泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第114 琥珀の刻 6

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「……何か言いたい事がありそうだな」

「あっ、いえ、とんでもございません」

「かまわん、言ってみろ」

促すギガイの声から、いつもの覇気が消えていた。儘ならない現状に、苛立ちと言うよりは疲労を滲ませているギガイなのだ。

やっぱり2人の中で、一晩の間に何かがあったようだった。

場合によっては以前のトラブルのように、3人の護衛に影響する可能性だってある。この主が『かまわん』と言っているのだ。可能ならば知っておくに、こしたことはない。

互いにチラッと目配せをして、ラクーシュが腹を括って質問をした。

「……ギガイ様が、レフラ様を離されるのが珍しいため、何かトラブルがあったのかと案じております」

「トラブルと言うべきか……」

予想していた質問ではあったのか、尋ねたラクーシュに対して、驚愕や不快さを表すような、大きな反応はなかった。

ただ、レフラ以外へは、冷徹かつ明瞭に語る姿しか見たことがなかった主なのだ。その言い淀む様子が、驚きだった。

「……泣かれたからな、盛大に」

「えっ?」

「昨日の白族の件で、アレを嗜めたところ『咎めないと約束した』と、盛大に泣かれた」

「はぁ……」

「お前達も前に見た事があるだろう。先代の墓園で」

その言葉に記憶が蘇った3人も、表情をハッキリ引き攣らせた。

あの日以降、憑き物が落ちたように、レフラの表情はだいぶ明るくなっている。そしてギガイとの関係も、端から見てもだいぶ穏やかになっていた。

互いの誤解を解く糸口になった、大切な出来事ではあったと思う。それでも、ケガを負ったギガイと、その横で悠長に話すリュクトワス相手にじれて怒りだしたレフラは、かなり大変だったのだ。

最後は泣きに泣いて、怒り続けていた状態だった。あげく、傍観するしかなかった3人へも、怒りがしっかりと飛び火してきた記憶は、思い出すだけでも顔が引き攣ってしまう。

日頃は自分を律しがちな分、そうなった時のレフラの頑固さが、どれだけ厄介なのかは、3人はもう身をもって知っていた。

「あぁなると、私も適わん……」

「はい……」

心底参った、というように言うギガイに、3人も同じ気持ちで頷いた。

「もともとやりたいように、させてやる約束だからな。あれが望むことは、させるつもりだ。だが恒常的に宮から出す事を、正直なところ想定していなかった。だから、貴様らに権限をくれてやる。レフラが暴走しそうな時は、お前等もあれを止めろ」

いつになく饒舌なギガイの言葉を、3人はしっかり聞いていた。そう一言一句逃さないように、聞いていたはずだった。

「……は、い?」

それでも意味が理解できない……というよりは、理解した状況に付いていけずに、間抜けな返事になってしまう。

「思わぬ行動をすることも、レフラは多い」

レフラが黒族の常識に、囚われていないせいかもしれない。3人もそれは十分に分かっている。

「状況によっては、あれの望みを聞くことが、難しいこともあるだろう。だが私が制止して、あぁやって泣かれれば、手に負えん」

必要があればどのような者も、表情1つ変えずに斬り捨ててきたはずの主だった。
そんなギガイからの言葉とは、到底思えないような内容なのだ。あまりの状況に動揺しない事は無理だった。だけど、この主を前に、そんな姿を晒すわけにもいかないのだから、3人は自制心をフル活動させて、平常心を装うしかない。

「レフラはお前等に懐いているからな。様子を見る限り、お前らの話しならば、アレも耳を貸すだろう」

ギガイからの言葉に、胸が熱くなる。レフラから向けられる表情や仕草で、ギガイに次ぐ信頼を得ていることは感じていた。だけどそれを、この主から改めてハッキリと告げられたのだ。

「ある程度は自由にさせろ。だが、度を超えた暴走をさせるな。そして、お前達の命を懸けようと、あれを損なうな」

「はい」

先代が行った殺戮や、ギガイが命を張った状況を見てきているのだ。もう黒族長に対する、御饌の価値を知っている。最後の言葉に緊張が走り、3人は重々しく頷いた。
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