泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

文字の大きさ
25 / 179
本編

第24 移り香を咎めて 3

しおりを挟む
引き離すことを諦めたのか、首筋に顔を埋めたままのレフラをいつものようにギガイが抱え直す。そのまま扉の前からギガイが執務室内へ足を進めた。

「何かあったのか?」

頭上から聞こえた声はラクーシュ達3人へ向けたものだろう。さっきまでレフラへ向けていた声音とは打って変わった声音だった。

「いえ、特に何かあったということはございません」

3人もレフラの様子に戸惑っているのか、ギガイへ応える声からそんな様子が伝わってくる。

「レフラ」

「いやです!」

もう一度、諭すような声を出したギガイの言葉に言葉を重ねる。自分を引き離すための言葉なんて聞きたくない。レフラは顔を埋めたままで首を振ってギガイの言葉を拒絶した。

「とりあえず一旦奥へ戻る。部屋に着替えと例の茶を手配させろ」

レフラの頭上から仕方がない、といった溜息と性急さが感じられるギガイの指示が聞こえてくる。

リュクトワスの返事を背中に受けながら、通路へ出たギガイが大股で向かう先は宮とは反対のようだった。

そんなギガイを見かけた臣下が通路の脇に身体を寄せて、頭を下げて控えていく。その間を通り過ぎるギガイは、一言も言葉を発しないまま前を向いたままだった。

どこか険しく見えるギガイの表情に、レフラの胃の辺りがキュッと冷たくなっていく。

「……ギガイ様、怒っていらっしゃるんですか?」

そうだとしたら、レフラの振る舞いは間違えていたということだろう。だけどどう振る舞えばよかったのか、レフラにはやっぱり分からなかった。

ギガイの負担になるようなマネはしたくなかった。物分かりの良い御饌だと思われていたかった。

でもそんな自分であろうとすれば、謀るなと叱られた。

「……本当は、ギガイ様へご迷惑を掛けたくはないんです……私は、どうしたら良かったのですか……?」

ワガママの限度を何か間違えてしまったのかもしれない。

他の人達なら上手くやれることなのだろう。だけどいままで全てを飲み込むことが当たり前だったレフラにとっては、戸惑うことばかりだった。

「ワガママを言うことはやっぱり難しいです……」

自分が我慢さえしていれば、ギガイを困らせることなんてなかったのだから。

そんなレフラの頭をギガイの手が優しく撫でていく。

「違う、怒っている訳じゃない。お前を案じているだけだ。お前はマナ茶を飲んでいないだろ」

「マナ茶?」

確か解毒に用いられるお茶のはずだが、なぜいまここでそのお茶が問われるのかが分からなかった。レフラがようやくギガイの首筋から顔を上げて、間近にあった琥珀色の目を見つめ返す。

「……それが何か?」

困惑したようにコテンと首を傾げれば、ギガイが怪訝そうに眉根を寄せた。

「…何かって……」

言葉を切ったギガイの中で何か腑に落ちたものがあったのか、眉間の皺が取れていく。

「白族の魅毒を聞いたことがなかったのか?」

「…みどく、ですか?」

「あぁ、いま私の身体から匂いがするだろう」

「……はい」

「この匂いのことだ」

「……この匂いはキライです……」

もう一度グリグリと首筋に額を擦り付けた。

これで匂いが消えるわけではないけれど、ギガイへ擦り寄った誰かの感触をせめて上書きしてしまいたかった。

「あっ、こら。レフラ、それは止めろ」

「……どうして、ですか……?」

それなのに慌てたようなギガイに再び止められてしまったのだ。痛む胸のままに、レフラはギガイの袂をギュッと握った。
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

処理中です...