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医師の来訪
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秀一郎から医者が来ると聞かされたのは今朝のことだ。
「来てほしくないな」
未来はベッドの中でそう独りごちた。新婚旅行(などと浮かれた言い方は決してしたくはないような旅だったが)以来、未来はこの部屋を出るのはトイレだけという生活をしている。本音を言えばそのトイレにだって行きたくはない。夫は義妹を絶対に母屋には来させないと言ってくれてはいるが、ここは元々彼女の家。例えば、こちらに置き忘れた物があるなど、どんな理由でここに足を向けるか分からない。そう思うと、自室のドアを開けることにさえ心拍数が上がってしまう。ただただ怖い、理屈ではなく。
ただ、自分でもこのままではいけないことは解っている。今は新婚だからと来ない両親や祖父も、未来の方から訪ねて行けないこの状態が続けば、不審に思って向こうから足を向けてくるだろう。そのときに居間にすら行けない未来を彼らはどう思うだろうか。体調不良とうまく取り繕えればいいが、もし事情を知られでもしたら……祖父は速攻未来を連れ帰り離婚ということになるに違いない。だが、それは嫌だ。
別に未来は秀一郎と離婚するのが嫌なのではない。確かに、戸籍上は結城秀一郎の妻だが、自分の許に心のない男に執着するほど、未来は夫を愛してはいないし、ほのかと二度と会わずに済むとなれば、この症状はすぐに好転するだろう。
ただ、そのためにはまず、未来の受けた仕打ちを語らなければならない。祖父は自分が推した手前すぐには信じないかもしれないが、父は間違いなく自分の言うことのを信じて激怒し、裁判沙汰にするだろう。渋る未来に、
『これは立派な犯罪だぞ。泣き寝入りすることなんかない』
と息巻いて裁判所に駆け込むだろう。
だが、そうなれば、未来はこのことの顛末を裁判官という見ず知らずの人々に何度も語らなければならなくなる。そして、それはその度にあのとき受けた傷をまた深く抉られることでもあるのだ。あのことは一刻も早く悪夢として忘れてしまいたいのにだ。
結局未来は、受診することを受け入れた。
やってきた医師広波克也は、開口一番、
「あ、言いたくないことは言わなくて良いですよ。
言いたくなってから言えば良い。もちろん、一生言わなくてもいいんです」
と未来に言った。てっきり細かな事情説明を求められると思っていた未来は半ば拍子抜けしながら克也をベッドから見上げた。
克也は持参したラバーシートをベッドに敷き、
「内診するだけですよ。すぐ終わります」
と、戸惑う未来の下着を取り去って診察を始めた。手術用の手袋をはめ、丁寧にライトで照らしながら診る克也に、未来は逃げ出したくなる衝動にかられたが、これは医療行為なのだと、かろうじてそれに耐えることができた。
だが、診察を終えた克也は、
「良かった、妊娠はしてないようです。
ただ、大事な部分に少々傷が付いていますね
排尿の時にしみませんでしたか?」
と言い、そのまま足を開いている未来の中心に何やらゲル状のものを塗り始めた。
「来てほしくないな」
未来はベッドの中でそう独りごちた。新婚旅行(などと浮かれた言い方は決してしたくはないような旅だったが)以来、未来はこの部屋を出るのはトイレだけという生活をしている。本音を言えばそのトイレにだって行きたくはない。夫は義妹を絶対に母屋には来させないと言ってくれてはいるが、ここは元々彼女の家。例えば、こちらに置き忘れた物があるなど、どんな理由でここに足を向けるか分からない。そう思うと、自室のドアを開けることにさえ心拍数が上がってしまう。ただただ怖い、理屈ではなく。
ただ、自分でもこのままではいけないことは解っている。今は新婚だからと来ない両親や祖父も、未来の方から訪ねて行けないこの状態が続けば、不審に思って向こうから足を向けてくるだろう。そのときに居間にすら行けない未来を彼らはどう思うだろうか。体調不良とうまく取り繕えればいいが、もし事情を知られでもしたら……祖父は速攻未来を連れ帰り離婚ということになるに違いない。だが、それは嫌だ。
別に未来は秀一郎と離婚するのが嫌なのではない。確かに、戸籍上は結城秀一郎の妻だが、自分の許に心のない男に執着するほど、未来は夫を愛してはいないし、ほのかと二度と会わずに済むとなれば、この症状はすぐに好転するだろう。
ただ、そのためにはまず、未来の受けた仕打ちを語らなければならない。祖父は自分が推した手前すぐには信じないかもしれないが、父は間違いなく自分の言うことのを信じて激怒し、裁判沙汰にするだろう。渋る未来に、
『これは立派な犯罪だぞ。泣き寝入りすることなんかない』
と息巻いて裁判所に駆け込むだろう。
だが、そうなれば、未来はこのことの顛末を裁判官という見ず知らずの人々に何度も語らなければならなくなる。そして、それはその度にあのとき受けた傷をまた深く抉られることでもあるのだ。あのことは一刻も早く悪夢として忘れてしまいたいのにだ。
結局未来は、受診することを受け入れた。
やってきた医師広波克也は、開口一番、
「あ、言いたくないことは言わなくて良いですよ。
言いたくなってから言えば良い。もちろん、一生言わなくてもいいんです」
と未来に言った。てっきり細かな事情説明を求められると思っていた未来は半ば拍子抜けしながら克也をベッドから見上げた。
克也は持参したラバーシートをベッドに敷き、
「内診するだけですよ。すぐ終わります」
と、戸惑う未来の下着を取り去って診察を始めた。手術用の手袋をはめ、丁寧にライトで照らしながら診る克也に、未来は逃げ出したくなる衝動にかられたが、これは医療行為なのだと、かろうじてそれに耐えることができた。
だが、診察を終えた克也は、
「良かった、妊娠はしてないようです。
ただ、大事な部分に少々傷が付いていますね
排尿の時にしみませんでしたか?」
と言い、そのまま足を開いている未来の中心に何やらゲル状のものを塗り始めた。
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