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神山 備

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弔問

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 夏海は悠たち数人の女友達と一緒に、龍太郎の弔問に訪れた。
彼の妻志穂は、泣き崩れて、梁原に支えられていた。
 それを見た夏海は、龍太郎が偽装結婚だと言ったことは本当だったのだろうかと、疑問に思った。縦しんば出会いがそうだったとしても、一緒にいることでいつか情は通い合う。男と女なのだ、尚更そうしたものだろうと、夏海には痛いほどよく解かっていた。
 祭壇には大きく引き伸ばされた龍太郎が穏やかな笑みを浮かべて夏海を見つめる。もちろん、彼女だけを見つめている訳ではない。しかし、その瞳を見つめ返すと、
『海、最初から君だけを愛しているよ』という夢の中の彼の台詞が漣のように押し寄せてきて、涙が自然と溢れてくる。
 しかし……ここで泣いてはいけないと夏海は思った。ここで泣いて良いのは志穂であって自分ではない。
 それにあの台詞は夢の中の事、現実ではない。未来が二人が出会った歳まで成長し、あの頃に戻りたいと切に思っていたことが夢になって現れただけのことなのだから。たまたまその時に訃報が重なっただけで、偶然なのだと。
 短い弔問を終え、会場を少し離れた場所で徐に悠が夏海の肩を叩いた。
「夏海、偉かったね。もう、私たちしかいないから。泣いても、良いよ」
「そうだね、良く頑張ったよ、あんた……」
みると容子の眼にもうっすらと涙が滲んでいる。
「そんなんじゃないわよ……私はもう、龍太郎のこと……なんて……何とも思って……ただあんまり突然だったから……うんと歳をとったらまた会ってお茶を……」
夏海は容子に抱きついて、声を上げて泣いた。
 そう、龍太郎はいつも嘘つきだ。子供の事も言ってくれればどんなことだってしたのに。もうどうにもならなくなってから聞かされたくはなかった。それに歳をとったら私たち、茶飲み友達になるんじゃなかったの?
 そしたら私、龍太郎の好きだったあのあんまり甘くないチョコレートケーキを焼いて、龍太郎の好きな紅茶でお茶をするのを楽しみにしていたのよ……
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