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神山 備

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幽霊よりも怖いモノ

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「国見、俺から言わせりゃ、死んだ人間より生きてる人間の方が何倍も怖いぞ」
作り話を連呼する智則に、追加の酒を注いでやりながら光一はそう言った。
「どんな理由があるのか聞きたくもないが、自分たちの利害だけで簡単に人を殺しちまえる。しかも個人でやりゃ犯罪者だが、国単位になるとそれが急に英雄にすり替わるんだからな」
そう言うと光一はため息を吐いて遠い目になる。智則は(やばっ、こいつまだ隠し玉持ってやがんのか?)と少々引き気味に、
「まぁな、言いたいことは解るけど、今の日本じゃとりあえずそんな目には遭ってねぇじゃん」
と、聞く。そして、
「日本じゃな」
という光一の返事にゴクリと唾を呑み込む。
「日本じゃなって、お前海外転勤した事なんてないだろ」
と、訝りながらいう智則に、光一は、
「サラ・ファン・デノー。ベトナム戦争末期に日本で留学・就職していた伯父を頼り、一家そろって命からがら脱出してきた戦争難民だった」
その女性の名を告げた。
それを聞いて、今度はちゃんと生きた人間だったとあからさまにホッとする智則だったが、
「だがな、優秀なエンジニアだった伯父はその自分たちを苦しめたはずのアメリカに移住することを決め、弟たち家族にも一緒に行かないかと誘った。
最初は渋っていた父親も、『この日本ではたとえ100年居たところで市民権はもらえない』という言葉に移住を決めた。当時17歳だったサラはその親の決定に従うしかなくてな。再会を約束して、俺はサラを送り出した」
との光一の発言に首を傾げる。
「迎えに行かなかったのか? 親世代はともかく、その娘、サラちゃんだっけ? その子ならお前と結婚すりゃ、日本籍になれるじゃんか」
「もちろん迎えに行ったさ。どっちの両親にも反対されたくないから必死でYUUKIの内定とってな。サプライズのつもりでサラに知らせずに直接彼女の家に向かった。
腕いっぱいにサラの好きなカサブランカ抱えて……
けど、そこにはもうサラはいなかった。彼女は俺が行く二年も前に死んでたんだ。あの忌々しい『枯葉剤』の後遺症でな」
「二年も前に死んでて分かんないのかよ」
「それがさ、どうせここまでは来ないだろうと思って、手紙は彼女の妹のメイが代筆してくれてたんだ。彼女も日本で育ってるからな。『ちょうど就活の時期だし、それでコーさんの将来が狂ってしまったらって姉さんに言われて』と言ってた」
愛されていたんだと思ったら、余計悲しかったよと、光一は静かに告げた。
「……お前それで、入社当時合コンとかまるで参加しなかったのか。それでむりやり参加させた時に出会ったのが、美奈ちゃんだったな。その美奈ちゃんも突然行方不明になるし。お前女運なさ過ぎだろ」
智則はそう言いながら、手酌でもう温くなってしまった酒を注いだが、呑まずにずっとそれを見ていた。
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