54 / 179
本編
第53 抱いた悋気 10
しおりを挟む
「お前なりの甘えだった、と言うのなら、もう良い」
その後に改めて向けられた目からは、さっきまであった冷たく鋭い視線が消えていた。いつもの目がレフラを仕方ない、というように見つめてくる。
雰囲気が変わったギガイにホッとする。だけどそうやって穏やかに見える姿は、ギガイに何かを耐えさせてのことなのだ。
(私だけがこうやって、甘やかされる関係なんて、おかしいです)
ギガイがレフラに『耐えるな』といつも言ってくれるように、レフラもギガイにできるだけ耐えて欲しくなかった。
(それに、本当は何も解決していないから……)
きっとまた、何も気が付かない内にギガイを不快にするのだろう。その度に何度もこの主は許してくれるのかもしれない。今のように飲み込んで。最後はそうやってレフラを甘やかしてくれる姿が簡単に想像できて、何だか悲しくなってくる。
「……“耐えるな” と私に仰るのは、いつもギガイ様じゃないですか……」
自分が出来ることは少なすぎて、ギガイのように上手く受け止めきれるのかは分からない。でも同じぐらい大切に想って愛しんでいることは分かって欲しいのだと、気持ちを込めてギガイに伝えてみる。
「……もう良い、なんて言わないで……ギガイ様にも耐えて欲しくありません……私の行った何かが、ギガイ様を不快にしてしまったのでしょう? だから教えて下さい……」
心を込めた言葉だった。だけど、ギガイの視線はまたツイッと逸らされてしまう。言った所で無駄だと思われているのかもしれない。
「ギガイ様……」
レフラはギュッとギガイの袂を握ってその横顔へと視線を注いだ。
「お願いします……教えて下さい……」
視線を合わせてくれないギガイへ縋るようにそう言えば、粘るレフラに折れる気になってくれたのだろう。ギガイがもう1度自分の頭をクシャッと掻いた。
「……どんなに言っても私以外へ心を砕く、お前に腹が立っただけだ」
「……申し訳ございません……」
苛立ちと言うには、どこか疲れたような声で告げられたその内容は、あの武官のことで何度も聞かされていた言葉だった。
(自分の気持ちばかりを優先して、ギガイ様の気持ちをろくに考えていなかったんだ……)
何度も窘められながらも、最後はレフラの意を汲んで貰えていたから。それに甘えきってしまっていたことに、今さらになって気が付いた。
「……申し訳ございません……やっぱり、甘えすぎておりました……」
「お前なりの甘えだった、ということであればもう良い。それにお前は自分へ関わる者を安易に切り捨てきれないようだからな」
諦めるようなその言葉を吐かせてしまったことも、そんな風に告げられたことも苦しくなる。
レフラにとってもギガイの存在が唯一無二であることには変わりない。もしも何かあれば、ギガイ以外のものを全て切り捨ててでも絶対にこの主を選ぶと分かっている。
でも孤高の主へ寄り添う者として求められる御饌なのだ。
(他の誰かと比べての1番では、ダメってことなんですね……)
だから歴代の御饌達は、あの宮の中で過ごしてきたのだろう。
「やっぱり、私は宮におります。もう近衛隊の方々にも顔も覚えて頂けたと思います。だから祭りの間だけ、上の館へはご一緒します」
それなら今までのようにレフラの世界は、ギガイとギガイが許した者達だけが存在する。それが本来の御饌の姿として望ましいはずなのだ。
レフラが腕を伸ばして、ギガイの首の辺りに留まった掌を求めた。その手に気が付いたギガイが、レフラが望むままに、レフラの手を握り返してくる。
かつては諦めていたものだった。
そんな自分に寄り添ってくれる温もりや、当たり前に与えられる優しさに心を震わせながら、両手で包み込んでそっと頬へ押し当てた。
その後に改めて向けられた目からは、さっきまであった冷たく鋭い視線が消えていた。いつもの目がレフラを仕方ない、というように見つめてくる。
雰囲気が変わったギガイにホッとする。だけどそうやって穏やかに見える姿は、ギガイに何かを耐えさせてのことなのだ。
(私だけがこうやって、甘やかされる関係なんて、おかしいです)
ギガイがレフラに『耐えるな』といつも言ってくれるように、レフラもギガイにできるだけ耐えて欲しくなかった。
(それに、本当は何も解決していないから……)
きっとまた、何も気が付かない内にギガイを不快にするのだろう。その度に何度もこの主は許してくれるのかもしれない。今のように飲み込んで。最後はそうやってレフラを甘やかしてくれる姿が簡単に想像できて、何だか悲しくなってくる。
「……“耐えるな” と私に仰るのは、いつもギガイ様じゃないですか……」
自分が出来ることは少なすぎて、ギガイのように上手く受け止めきれるのかは分からない。でも同じぐらい大切に想って愛しんでいることは分かって欲しいのだと、気持ちを込めてギガイに伝えてみる。
「……もう良い、なんて言わないで……ギガイ様にも耐えて欲しくありません……私の行った何かが、ギガイ様を不快にしてしまったのでしょう? だから教えて下さい……」
心を込めた言葉だった。だけど、ギガイの視線はまたツイッと逸らされてしまう。言った所で無駄だと思われているのかもしれない。
「ギガイ様……」
レフラはギュッとギガイの袂を握ってその横顔へと視線を注いだ。
「お願いします……教えて下さい……」
視線を合わせてくれないギガイへ縋るようにそう言えば、粘るレフラに折れる気になってくれたのだろう。ギガイがもう1度自分の頭をクシャッと掻いた。
「……どんなに言っても私以外へ心を砕く、お前に腹が立っただけだ」
「……申し訳ございません……」
苛立ちと言うには、どこか疲れたような声で告げられたその内容は、あの武官のことで何度も聞かされていた言葉だった。
(自分の気持ちばかりを優先して、ギガイ様の気持ちをろくに考えていなかったんだ……)
何度も窘められながらも、最後はレフラの意を汲んで貰えていたから。それに甘えきってしまっていたことに、今さらになって気が付いた。
「……申し訳ございません……やっぱり、甘えすぎておりました……」
「お前なりの甘えだった、ということであればもう良い。それにお前は自分へ関わる者を安易に切り捨てきれないようだからな」
諦めるようなその言葉を吐かせてしまったことも、そんな風に告げられたことも苦しくなる。
レフラにとってもギガイの存在が唯一無二であることには変わりない。もしも何かあれば、ギガイ以外のものを全て切り捨ててでも絶対にこの主を選ぶと分かっている。
でも孤高の主へ寄り添う者として求められる御饌なのだ。
(他の誰かと比べての1番では、ダメってことなんですね……)
だから歴代の御饌達は、あの宮の中で過ごしてきたのだろう。
「やっぱり、私は宮におります。もう近衛隊の方々にも顔も覚えて頂けたと思います。だから祭りの間だけ、上の館へはご一緒します」
それなら今までのようにレフラの世界は、ギガイとギガイが許した者達だけが存在する。それが本来の御饌の姿として望ましいはずなのだ。
レフラが腕を伸ばして、ギガイの首の辺りに留まった掌を求めた。その手に気が付いたギガイが、レフラが望むままに、レフラの手を握り返してくる。
かつては諦めていたものだった。
そんな自分に寄り添ってくれる温もりや、当たり前に与えられる優しさに心を震わせながら、両手で包み込んでそっと頬へ押し当てた。
14
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる