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本編
第98 艶やかな毒 11
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これ以上の沈黙は、訝しんでいるギガイの機嫌を、きっと損ねてしまうだろう。
「あの……ナネッテ様に、勝手にお会いして、ごめんなさい……」
取り敢えず、今の状況で1番叱られそうなことを、今度はハッキリと謝ってみる。ただ、気まずさに、モゴモゴと不明瞭になってしまったことは、大目に見て欲しい所だった。
そんな聞き取りにくい声だったせいか、ギガイの反応に一瞬だけ間が空いた。それでもすぐに、「何を今さら」と、ギガイがレフラの額を小突いてきた。
「損なうマネに当たらないのだから、私に怒られることはない、とお前がコイツらに言ったのだろう?」
その声からは、苛立ちのようなものは全く感じられなかった。
どちらかと言えば、眉間の辺りを揉み込んでいるギガイからは、呆れの中に疲労感が漂っている。
(あれ……?? 本当に何も、怒っていない……?……えっ? ? 『何についてだ』って聞いていたのは、そういうことですか? )
あまりに予想外すぎるギガイの反応に、レフラはちょっとしたパニック状態に陥っていた。そのせいで、ギガイの質問へ答えるタイミングを外してしまい、おかしな沈黙が流れていく。
「実際は違うのか?」
何も言わないレフラを怪訝に思ったのだろう。
動き出すのと同時に定位置に着いて、レフラを囲っていた3人の方へ、ギガイが険しい視線をツイッと向けた。
一見した限り、変わらない態度で周囲を警戒しながら歩いている3人だった。だけど、突然話題に上がって、不穏な空気が漂ったのだ。きっと気が気じゃない、と思われた。
「あ、はい。そう言って、私がお会いしたい、とお願いしました……あの……ワガママを言って、ごめんなさい……」
レフラはギガイの服を引っ張りながら、何度も大きく頷いて見せる。ギガイの視線が自分へ戻ったことを確認して、レフラはコテンと小首を傾げた。
「でも、どうして、知っているんですか? 」
レフラにすれば、純粋な疑問と、ほんのちょびっとだけ、不満が入り混じっただけの、質問だった。
(だって、まだギガイ様にお伝えする心の準備さえも、出来ていなかったんです……)
それなのに、こんなに早く伝わってしまっていたのだ。だが、ギガイにすればそんなレフラの態度に、レフラが隠そうとしていた、とでも勘違いしたのか。訝しそうな雰囲気が漂う。
「あっ、違うんです! ただ、今戻られたばかりなのに、もうご存知なので、ビックリしただけなんです」
慌てて説明するレフラに対して、今度は何とも言えない表情を浮かべた。
「報告が来るに決まっているだろ、何のためにこれだけの臣下を置いていったと思っているんだ」
ギガイが「はぁーっ、まったく……」と、眉間を揉みつつ溜息を吐いた。
「それにしても、お前は少しぐらい、大人しく待っていられないのか」
そのうえ、心底困った、といった雰囲気で、ギガイがそのまま小言を言い始める。
「私は『あまり負けん気が過ぎると、自分自身を危険に晒す』と、前にも教えたはずだろう。お前らしく在れば良いとは言ったが、この辺りは少しは控えるようにしろ」
命令するような口調ながらも、ギガイの声は『頼むから……』と、懇願しているようにも聞こえていた。
他の者へするように、力尽くで従わせてしまうのなら、ギガイだって楽だろう。でも、それ意外の方法を探して、ギガイは悩んでくれている様子だった。
ギガイの降り注ぎ続ける愛情を感じるからこそ、そんなギガイを前に、レフラはどんどん気まずくなっていく。
今のギガイは、目力が弱まり、眉尻もわずかに下がっていた。そんな途方に暮れたような表情は、レフラでも初めて見る顔なのだ。
「ごめんなさい……」
ギガイに向かい合うような高さに抱えられたまま、レフラは身体を小さくして謝った。
「あの……ナネッテ様に、勝手にお会いして、ごめんなさい……」
取り敢えず、今の状況で1番叱られそうなことを、今度はハッキリと謝ってみる。ただ、気まずさに、モゴモゴと不明瞭になってしまったことは、大目に見て欲しい所だった。
そんな聞き取りにくい声だったせいか、ギガイの反応に一瞬だけ間が空いた。それでもすぐに、「何を今さら」と、ギガイがレフラの額を小突いてきた。
「損なうマネに当たらないのだから、私に怒られることはない、とお前がコイツらに言ったのだろう?」
その声からは、苛立ちのようなものは全く感じられなかった。
どちらかと言えば、眉間の辺りを揉み込んでいるギガイからは、呆れの中に疲労感が漂っている。
(あれ……?? 本当に何も、怒っていない……?……えっ? ? 『何についてだ』って聞いていたのは、そういうことですか? )
あまりに予想外すぎるギガイの反応に、レフラはちょっとしたパニック状態に陥っていた。そのせいで、ギガイの質問へ答えるタイミングを外してしまい、おかしな沈黙が流れていく。
「実際は違うのか?」
何も言わないレフラを怪訝に思ったのだろう。
動き出すのと同時に定位置に着いて、レフラを囲っていた3人の方へ、ギガイが険しい視線をツイッと向けた。
一見した限り、変わらない態度で周囲を警戒しながら歩いている3人だった。だけど、突然話題に上がって、不穏な空気が漂ったのだ。きっと気が気じゃない、と思われた。
「あ、はい。そう言って、私がお会いしたい、とお願いしました……あの……ワガママを言って、ごめんなさい……」
レフラはギガイの服を引っ張りながら、何度も大きく頷いて見せる。ギガイの視線が自分へ戻ったことを確認して、レフラはコテンと小首を傾げた。
「でも、どうして、知っているんですか? 」
レフラにすれば、純粋な疑問と、ほんのちょびっとだけ、不満が入り混じっただけの、質問だった。
(だって、まだギガイ様にお伝えする心の準備さえも、出来ていなかったんです……)
それなのに、こんなに早く伝わってしまっていたのだ。だが、ギガイにすればそんなレフラの態度に、レフラが隠そうとしていた、とでも勘違いしたのか。訝しそうな雰囲気が漂う。
「あっ、違うんです! ただ、今戻られたばかりなのに、もうご存知なので、ビックリしただけなんです」
慌てて説明するレフラに対して、今度は何とも言えない表情を浮かべた。
「報告が来るに決まっているだろ、何のためにこれだけの臣下を置いていったと思っているんだ」
ギガイが「はぁーっ、まったく……」と、眉間を揉みつつ溜息を吐いた。
「それにしても、お前は少しぐらい、大人しく待っていられないのか」
そのうえ、心底困った、といった雰囲気で、ギガイがそのまま小言を言い始める。
「私は『あまり負けん気が過ぎると、自分自身を危険に晒す』と、前にも教えたはずだろう。お前らしく在れば良いとは言ったが、この辺りは少しは控えるようにしろ」
命令するような口調ながらも、ギガイの声は『頼むから……』と、懇願しているようにも聞こえていた。
他の者へするように、力尽くで従わせてしまうのなら、ギガイだって楽だろう。でも、それ意外の方法を探して、ギガイは悩んでくれている様子だった。
ギガイの降り注ぎ続ける愛情を感じるからこそ、そんなギガイを前に、レフラはどんどん気まずくなっていく。
今のギガイは、目力が弱まり、眉尻もわずかに下がっていた。そんな途方に暮れたような表情は、レフラでも初めて見る顔なのだ。
「ごめんなさい……」
ギガイに向かい合うような高さに抱えられたまま、レフラは身体を小さくして謝った。
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