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本編
第119 衆人の中 3
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「どうしましたか?」
とっさに言葉が出なくて、レフラは胸元をギュッと握った。
一生叶うことはない、と思っていた時間だった。
いつの頃からか、望むことさえ忘れていた願いなのだ。
何でもない、とレフラが首を振った。
ギガイが色々な事を許して、与えてくれるから。最近の自分の振るまいが、子供染みているといった自覚はあった。
そんな自分が、少し恥ずかしい。
でも、きっと最初で最後なはずなのだ。
「楽しみです……」
絞り出すようになってしまった声が、少し擦れていた。
(今回だけですから……)
心の中で言い訳をしながら、レフラはリランが購入した、サラク飴を受け取った。
ちょうどそのタイミングで、ギガイもこの店の視察を終えたようだった。
「それは何だ?」
そばに寄ったついでと言わんばかりに、レフラの身体を抱き上げる。
「サラク飴です。 戻ったら、皆で食べましょうね」
3人がレフラの言葉に頷き返す。
遠慮せずに頷くその姿と、レフラの嬉しそうな笑顔に、ギガイも何かを感じたのかもしれない。
「そうだな」
特に何も言わないまま、レフラの持つ袋を覗いて、ギガイがその頭をひと撫でした。
そんなレフラの姿を、遠くから二組の目が眺めていた。
もしもハッキリとした殺意が含まれていたのなら、反応する武官だっていただろう。
でも一組はむしろ好意的とも取れる目で。もう一組も、憎悪や嫌悪に満ちながらも、害意を含んではいなかった。
レフラを冷たく見ていた男が、片方の男に促されて踵を返す。そのまま2人の姿は、祭の人混みの中に消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれってレフラだよな。良かったな、元気そうで」
黒族の武官に囲まれた、同郷の者の姿に、シャガトが嬉しそうにイシュカへ声を掛けた。
「何が良かったんだ! 恥知らずなだけだろう! あんな風に媚びやがって」
イシュカは安宿の、同じように安っぽい食堂の机に、ガンッとグラスを叩きつけた。
「アイツのあぁいった姿のせいで、また跳び族全員が、黒族へ媚びへつらうだけの一族だと思われるんだぞ!」
「媚びへつらう……ってお前……」
「そうだろう! 寵妃だとか言われて良い気になっているが、御饌の約定を他の一族も知ってるんだ! 身体で誑し込んだだけだと、分かっているだろう!」
「何で、お前はそんな風にレフラにあたるんだ……アイツは一族の為に……」
「そう言う所だ! 何が一族の為だ! 結局、アイツ自身がアッサリと孕み族である事を受け入れただけだ! 安易な状況へ逃げて、一族を貶めて、それなのにアイツが一族を守っているだと。反吐が出る!」
「だけど黒族との約定があったんだ、レフラに受け入れる以外の方法などないだろう!」
「父上も、長老達も、お前も、なぜそのまま受け入れる!? 孕み族と言われて腹が立たないのか?」
一族を守るために、どんな鍛練もこなしてきたのだ。どのような敵と遭遇しても、真っ直ぐに敵を見据えて戦ってきた。
そんな矜持を持ったイシュカには、この状況は屈辱でしかないのだ。ギリギリと歯を食いしばりながら絞り出した声は、低く擦れて、怒りに震えていた。
とっさに言葉が出なくて、レフラは胸元をギュッと握った。
一生叶うことはない、と思っていた時間だった。
いつの頃からか、望むことさえ忘れていた願いなのだ。
何でもない、とレフラが首を振った。
ギガイが色々な事を許して、与えてくれるから。最近の自分の振るまいが、子供染みているといった自覚はあった。
そんな自分が、少し恥ずかしい。
でも、きっと最初で最後なはずなのだ。
「楽しみです……」
絞り出すようになってしまった声が、少し擦れていた。
(今回だけですから……)
心の中で言い訳をしながら、レフラはリランが購入した、サラク飴を受け取った。
ちょうどそのタイミングで、ギガイもこの店の視察を終えたようだった。
「それは何だ?」
そばに寄ったついでと言わんばかりに、レフラの身体を抱き上げる。
「サラク飴です。 戻ったら、皆で食べましょうね」
3人がレフラの言葉に頷き返す。
遠慮せずに頷くその姿と、レフラの嬉しそうな笑顔に、ギガイも何かを感じたのかもしれない。
「そうだな」
特に何も言わないまま、レフラの持つ袋を覗いて、ギガイがその頭をひと撫でした。
そんなレフラの姿を、遠くから二組の目が眺めていた。
もしもハッキリとした殺意が含まれていたのなら、反応する武官だっていただろう。
でも一組はむしろ好意的とも取れる目で。もう一組も、憎悪や嫌悪に満ちながらも、害意を含んではいなかった。
レフラを冷たく見ていた男が、片方の男に促されて踵を返す。そのまま2人の姿は、祭の人混みの中に消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれってレフラだよな。良かったな、元気そうで」
黒族の武官に囲まれた、同郷の者の姿に、シャガトが嬉しそうにイシュカへ声を掛けた。
「何が良かったんだ! 恥知らずなだけだろう! あんな風に媚びやがって」
イシュカは安宿の、同じように安っぽい食堂の机に、ガンッとグラスを叩きつけた。
「アイツのあぁいった姿のせいで、また跳び族全員が、黒族へ媚びへつらうだけの一族だと思われるんだぞ!」
「媚びへつらう……ってお前……」
「そうだろう! 寵妃だとか言われて良い気になっているが、御饌の約定を他の一族も知ってるんだ! 身体で誑し込んだだけだと、分かっているだろう!」
「何で、お前はそんな風にレフラにあたるんだ……アイツは一族の為に……」
「そう言う所だ! 何が一族の為だ! 結局、アイツ自身がアッサリと孕み族である事を受け入れただけだ! 安易な状況へ逃げて、一族を貶めて、それなのにアイツが一族を守っているだと。反吐が出る!」
「だけど黒族との約定があったんだ、レフラに受け入れる以外の方法などないだろう!」
「父上も、長老達も、お前も、なぜそのまま受け入れる!? 孕み族と言われて腹が立たないのか?」
一族を守るために、どんな鍛練もこなしてきたのだ。どのような敵と遭遇しても、真っ直ぐに敵を見据えて戦ってきた。
そんな矜持を持ったイシュカには、この状況は屈辱でしかないのだ。ギリギリと歯を食いしばりながら絞り出した声は、低く擦れて、怒りに震えていた。
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