泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

文字の大きさ
102 / 179
本編

第101 共鳴の鈴 1

しおりを挟む
パタンと閉じられた扉に、レフラの心臓がバクッと跳ねた。
元から逃げる気もなければ、逃げられるはずもない、と分かっている。それでも、奥の間のギガイの私室の扉は、ついさっきまであったレフラの平穏な世界との境界なのだ。

これから、この部屋の中で始まることを思えば、扉が閉まって、あちら側と遮断されてしまったことが不安だった。

「ギガイ様……」

本当にやるのか、と最後の望みを託して、レフラはギガイの名前を呼んだ。図らずも、縋るような声になったのは、まだ心構えも出来ていない状態だったからだろう。

市場からここへ戻ってくるまでの間、ギガイには怒っている様子は全くなかった。あの後からは、平和に過ぎていく時間に、“仕置き” だと言われていたことさえ、忘れかけていたぐらいだった。

それに、祭で多忙な最中だということや、内容を考えても、きっと夜に宮へ戻ってからのことだと、思っていたことも原因だった。

「本当に、今からするんですか……?」

心の準備もなく、トサッと降ろされた寝台の上。大きなマットに、レフラはペタッと座り込んだまま、ギガイの方を窺い見る。そんなレフラへ向けられた、ギガイの顔は、柔らかな眼差しながらも、交渉の余地がない事を物語っていた。

「諦めろ」

レフラの頬をひと撫でしたギガイの指先が、そのまま顎先にかかって、顔を固定する。間を置かずに顔を近付けられ、ギガイの舌先が軽くレフラの唇をなぞった。

「舌を出せ」

たったそれだけの言葉と動きで、部屋の中の空気が淫靡に変わった。ギガイの泰然とした様子からは、レフラが従うことを、微塵も疑っていないことが伝わってくる。

空間丸ごとが、ギガイの支配下となったような、錯覚さえも感じてしまう。そんな部屋の中に響く、柔らかくも、逆らえないギガイの声。レフラは命じられるままに、震える舌を差し出した。

ピチャッ。
口外で舌を弄られ、濡れた音が2人の間から聞こえてくる。それと同時に、ギガイがレフラの耳殻を何度も指先でなぞっては、揉みしだいていた。

「ふ…ぁ…っぁ……」

指先だけで弄られているとはいえ、弱い場所へ与えられる刺激なのだ。愛咬と舌裏へ愛撫を繰り返されて、快感が呆気なく積もっていく身体には、羞恥心と共に熱を煽るには十分だった。

「ふぅっ……ぁぅ、ぅう……」

レフラの呼吸は、早々に乱れ出していき、溢れた唾液がポタッポタッとシーツに垂れていく。
一頻り、その声と舌の感触を楽しんだのだろう。差し出し続けていた舌の根元に、痺れを感じるぐらいになった頃、ギガイがようやくレフラを解放した。

「必要な物を取ってくる。お前は服の下を脱いで、そこに凭れて脚を開いていろ」

垂れた唾液で濡れたレフラの口元を、ギガイが掌で拭い取る。そのままヘッドボード前に積み重ねられているクッションを示す指を、レフラはとっさに捕まえた。

「やっ、いやです、やだぁッ!」

嫁ぐまでは自慰さえも行わずに、貞操を守り続けていたレフラにとっては、羞恥は苦痛に近かった。
ギガイと行為の最中に晒すことさえ、いつも恥ずかしすぎて、ツラいのだ。それでも好きな相手に抱かれる行為や温もりを支えに、レフラはいつも必死に応じていた。

そんなレフラを知っていて、今は寝台の上で1人で晒していろ、とギガイは素気なく命じている。

いつ戻るかも分からないギガイを待ちながら、本来なら隠すべき場所を晒して居る姿。それは想像だけでも、恥ずかしすぎて、支えてくれるモノが何もなくて、レフラにはあまりにツラかった。

「いやです……」

「言っただろう『イヤなことでなければ、仕置きにならない』と」

「でも、でも……」

「痛いことではないだろう? それにすぐに戻ってくる。少しだけ頑張って、耐えていろ」

そう言ったギガイが、レフラの身体を抱き締めた。

ギガイ自身が与えてくる仕置きが、レフラの怯えを生み出しているはずだった。それなのに、包み込む腕や身体が温もりが、レフラの怯えを癒していく。

「ちゃんと……早く、戻って、きて下さいね……」

見られる羞恥も居たたまれない。それでもギガイの存在がそばに居ないのはイヤだった。

「あぁ、すぐに戻ってくる」

ギガイの柔らかく、甘い答えを聞きながら、レフラはコクリと頷いた。
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...