73 / 229
第一部
柔らかな夜 2
しおりを挟む
居たたまれなさに離れようとした身体を引き留められる。ろくに抵抗できないまま、レフラの身体がもう一度ギガイの腕の中に囲い込まれた。
「勝手に離れるな。お前には聞きたい事もあるからな」
「聞きたい事ですか?」
この主が自分に改まって何を聞こうというのだろうか。湧き上がった困惑に羞恥心が上書きされる。素直にギガイの腕の中へと戻りながら、レフラは小さく首をかしげた。
「さっきはどうした?」
「さっき?」
色々な事がありすぎたのだ。レフラにはギガイの言う『さっき』がいつを指しているのか分からない。確認するようにギガイの方へと向き直る。
濡れた髪を後へ撫で付け、いつもよりも血色の増したギガイの目がレフラを真っ直ぐ見据えていた。どことなく漂う男の色香にレフラが思わず唾を飲んだ。
だが、さっきまであった甘さを感じる雰囲気はなく、ギガイの口元からもいつの間にか柔らかな笑みが消えている。ただいつもよりも和らいだ眼光はさっき見た琥珀色を湛えたままだった。どこか包み込むような光りだった。
「日中の様子からは気が付かなかったが、独りが苦手なのか?」
思わぬ質問にレフラの胃の辺りがギュッと縮こまる。何と応えれば良いか分からずにレフラは視線を彷徨わせた。
「そんな事はありません…」
浴室に響く声は自分でも嘘臭く感じるような音だった。ギガイも全く信じていないのだろう。スッと見据える目が細くなる。琥珀の色が失われていく目を見ているのは、正直なところ辛かった。レフラは耐えるように目を伏せた。
「なぜ嘘を吐く?」
(だって知られたくない……)
絶望感を伴うような孤独の理由が、一族の中で仲間とさえ認められず供物でしかない日々からだと。そんな過去を知られたくないのだ。
だって今だけでも、優しさを与えてくれる相手なのだ。そんな相手に、隷属でしかないこの身体がさらに供物でしかなかったのだと、蔑まれてもおかしくない事実を知られてしまう事はとても辛い。
「…嘘を吐いているつもりはございません……」
「ほう。先にも言ったはずだが。素直に告げないならば、次から考慮は要らないという事で良いな」
聞き覚えのある言葉を告げられ、レフラはブルッと身体を強ばらせた。暖かい湯の中に居るはずなのに、身体が芯から冷えていくような気がしてくる。
暗い暗い闇が広がる大きな口を開けた獣がレフラを飲み込もうと待ち構えている。幼い頃に夢に見た、そんな光景が脳裏を過った。
レフラの事は御饌として大切に世話をしてくれる村の中で、寄り添う相手は誰も居なくて。大勢の中で感じる孤独は、孤独の深さをより引き立たせる。特に身体の不調を抱えた時に感じた孤独感は、絶望感にさえ近かった。
「勝手に離れるな。お前には聞きたい事もあるからな」
「聞きたい事ですか?」
この主が自分に改まって何を聞こうというのだろうか。湧き上がった困惑に羞恥心が上書きされる。素直にギガイの腕の中へと戻りながら、レフラは小さく首をかしげた。
「さっきはどうした?」
「さっき?」
色々な事がありすぎたのだ。レフラにはギガイの言う『さっき』がいつを指しているのか分からない。確認するようにギガイの方へと向き直る。
濡れた髪を後へ撫で付け、いつもよりも血色の増したギガイの目がレフラを真っ直ぐ見据えていた。どことなく漂う男の色香にレフラが思わず唾を飲んだ。
だが、さっきまであった甘さを感じる雰囲気はなく、ギガイの口元からもいつの間にか柔らかな笑みが消えている。ただいつもよりも和らいだ眼光はさっき見た琥珀色を湛えたままだった。どこか包み込むような光りだった。
「日中の様子からは気が付かなかったが、独りが苦手なのか?」
思わぬ質問にレフラの胃の辺りがギュッと縮こまる。何と応えれば良いか分からずにレフラは視線を彷徨わせた。
「そんな事はありません…」
浴室に響く声は自分でも嘘臭く感じるような音だった。ギガイも全く信じていないのだろう。スッと見据える目が細くなる。琥珀の色が失われていく目を見ているのは、正直なところ辛かった。レフラは耐えるように目を伏せた。
「なぜ嘘を吐く?」
(だって知られたくない……)
絶望感を伴うような孤独の理由が、一族の中で仲間とさえ認められず供物でしかない日々からだと。そんな過去を知られたくないのだ。
だって今だけでも、優しさを与えてくれる相手なのだ。そんな相手に、隷属でしかないこの身体がさらに供物でしかなかったのだと、蔑まれてもおかしくない事実を知られてしまう事はとても辛い。
「…嘘を吐いているつもりはございません……」
「ほう。先にも言ったはずだが。素直に告げないならば、次から考慮は要らないという事で良いな」
聞き覚えのある言葉を告げられ、レフラはブルッと身体を強ばらせた。暖かい湯の中に居るはずなのに、身体が芯から冷えていくような気がしてくる。
暗い暗い闇が広がる大きな口を開けた獣がレフラを飲み込もうと待ち構えている。幼い頃に夢に見た、そんな光景が脳裏を過った。
レフラの事は御饌として大切に世話をしてくれる村の中で、寄り添う相手は誰も居なくて。大勢の中で感じる孤独は、孤独の深さをより引き立たせる。特に身体の不調を抱えた時に感じた孤独感は、絶望感にさえ近かった。
28
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる