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本編
第24 移り香を咎めて 3
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引き離すことを諦めたのか、首筋に顔を埋めたままのレフラをいつものようにギガイが抱え直す。そのまま扉の前からギガイが執務室内へ足を進めた。
「何かあったのか?」
頭上から聞こえた声はラクーシュ達3人へ向けたものだろう。さっきまでレフラへ向けていた声音とは打って変わった声音だった。
「いえ、特に何かあったということはございません」
3人もレフラの様子に戸惑っているのか、ギガイへ応える声からそんな様子が伝わってくる。
「レフラ」
「いやです!」
もう一度、諭すような声を出したギガイの言葉に言葉を重ねる。自分を引き離すための言葉なんて聞きたくない。レフラは顔を埋めたままで首を振ってギガイの言葉を拒絶した。
「とりあえず一旦奥へ戻る。部屋に着替えと例の茶を手配させろ」
レフラの頭上から仕方がない、といった溜息と性急さが感じられるギガイの指示が聞こえてくる。
リュクトワスの返事を背中に受けながら、通路へ出たギガイが大股で向かう先は宮とは反対のようだった。
そんなギガイを見かけた臣下が通路の脇に身体を寄せて、頭を下げて控えていく。その間を通り過ぎるギガイは、一言も言葉を発しないまま前を向いたままだった。
どこか険しく見えるギガイの表情に、レフラの胃の辺りがキュッと冷たくなっていく。
「……ギガイ様、怒っていらっしゃるんですか?」
そうだとしたら、レフラの振る舞いは間違えていたということだろう。だけどどう振る舞えばよかったのか、レフラにはやっぱり分からなかった。
ギガイの負担になるようなマネはしたくなかった。物分かりの良い御饌だと思われていたかった。
でもそんな自分であろうとすれば、謀るなと叱られた。
「……本当は、ギガイ様へご迷惑を掛けたくはないんです……私は、どうしたら良かったのですか……?」
ワガママの限度を何か間違えてしまったのかもしれない。
他の人達なら上手くやれることなのだろう。だけどいままで全てを飲み込むことが当たり前だったレフラにとっては、戸惑うことばかりだった。
「ワガママを言うことはやっぱり難しいです……」
自分が我慢さえしていれば、ギガイを困らせることなんてなかったのだから。
そんなレフラの頭をギガイの手が優しく撫でていく。
「違う、怒っている訳じゃない。お前を案じているだけだ。お前はマナ茶を飲んでいないだろ」
「マナ茶?」
確か解毒に用いられるお茶のはずだが、なぜいまここでそのお茶が問われるのかが分からなかった。レフラがようやくギガイの首筋から顔を上げて、間近にあった琥珀色の目を見つめ返す。
「……それが何か?」
困惑したようにコテンと首を傾げれば、ギガイが怪訝そうに眉根を寄せた。
「…何かって……」
言葉を切ったギガイの中で何か腑に落ちたものがあったのか、眉間の皺が取れていく。
「白族の魅毒を聞いたことがなかったのか?」
「…みどく、ですか?」
「あぁ、いま私の身体から匂いがするだろう」
「……はい」
「この匂いのことだ」
「……この匂いはキライです……」
もう一度グリグリと首筋に額を擦り付けた。
これで匂いが消えるわけではないけれど、ギガイへ擦り寄った誰かの感触をせめて上書きしてしまいたかった。
「あっ、こら。レフラ、それは止めろ」
「……どうして、ですか……?」
それなのに慌てたようなギガイに再び止められてしまったのだ。痛む胸のままに、レフラはギガイの袂をギュッと握った。
「何かあったのか?」
頭上から聞こえた声はラクーシュ達3人へ向けたものだろう。さっきまでレフラへ向けていた声音とは打って変わった声音だった。
「いえ、特に何かあったということはございません」
3人もレフラの様子に戸惑っているのか、ギガイへ応える声からそんな様子が伝わってくる。
「レフラ」
「いやです!」
もう一度、諭すような声を出したギガイの言葉に言葉を重ねる。自分を引き離すための言葉なんて聞きたくない。レフラは顔を埋めたままで首を振ってギガイの言葉を拒絶した。
「とりあえず一旦奥へ戻る。部屋に着替えと例の茶を手配させろ」
レフラの頭上から仕方がない、といった溜息と性急さが感じられるギガイの指示が聞こえてくる。
リュクトワスの返事を背中に受けながら、通路へ出たギガイが大股で向かう先は宮とは反対のようだった。
そんなギガイを見かけた臣下が通路の脇に身体を寄せて、頭を下げて控えていく。その間を通り過ぎるギガイは、一言も言葉を発しないまま前を向いたままだった。
どこか険しく見えるギガイの表情に、レフラの胃の辺りがキュッと冷たくなっていく。
「……ギガイ様、怒っていらっしゃるんですか?」
そうだとしたら、レフラの振る舞いは間違えていたということだろう。だけどどう振る舞えばよかったのか、レフラにはやっぱり分からなかった。
ギガイの負担になるようなマネはしたくなかった。物分かりの良い御饌だと思われていたかった。
でもそんな自分であろうとすれば、謀るなと叱られた。
「……本当は、ギガイ様へご迷惑を掛けたくはないんです……私は、どうしたら良かったのですか……?」
ワガママの限度を何か間違えてしまったのかもしれない。
他の人達なら上手くやれることなのだろう。だけどいままで全てを飲み込むことが当たり前だったレフラにとっては、戸惑うことばかりだった。
「ワガママを言うことはやっぱり難しいです……」
自分が我慢さえしていれば、ギガイを困らせることなんてなかったのだから。
そんなレフラの頭をギガイの手が優しく撫でていく。
「違う、怒っている訳じゃない。お前を案じているだけだ。お前はマナ茶を飲んでいないだろ」
「マナ茶?」
確か解毒に用いられるお茶のはずだが、なぜいまここでそのお茶が問われるのかが分からなかった。レフラがようやくギガイの首筋から顔を上げて、間近にあった琥珀色の目を見つめ返す。
「……それが何か?」
困惑したようにコテンと首を傾げれば、ギガイが怪訝そうに眉根を寄せた。
「…何かって……」
言葉を切ったギガイの中で何か腑に落ちたものがあったのか、眉間の皺が取れていく。
「白族の魅毒を聞いたことがなかったのか?」
「…みどく、ですか?」
「あぁ、いま私の身体から匂いがするだろう」
「……はい」
「この匂いのことだ」
「……この匂いはキライです……」
もう一度グリグリと首筋に額を擦り付けた。
これで匂いが消えるわけではないけれど、ギガイへ擦り寄った誰かの感触をせめて上書きしてしまいたかった。
「あっ、こら。レフラ、それは止めろ」
「……どうして、ですか……?」
それなのに慌てたようなギガイに再び止められてしまったのだ。痛む胸のままに、レフラはギガイの袂をギュッと握った。
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