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神山 備

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志伸

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 美奈子は産まれた子供を母の名志津子に肖って志伸(しのぶ)と名付けた。
 志伸はたちまち故郷を遠く離れて寂しい思いをしている外国人女性たちのアイドルとなり、この大阪の地では寄る辺のない美奈子の子育てを寄って集ってサポートしてくれた。美奈子の方もこの心優しい隣人たちが、割を食わぬように新聞などで手に入れた情報を彼女らに伝える。持ちつ持たれつの関係がしばらく続いた。

 しかし、それは突然終わりを告げた。彼女らの内の2人が勤める店が摘発され、芋蔓式に拘束された彼女らが、本国へ強制送還されることになったからである。彼女らは残された美奈子・志伸親子を案じながら後ろ髪引かれるように自国へ帰って行った。

 時に志伸は4歳。一番手の掛かる時期は既に過ぎていたが、まだまだ一人でおいておける年齢ではない。それに、この生活では余所の子供と接触することがまずないのだ。
 だからと言って志伸を保育所に入れることもできなかった。美奈子が志伸の出生届を未だ提出していなかったからだ。だが、保育所はまだ良い、あと数年で就学する歳になる。このままでいけば志伸は学校にも行けなくなる。
 
 悩みに悩んだ美奈子は、志伸を三重の両親の許に預けることを決めた。
 そして、美奈子は大した説明もせずに、志伸を両親に押しつけて大阪の潜伏先に舞い戻った。(すべてはこの愛しい我が子のため)途中、何度も踵を返そうと思う気持ちを抑えてやっとたどり着いた時、美奈子はがっくりと膝を折って、そのまま畳に倒れ込んだ。
 
 我が子を失った得も言われぬ開放感と寂寥感に、美奈子は薄暗いその部屋で志伸の玩具を抱きしめて3日3晩泣き明かしたのだった。


-*-*-*-*-**-*-


「お母さん、私のホントの名前って志乃ちゃうん?」
美奈子が名付けた本当の名が志伸だと聞いたとき、志乃は涙でその顔をグシャグシャにしながら首を傾げて喜美子にそう尋ねた。
「そうなんさ。私もな、お姉ちゃんの日記見てビックリしたん。
なんでも、あの一緒に暮らしてた外国の人等には、志伸は発音しにくかったらしいわ。お姉ちゃんのことをミーナ、志乃のことはシーノって呼んでたみたいで。
それにな、あんたに名前聞いた時、あんたははっきりしのやって言うたし。
そんであん時、あんたの戸籍もないことが分かってな、みんなで相談して、ばあちゃんの志の字を入れて志乃にして届けたんさ。
けど、お姉ちゃんのことはその後でな。改称も考えたんやけど、あんた自身が志乃やと思てるみたいやし、止めたんさ」
なんか、その方がうちらの子供として新たに生まれたみたいな気がしてなと、喜美子は志乃の問いに答えた後、ぽつりとそう付け加えた。
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