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子ども
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それから、時は穏やかに過ぎていった。千波はこの春から幼稚園に通い始め、秀一郎の顔を見ると、矢継ぎ早に幼稚園の友達のこと、習った歌や手遊びなどを次々披露してくれ、
「おとうしゃま、だいしゅき!」
と抱きついてくる。龍也もまた、手を伸ばして秀一郎にだっこをせがむ。子どもたちはその全力で自分を愛してくれている、そう思うと、こちらも精一杯の愛情を注いでやりたいと思う。(血のつながりなどなくても、僕たちはちゃんと親子だ)正確に言えば未来は秀一郎にとって再従兄妹なのだから、わずかにはつながってはいるのだが、それは親子の比ではない薄い薄いものだ。
ほのかもようやく諦めたようで、最近ではピルを飲んでいるようだ。ひとりっこにするのは秀一郎の本意ではないが、
「のりさんの子どもはもう要らない」
と、突っぱねられると、偽装で結婚することを持ちかけた手前止めることもできない。まぁ、自分との子どもが生まれなければそれでいいのだと、秀一郎は自分で自分を納得させた。
だが、ほのかがピルを服用していることを知った4ヶ月後、頬を高揚させて結城家にやってきたほのかによって、秀一郎は自分がいかに甘かったのかを思い知らされる。離れに呼び出された秀一郎にほのかは、
「秀、子どもができたの!」
と満面の笑顔でそう言った。その表情に一瞬不安を感じた秀一郎だったが、一応、
「ああ、おめでとう」
と言っておく。だが、ほのかの続く、
「ありがとう、嬉しいわ。やっと秀の子供が産めるのよ」
の言葉に秀一郎は不安が現実になったことを知った。
「僕の……子ども?」
それにしてもなぜ自分の子だと正確に分かるのだときいた秀一郎に、
「のりさんは2週間前から出張してるし、子どもの歳があんまりくっつくのは大変だからって、この出張までは避妊具つけてもらってたから」
とほのかは答えた。
「ほの……」
驚きで二の句が告げられなくなった秀一郎に、
「明日には帰ってくるはずだから、そこで解禁にすれば、大丈夫。出産予定日はあくまでも予定だし、二人目だから気づかなかったって遅めにクリニックに行けば、二週間くらいごまかせるわ。前に検査薬を使ったときは陰性だったから、正味10日あるかだと思うしね」
とほのかはどや顔でそう言い放った。
昨今週単位で言うようになった妊娠経過であるが、親世代の頃はまだまだ28日周期の月単位で言うのが一般的だったから、確かに10日前後、二週間あってもごまかせるかもしれない。だが……
「ほの、じゃぁピルは妊娠確率を上げるためのものだったの?」
ほのかのハンドバッグには確かにピル(服用した形跡あり)が入っていた。あれは、もしかして自分への妊娠確率を上げるための物だったのか……意図を勘ぐって睨む秀一郎に、ほのかは首をすくめながら、
「確かに最初は秀だけの子どもをほしくてもらったんだけど……」
と言って軽くため息をつき、
「そのときした検査で体質に合わないから飲まないでくれって後から電話がかかってきたの。血栓ができやすくなるらしいわ」
お父様に似ているのは嬉しいんだけどねと苦笑いした。
「ならなんで飲んでるなんて嘘をついた!」
それを聞いてそう怒鳴る秀一郎に、
「だって、そうでも言わないと秀は避妊するじゃない」
と返すほのか。
「当たり前だ!」
「何が当たり前なのよ!
大体、私は秀の子どもを産むためにのりさんと結婚したのよ。隠れ蓑にしろって言ったのは秀の方じゃない」
約束が違うと憤慨するほのかに、
「……堕ろせ」
秀一郎は普段より数段低い声でそう言った。
「……!?」
「まだ鳴澤の人間は誰も知らないんだろ? なら、間に合う」
その言葉にほのかは驚いて秀一郎を見る。秀一郎は機械のような全くの無表情だった。いや、昨今ならまだ機械の方がもう少し表情があるかもしれない。
「い、イヤよ」
ほのかはその表情に戦慄を覚えながらも激しく頭を振る。
「私は秀の子供を産みたいからのりさんと結婚したのよ」
「なんでそんなに僕の子どもに拘る」
「愛する人の子どもだからよ」
それ以上何の理由がいると言ったほのかに、
「僕たちは兄妹なんだよ」
と今更な言葉を返す秀一郎。
「ねぇ、ならどうしてあの時あんなこと言ったの」
そうだ、あんな風に持ちかけられなければ、絶対に憲幸と結婚なんかしなかったと、詰め寄るほのかに、
「もちろん、そう言わないとほのが結婚すると言わないからに決まってるじゃない」
秀一郎は当然だと言わんばかりにそう返した。
「ひどい……最初っからそのつもりだったのね」
と金切り声を上げたほのかに、
「そうさ、こんな穢れた血は僕たちだけでたくさんだからね」
秀一郎は相変わらず無表情でそれに答える。それを聞いてふっとため息を吐いたほのかは、
「良いわ、この子は諦めてあげる」
と言った後、くっと口角を上げると、
「その代わり、秀の可愛い跡取りも道連れにするわ!」
ほのかはそう言って、離れの簡易キッチンから包丁を取り出し、母屋に向かって走り出した。
「おとうしゃま、だいしゅき!」
と抱きついてくる。龍也もまた、手を伸ばして秀一郎にだっこをせがむ。子どもたちはその全力で自分を愛してくれている、そう思うと、こちらも精一杯の愛情を注いでやりたいと思う。(血のつながりなどなくても、僕たちはちゃんと親子だ)正確に言えば未来は秀一郎にとって再従兄妹なのだから、わずかにはつながってはいるのだが、それは親子の比ではない薄い薄いものだ。
ほのかもようやく諦めたようで、最近ではピルを飲んでいるようだ。ひとりっこにするのは秀一郎の本意ではないが、
「のりさんの子どもはもう要らない」
と、突っぱねられると、偽装で結婚することを持ちかけた手前止めることもできない。まぁ、自分との子どもが生まれなければそれでいいのだと、秀一郎は自分で自分を納得させた。
だが、ほのかがピルを服用していることを知った4ヶ月後、頬を高揚させて結城家にやってきたほのかによって、秀一郎は自分がいかに甘かったのかを思い知らされる。離れに呼び出された秀一郎にほのかは、
「秀、子どもができたの!」
と満面の笑顔でそう言った。その表情に一瞬不安を感じた秀一郎だったが、一応、
「ああ、おめでとう」
と言っておく。だが、ほのかの続く、
「ありがとう、嬉しいわ。やっと秀の子供が産めるのよ」
の言葉に秀一郎は不安が現実になったことを知った。
「僕の……子ども?」
それにしてもなぜ自分の子だと正確に分かるのだときいた秀一郎に、
「のりさんは2週間前から出張してるし、子どもの歳があんまりくっつくのは大変だからって、この出張までは避妊具つけてもらってたから」
とほのかは答えた。
「ほの……」
驚きで二の句が告げられなくなった秀一郎に、
「明日には帰ってくるはずだから、そこで解禁にすれば、大丈夫。出産予定日はあくまでも予定だし、二人目だから気づかなかったって遅めにクリニックに行けば、二週間くらいごまかせるわ。前に検査薬を使ったときは陰性だったから、正味10日あるかだと思うしね」
とほのかはどや顔でそう言い放った。
昨今週単位で言うようになった妊娠経過であるが、親世代の頃はまだまだ28日周期の月単位で言うのが一般的だったから、確かに10日前後、二週間あってもごまかせるかもしれない。だが……
「ほの、じゃぁピルは妊娠確率を上げるためのものだったの?」
ほのかのハンドバッグには確かにピル(服用した形跡あり)が入っていた。あれは、もしかして自分への妊娠確率を上げるための物だったのか……意図を勘ぐって睨む秀一郎に、ほのかは首をすくめながら、
「確かに最初は秀だけの子どもをほしくてもらったんだけど……」
と言って軽くため息をつき、
「そのときした検査で体質に合わないから飲まないでくれって後から電話がかかってきたの。血栓ができやすくなるらしいわ」
お父様に似ているのは嬉しいんだけどねと苦笑いした。
「ならなんで飲んでるなんて嘘をついた!」
それを聞いてそう怒鳴る秀一郎に、
「だって、そうでも言わないと秀は避妊するじゃない」
と返すほのか。
「当たり前だ!」
「何が当たり前なのよ!
大体、私は秀の子どもを産むためにのりさんと結婚したのよ。隠れ蓑にしろって言ったのは秀の方じゃない」
約束が違うと憤慨するほのかに、
「……堕ろせ」
秀一郎は普段より数段低い声でそう言った。
「……!?」
「まだ鳴澤の人間は誰も知らないんだろ? なら、間に合う」
その言葉にほのかは驚いて秀一郎を見る。秀一郎は機械のような全くの無表情だった。いや、昨今ならまだ機械の方がもう少し表情があるかもしれない。
「い、イヤよ」
ほのかはその表情に戦慄を覚えながらも激しく頭を振る。
「私は秀の子供を産みたいからのりさんと結婚したのよ」
「なんでそんなに僕の子どもに拘る」
「愛する人の子どもだからよ」
それ以上何の理由がいると言ったほのかに、
「僕たちは兄妹なんだよ」
と今更な言葉を返す秀一郎。
「ねぇ、ならどうしてあの時あんなこと言ったの」
そうだ、あんな風に持ちかけられなければ、絶対に憲幸と結婚なんかしなかったと、詰め寄るほのかに、
「もちろん、そう言わないとほのが結婚すると言わないからに決まってるじゃない」
秀一郎は当然だと言わんばかりにそう返した。
「ひどい……最初っからそのつもりだったのね」
と金切り声を上げたほのかに、
「そうさ、こんな穢れた血は僕たちだけでたくさんだからね」
秀一郎は相変わらず無表情でそれに答える。それを聞いてふっとため息を吐いたほのかは、
「良いわ、この子は諦めてあげる」
と言った後、くっと口角を上げると、
「その代わり、秀の可愛い跡取りも道連れにするわ!」
ほのかはそう言って、離れの簡易キッチンから包丁を取り出し、母屋に向かって走り出した。
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