者に解決して貰ったパターン、3.運良く敵が自滅してくれたパターン。
1はとぼけるだけでいいし、追求されない代わりに自分への疑念を与える、2は架空の第三者が存在しうる状況に於いては効果的だが、他に目撃者がいる場合において効果が半減する、3は自分が疑われていない場合においてのみ、相手が勝手に納得してくれる事を期待する選択肢だ。
シチュエーションで分けると、1は相手が刑事などの追求のプロの時に、取り敢えず時間を稼ぐ目的で使う選択肢で、2は俺に疑いを持って無い人間に対して、その疑いを納得させる為のやり方、3は俺をクズで無能で怠惰な阿呆だと知っている、村の中でだけ通用するような強引な手法になる。
故に、この場においては1か2が妥当なのかもしれないが、ナルカが俺とウーナの決闘を知っていた事から、仮にその事情を知っていた場合には、2を使うのは疑念を与える事になるだろう。
だからこの場においては1しかないという事になるのだが、だが、それでは疑念を残して俺が『男爵』を倒したという噂が広がる可能性も出るだろう。
故に、なんとかして、俺に全く疑いを持たれないようにして、作り話を考える必要があった。
「・・・うっ、すみません、・・・なんか、体から悪臭が漂って来て・・・、なんか臭いなぁ俺、・・・はっ、・・・そうだ!スカンクです、『男爵』に襲われて逃げてる所に、急にスカンクがやって来て、それでそのスカンクが男爵と至近距離の屁をこいて、助かる為にはそれを利用するしか無いと思った俺は、火を起こそうとして石を拾って、それを『男爵』に向けて投げたんです、・・・そこから先の事は覚えてないんですが」
「スカンクが・・・、なるほど、事情は分かった、ありがとう」
そう言うと男は頷いて、気をつけて帰るようにと解放してくれた。
つまり、1.2.3の合わせ技だ、真実が何かは、聞く人の立場によって変わるような、そんな玉虫色の返答。
これなら矛盾も少ないし、俺が嘘をついていると疑われる可能性も低いだろう。
うまく返答出来たことに俺はほっと一息ついて、取り敢えず戦闘で汚れた服でも買い換えるかと、懐の中身が無事なのを確認して、そのまま服屋に向かった。
「みろ、やっぱり偶然だ、あんな子供に『男爵』の討伐なんて出来る訳が無い」
「とは言ってもよう、あのガキ確か、この間『剣の聖騎士』に勝った奴だぜ確か、だからただ者じゃない可能性も」
「はは、あの決闘が騙し討ちによる卑怯な不意打ちの結果でただのまぐれだと、近くで見ていた奴は全員言ってるじゃないか、新聞のデタラメを真に受けるなんてバカのする事だぞ、実際、彼のステータスはオールEで、ジョブも後衛職の【モンク】だし、それで『剣の聖騎士』に勝つのは道理が無さすぎる」
「いーや、確かに俺もおかしいと思うが、でも、あの決闘も、確かに不意打ちだったけどそこまでズルでは無かったというか、紙一重であんちゃんに軍配が上がったようにも見えたんだよなぁ」
「まぁ、それも不意打ちだとしても紙一重の奇跡がないと勝てない、それだけの話だろう、お前はまさか、あの子が実力で『男爵』を倒したって、そう思ってるのか?」
「・・・いや、冷静に考えたらそんなの有り得ないって思うさ、でも、噂くらい聞いた事はあるだろ?」
噂、それは新聞などのニュースとして広まったものではなく、ただ人づてにそういう噂が存在するだけのものであるが、その噂は信ぴょう性はともかく、注目度だけは抜群に高かった、故にゴシップ嫌いの男も、自然と耳にするものだった。
「・・・まさかあの子が【勇者】だとでも?、はは、無い無い、【勇者】はもっとこう、強くて男らしくて逞しい存在だ、それに、あの子が【勇者】だとして、なぜそれを隠す?、なぜ『男爵』を倒した事を偽装する?、そんな事をする理由が無いんだ、だからそれはありえないよ」
「そうだな、理由は無い、・・・でも俺が見たあんちゃんの剣は、確かに騎士のねーちゃんより疾かった、そんな気がするんだよなぁ・・・」
もう1人の男は独りごちた後に、変な妄想をしている自分を紛らわそうと、酒を仰いだ。
そして男は今一度先刻の少年の風貌を思い出してみるが、記憶を掘れば掘るほどに、少年はみすぼらしく貧弱なものに思えた、故に男は相棒の言葉をただの妄想と捨て置いて、少年の事から意識を外したのだった。
「8時50分、ギリギリだな・・・」
夜更かししなかったのが幸いしたのだろうが、それでも高血糖の胸焼けの為に寝付き自体は良くなかったので、何度も夜中に胸焼けの苦しみで目が覚めては2度寝するを繰り返していた為に、明るくなってから目が覚めたらヤバいんだろうなという罪悪感の2度寝を貪っていたのだが、それでもギリギリで間に合う時間に起きられたのは、俺という人間の律儀で真面目な性格の表れとも言えるだろう。
素早く衣服を着替えると、俺は急いで目的地へと向かった。
朝から大通りを全力疾走する俺の姿を道行く人が振り返ってみるが、俺は韋駄天の如く、ましらの如く、道行く人々を踏み越え乗越えかき分けて、なんとか2キロ先の東門へとたどり着いたのであった。
「ぜーぜー、はぁはぁ、・・・うっぷ」
絶対朝飯はいらないだろうなという満腹中枢と血糖値ではあったが、その上で昨日の晩餐がまだ消化し切れていないのか、体の調子はかなり劣悪だったものの、込み上げた胃液を飲み込んでナルカの姿を探した。
特徴のある薔薇のような赤髪なのでこういう時はすぐ見つかるものと思ったが、門の周りに見知った顔は無かった。
「・・・もしかして、まだ来てないのかな?」
時計の時刻は8時59分、東門の開門時刻が9時であり、時間には間に合っている筈だが、俺が来ないと思って引き返す確率よりは、遅刻、病欠の方が高いか・・・?。
俺は東門から出入りする人々の顔を注意深く確認しながら、待ち合わせ場所を間違えたのかという不安を抱えて暫くその場に留まる。
すると10分遅れでナルカがやってきた。
「・・・ごめん、お待たせ」
「気にしないでくれ、俺も次は遅刻するかもしれないから、ってその格好・・・」
ナルカの服装は動きやすい機能性とか、汚してもいい使い古しとかではなく、レースなどの装飾のある仕立ての良いオシャレ服だった。
「どう、似合う?」
「・・・ごめん、見惚れててどこかのお姫様かと思った」
俺は今までナルカの事を生意気でポンコツなバカ女だと思っていたが、お洒落をしたナルカは貴族の令嬢と言われても納得するくらいに品があった。
故に、今の言葉も社交辞令では無くて本音であり、本当にナルカはどこかのお姫様なんじゃないかと思ったのである。
この世界において赤髪は一種のステータスだ、太陽の神を象徴するものであり、赤髪を持っている家系は往々にして優遇されるものだった。
故に、化粧をして身なりを整えたナルカの姿が高貴で愛らしく見えるのも当然の話だ。
おそらく、この10人中9人が振り返るアイドル顔負けのルックスであれば、ナルカは多少性格が悪くても周りからチヤホヤされるのは容易なんだろうと思える。
「なにそれ、あんた褒め方のレパートリー貧弱過ぎ」
そう言うナルカは満更でもなさそうに笑みを浮かべる。
「でも、今日って薬草採りに行くんだよね?、山に行くのにそんな格好でいいのかな・・・?」
「まぁ別に草むらに入るわけでも、登山する訳でもないし、山の下の湖のほとりにある薬草とキノコを取るだけだから、あとはいこれ」
そう言ってナルカは俺に風呂敷に入った包みを手渡す。
「もしかして弁当?、しかも手作り?」
「まぁ今日は手伝って貰う事だし、その報酬って事で、店で食べたらいい値段する奴だから、損はさせないし」
「わざわざありがとう、それで、お友達は大丈夫かな?」
「あ、そうだ、忘れてた、皆まだ待っててくれてるかなっ」
そう言ってナルカと一緒に辺りを見回すと、こちらを遠目で観察している女子の集団があった。
「あ、いた、みんなごめーん!、お待たせー!!」
俺はナルカの後をついてその女子のグループに混ざる。
俺は一緒に行く友達と言っても一人、二人くらいだと思っていたので、三人もいると完全にアウェーで居心地が悪いが、まぁ適当にやり過ごそうと適当にやり過ごすスイッチをオンにする。
「おそいよナルカ!、で、そっちの彼誰?、もしかして彼氏?」
「えー!?、意外、ナルカ、こんなのが趣味だったの!?」
「ち、ちち、違うしっ、彼氏とかじゃないし!!」
予想通りナルカが冷やかされて、俺は初対面で見下されたので、勝手にヒエラレルキーを構築される前に、俺は自己紹介をした。
「初めまして、今日はナルカさんに雇われて来た、護衛役のライアです、ジョブは【モンク】で、普段は村の教会のお手伝いをしています、どうぞよろしく」
ニコッと、好青年的な印象を与える事に定評のある営業スマイルで俺は挨拶する。
ジョブを先に発言する事で成人マウントも取っておく。
「え、あんた、宣告済みだったの・・・?」
宣告は村では16にやる習わしだが、一般的には義務教育卒業後や成人年齢である18歳の誕生日など、モラトリアムの卒業をする儀式として行われる。
故に、まだ学生らしいナルカが宣告を受けていないのは普通の事だった。
「ええ、とは言っても、まだひと月くらいしか経っていませんけど」
「へぇー、【モンク】かぁ、ちょっと冴えない感じだけど、話してみたら普通にかっこいいって言うか」
「えー、ちょっとセイナ、あんたさっき下着泥棒の指名手配犯と顔似てるって盛り上がってたのに変わり身早くね!」
「いやだってよく見たら普通にかっこいいじゃん、話し方も大人の余裕があるっていうか優しい感じだし」
「確かに、なんか仕事とか出来そうな感じだよね」
【モンク】の情報を先出しした事により、好印象になる職業バイアスがついたおかげか、それ以降ナルカの友達たちは俺に対して好意的に接してくれた。
やっぱりガキ相手だと、見た目と肩書きだけで雑に騙せるから俺としても演技の要求値が低くて楽だった。
道中、俺はギャル風味で生意気なナルカの友達たちに質問攻めに遭いながら、まったりと一時間かけて近くの山の麓にある湖、オーヴァー湖へとやって来た。
ナルカ達は薬学を学んでいるらしく、それに使う薬草を取りに行くのが今回の目的との事。
護衛なんているのか?ってくらい平穏で平坦な道のりだったが、まぁ護衛なんて半分は建前だろうと思っていたので、俺は気楽に構える事にした。
実際問題、Bランク以上の魔物に遭遇しても俺は足止めすら出来ない訳だし、【モンク】の俺が凶悪な魔物に勝っても不自然な話だし。
そして俺たちはオーヴァー湖のほとりで薬草を取ったり昼飯食ったりして、ピクニック気分でのんびりと穏やかな時間を過ごし、俺は荷物番をしながら昼寝をしていた折に。
「ちょっ、まじこれヤバいって」
「どうする、今から助け呼びに行って間に合うかな?」
「いや、絶対無理っしょ、なんでこんな所でCランクのジルドレッサーパンダなんているのって話だし」
と、俺に助けを求めに来たのか、青ざめた顔でナリカの友達たちが駆け寄って来た。
切迫した様子からに察するに、どうやらナルカが襲われてしまったらしい、しかもCランクの魔物に。
・・・勝てるかなぁ?、勝てないだろうなぁ、でも俺には切り札があるし、死にはしないだろう。
俺はガバッと立ち上がって、ナルカの友達たちにナルカの状況を尋ねた。
話によるとナルカがヤクマンドラゴラを採取する為に木に登っていた所にジルドレッサーパンダが現れて、それでナルカがそのまま木に避難して3人は逃げて来たという話だった。
「・・・Cランクか、一応俺には魔物よけに使える小道具があるから追い払えるだろうけど、完全に撃退出来る訳じゃないから追ってくるかもしれない、だから皆は先に逃げてて、
───────ナルカは絶対、俺が助けるから」
そう言って俺はナルカの元へと走った。
「え、ライアさん、まさか一人で!?」
「すごいねぇ、ナルカの彼氏・・・、躊躇なく向かっていったよ」
「ああ、あれは愛だね、取り敢えず何もしないよりはマシだろうし助け呼ぼうか、誰かいるかもしれないし」
「え、一匹じゃないのかよ・・・?」
Cランク相手とは言え、一匹ならタイマンでもやりようはあるかなと思って人払いした訳だが、ナルカを狙って木の下に待ち構えるジルドレッサーパンダは3匹いた。
Cランク故に多少の知性もあるのだろう、虎視眈々と獲物としてターゲットしたナルカが消耗して降りてくるのを狙っている、という具合だ。
流石にこいつらを素手で倒すのは無理ゲーだし、ナルカを救出するにはクロから貰った臭い玉を使うしか無いという状況だった。
「・・・不意打ちで攻撃すれば一網打尽だが、ナルカも気絶する、逆に敵の注意を引きつければ分散されたり更に仲間を呼ばれるかもしれない、か・・・」
なんとか音を立てずにナルカに鼻をつまむように指示したい所だったが、木の上の方にいる為か枝葉で姿が隠れていて、こちらからはナルカのパンツしか見えない状態だった。
「ちっ、これじゃあナルカに指示を出すのは無理か、仕方ない」
時間をかければジルドレッサーパンダに気づかれるだろう、故に俺は、3匹のジルドレッサーパンダを巻きむように角度を計算して、ナルカの登っている木に向かって臭い玉を投げつける。
木に当たった臭い玉は破裂して、激烈な悪臭を拡散させる。
「キャン!?、クゥーン・・・」
クロ特製臭い玉により、ジルドレッサーパンダは気絶した、至近距離で嗅げばショック死も免れないスカンク並の凶悪な品物故にその効果は絶大だ。
そして、それは木の上にいるナルカも例外では無い、気絶して木から落下した所を俺は受け止める。
そして俺はナルカを抱きかかえたままその場を離脱しようとした、しかし。
「グギャッ、グオォォォォン!!」
一匹のジルドレッサーパンダが、立ち去ろうとした俺に襲いかかってきた。
「な、こいつ!?」
俺はなんとか蹴り飛ばして反撃するが、ジルドレッサーパンダの爪によって俺の太ももは引き裂かれて、地面に血潮が飛び散った。
「痛え、クソっ、・・・こいつ、鼻が効いてないのか、それで」
俺を攻撃してきた個体の鼻は、戦いの傷だろう、潰れて歪になっていた。
見れば他の個体よりも図体がデカく、体も筋肉で肥大化していて図体がデカい、おそらくボス個体なのだろう。
太ももを損傷したせいで走って逃げるのは無理だ、しかし臭い玉の為に息を止めている為にこの場に留まって戦う事も出来ない、そしてナルカを抱えている為に両手も塞がっている。
タイマンならCランク相手でも薄っすい勝ち目はあっただろうが、状況は分が悪すぎた、こちらは満足に戦う事も逃げる事も出来ないそんな八方塞がりの状況。
せめて臭い玉の範囲外まで逃げなくては、俺はこのまま窒息するか気絶して食われるだろう。
絶体絶命、しかし助けが来ない事は分かっている、なら一か八かにかけるしかない。
短期決着、迅速に一撃でジルドレッサーパンダを倒すしかない。
秒読みの時間制限つきだったので俺は思いつきを素早く行動に移した。
俺はナルカを下ろしてジルドレッサーパンダと対峙し、ジリジリと近づいていく。
至近距離、ジルドレッサーパンダが咆哮し俺に襲いかかる。
俺のステータスはオールE、ステータスの上ではCランクのジルドレッサーパンダには勝てないだろう、故に、ただの一撃を加えた所で敗北は必至だ。
しかし俺は、そんなギリギリの状況の中でもジルドレッサーパンダの稲妻の如く俊敏な突撃を見極め、カウンターでジルドレッサーパンダの口の中にそれを投げ入れる。
────臭い玉との至近距離のキス。
臭い玉は悪臭を放つだけでなく、可燃性のあるガス兵器である。
つまり、それを胃袋に収めた生き物は、ガスの細菌により体内を汚染されて、体内でガスが膨張し、破裂する。
臭い玉を飲み込んだジルドレッサーパンダはたちまち悶え苦しみ、口から悪臭を放ちながら呻くが、俺はすぐ様ナルカを抱えてその場を離れた。
直後、ジルドレッサーパンダが自身の体内のガスによって膨張し、破裂する。
俺は既に呼吸を止めて一分以上活動していたが、それでもまだ機敏に動けたのは一重に、これも【勇者】としての本領発揮だろうか。
しかし、そこから10秒歩いた所で切り裂かれた足が悲鳴を上げて、俺はその場に崩れて呼吸をしてしまい、臭い玉の効果によって気絶してしまった。
「うっ、クセェ、なんだこの匂いは!?」
「・・・あそこに人がいるな、どうやら逃げて来たみたいだが、この匂いで気絶したのだろうか?」
「・・・おい、これってネームドのジルドレッサーパンダ、通称『男爵』の首じゃねぇか?、確か、鼻が潰れてる個体だったよな?」
「なに!?、わざわざBランクの俺たちが駆り出される獲物だってのに、倒されてたっていうのか?、どういう事だ?」
彼らはナルカの友人たちによってライア達を助けに来たBランクの冒険者だが、元々ジルドレッサーパンダのネームドモンスター、『男爵』の討伐をギルドから依頼されてここに来たのであった。
「わからねぇ、でも、内部から破裂してるって事はもしかしたら・・・、ガス爆発かなにかで、このクセェのはその影響なのかも・・・」
「なるほど・・・、まぁいい、なら目標である『男爵』の首だけ持って帰ろう、おい、大丈夫か!」
パーティーのリーダー格の男が、倒れているライアの肩を叩くが、反応は無かった。
「・・・怪我をしているな、仕方ない連れて帰るぞ、詳しく事情も聞きたいし、そっちの子はどうだ?」
「無事よ、お友達がいるみたいだし、彼女はお友達に任せましょう」
こうして男達は、ナルカの友達の元にナルカを運ぶと、気絶したライアを担いでギルドへと帰って行ったのであった。
「・・・なるほど、そういう事情で俺はギルドままで運ばれたんですね、助けて頂きありがとうございます」
俺はギルドの談話室で俺を助けた冒険者の男たちから事情聴取を受けていた。
相手は以前『女王』の討伐作戦を依頼しようと目星をつけていたパーティ「グリフォニア」の、そのリーダーの若い男だった。
「それで、君はあそこで何をしていたんだ?、『男爵』は君が?」
「へ?、『男爵』?、なんの事です?」
男爵とは貴族の事だろうか?、全く身に覚えの無い単語だったので俺は聞き返した。
「ああ、そうか、知らないのか、あそこで死んでた大型のジルドレッサーパンダ、通称『男爵』、俺たちはそれの討伐を依頼されてた冒険者だ、しかしいざ現場に来てみれば、男爵は首だけとなって破裂していて、そこに君が倒れていたという訳だ」
「・・・なるほど」
これは受け答えを間違えれば、俺が【モンク】では無い事がバレる非常に重要な場面なのだと俺は一瞬で理解し、どんな方向性で話を作るかを急いで思考する。
俺がこういう場面を想定して用意している選択肢は三つ。
1.知らないうちに解決してたパターン、2.架空の第三者に解決して貰ったパターン、3.運良く敵が自滅してくれたパターン。
1はとぼけるだけでいいし、追求されない代わりに自分への疑念を与える、2は架空の第三者が存在しうる状況に於いては効果的だが、他に目撃者がいる場合において効果が半減する、3は自分が疑われていない場合においてのみ、相手が勝手に納得してくれる事を期待する選択肢だ。
シチュエーションで分けると、1は相手が刑事などの追求のプロの時に、取り敢えず時間を稼ぐ目的で使う選択肢で、2は俺に疑いを持って無い人間に対して、その疑いを納得させる為のやり方、3は俺をクズで無能で怠惰な阿呆だと知っている、村の中でだけ通用するような強引な手法になる。
故に、この場においては1か2が妥当なのかもしれないが、ナルカが俺とウーナの決闘を知っていた事から、仮にその事情を知っていた場合には、2を使うのは疑念を与える事になるだろう。
だからこの場においては1しかないという事になるのだが、だが、それでは疑念を残して俺が『男爵』を倒したという噂が広がる可能性も出るだろう。
故に、なんとかして、俺に全く疑いを持たれないようにして、作り話を考える必要があった。
「・・・うっ、すみません、・・・なんか、体から悪臭が漂って来て・・・、なんか臭いなぁ俺、・・・はっ、・・・そうだ!スカンクです、『男爵』に襲われて逃げてる所に、急にスカンクがやって来て、それでそのスカンクが男爵と至近距離の屁をこいて、助かる為にはそれを利用するしか無いと思った俺は、火を起こそうとして石を拾って、それを『男爵』に向けて投げたんです、・・・そこから先の事は覚えてないんですが」
「スカンクが・・・、なるほど、事情は分かった、ありがとう」
そう言うと男は頷いて、気をつけて帰るようにと解放してくれた。
つまり、1.2.3の合わせ技だ、真実が何かは、聞く人の立場によって変わるような、そんな玉虫色の返答。
これなら矛盾も少ないし、俺が嘘をついていると疑われる可能性も低いだろう。
うまく返答出来たことに俺はほっと一息ついて、取り敢えず戦闘で汚れた服でも買い換えるかと、懐の中身が無事なのを確認して、そのまま服屋に向かった。
「みろ、やっぱり偶然だ、あんな子供に『男爵』の討伐なんて出来る訳が無い」
「とは言ってもよう、あのガキ確か、この間『剣の聖騎士』に勝った奴だぜ確か、だからただ者じゃない可能性も」
「はは、あの決闘が騙し討ちによる卑怯な不意打ちの結果でただのまぐれだと、近くで見ていた奴は全員言ってるじゃないか、新聞のデタラメを真に受けるなんてバカのする事だぞ、実際、彼のステータスはオールEで、ジョブも後衛職の【モンク】だし、それで『剣の聖騎士』に勝つのは道理が無さすぎる」
「いーや、確かに俺もおかしいと思うが、でも、あの決闘も、確かに不意打ちだったけどそこまでズルでは無かったというか、紙一重であんちゃんに軍配が上がったようにも見えたんだよなぁ」
「まぁ、それも不意打ちだとしても紙一重の奇跡がないと勝てない、それだけの話だろう、お前はまさか、あの子が実力で『男爵』を倒したって、そう思ってるのか?」
「・・・いや、冷静に考えたらそんなの有り得ないって思うさ、でも、噂くらい聞いた事はあるだろ?」
噂、それは新聞などのニュースとして広まったものではなく、ただ人づてにそういう噂が存在するだけのものであるが、その噂は信ぴょう性はともかく、注目度だけは抜群に高かった、故にゴシップ嫌いの男も、自然と耳にするものだった。
「・・・まさかあの子が【勇者】だとでも?、はは、無い無い、【勇者】はもっとこう、強くて男らしくて逞しい存在だ、それに、あの子が【勇者】だとして、なぜそれを隠す?、なぜ『男爵』を倒した事を偽装する?、そんな事をする理由が無いんだ、だからそれはありえないよ」
「そうだな、理由は無い、・・・でも俺が見たあんちゃんの剣は、確かに騎士のねーちゃんより疾かった、そんな気がするんだよなぁ・・・」
もう1人の男は独りごちた後に、変な妄想をしている自分を紛らわそうと、酒を仰いだ。
そして男は今一度先刻の少年の風貌を思い出してみるが、記憶を掘れば掘るほどに、少年はみすぼらしく貧弱なものに思えた、故に男は相棒の言葉をただの妄想と捨て置いて、少年の事から意識を外したのだった。
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