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謝罪と感謝
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「ところで、君たちに謝らなければならないことがあるんだ」
と言って頭を下げる健史に秀一郎は首をかしげる。
「なんですか」
「子宮外妊娠の症状があったかどうかを夏海に尋ねたとき、勘の良い彼女に悟られてしまってね。まぁ、そのときには医者の誤診が最大の原因だと声高に言ってその場を収めたんだが……」
当時、健史は実は従兄弟だった未来の伯父、上河原隼人の私設秘書をしていたのだが、龍太郎の一周忌を迎えようという頃、三十半ばを過ぎても未だ独身だった健史に、離婚して同じ政治の世界にいる相手方に息子を取られた諏訪家の長女、薫子の再婚相手にという話が持ち上がったのである。
こちらとしては義理仲でも妹とわかっているので受けたくはないが、正直にそれを伝える訳にもいかない。どうしたものかと夏海に相談したところ、彼女は、
「なら、私と結婚してほしい」
と言ったという。しかし、それは龍太郎の死後いつの間にか想いを寄せるようになったのではなく、健史の話を聞いて、あの時我慢せず何故医療機関を受診しなかったのかとずっと悔いていて、優しい夫の家族に後ろめたさを感じ続けていたからだと知ったとき、健史は何故不用意にも確認してしまったのかと、自分で自分が許せなかった。
しかし、一度抱いてしまった思いを消すことはできない。健史は夏海を娶った。
「私としては長年の想いが成就した訳だし、夏海の籍に入ることで日本人への帰化も果たした。また、日本国籍を得たことで、その後夭折した隼人の跡を引き継ぐこともできた。だが、思春期の多感な君たちから母親を取り上げたことだけが心残りで、常々申し訳ない思いをだいていたんだ。
すまない、改めてお詫びする」
と言って、健史は秀一郎に深々と頭を下げた。
「いいえ……母様はきっとあのままこの家にいたら、今でもずっと父様のことを思って心の時間を止めてしまっていたと思います」
それに対して、秀一郎は静かにそう返した。
母の本当は実の弟-康史に向ける笑顔は、幼い頃自分たちに向けてくれたそれと同じだ。それを見た自分とほのかが思わず苛立ちを感じてしまうほどに。
あの苛立ちは、今から考えれば、自分たちでは母を再び笑顔にできなかったという嫉みに似た感情だったのだと思う。だからその寂しさを実の父母を悪者にすることで心の平静を保ってきた。
また、父が存命でこの男が自分たちの前に姿を現さずにいたとしても、自分たちはたぶん兄妹の一線を越えていた気がする。なぜこんなにも妹(兄)を欲するのか解らぬまま、それでも不毛な関係を続けていただろう。復讐という目的もないから、未来と結婚することもなかったに違いない。そこには、今より怖ろしい未来図しか想像できない。
「諏訪さん……いえ、父さん。母様を救ってくれて、本当にありがとうございました」
秀一郎は、動けない身体を可能のな限り折り曲げて健史に感謝の言葉を述べた。
と言って頭を下げる健史に秀一郎は首をかしげる。
「なんですか」
「子宮外妊娠の症状があったかどうかを夏海に尋ねたとき、勘の良い彼女に悟られてしまってね。まぁ、そのときには医者の誤診が最大の原因だと声高に言ってその場を収めたんだが……」
当時、健史は実は従兄弟だった未来の伯父、上河原隼人の私設秘書をしていたのだが、龍太郎の一周忌を迎えようという頃、三十半ばを過ぎても未だ独身だった健史に、離婚して同じ政治の世界にいる相手方に息子を取られた諏訪家の長女、薫子の再婚相手にという話が持ち上がったのである。
こちらとしては義理仲でも妹とわかっているので受けたくはないが、正直にそれを伝える訳にもいかない。どうしたものかと夏海に相談したところ、彼女は、
「なら、私と結婚してほしい」
と言ったという。しかし、それは龍太郎の死後いつの間にか想いを寄せるようになったのではなく、健史の話を聞いて、あの時我慢せず何故医療機関を受診しなかったのかとずっと悔いていて、優しい夫の家族に後ろめたさを感じ続けていたからだと知ったとき、健史は何故不用意にも確認してしまったのかと、自分で自分が許せなかった。
しかし、一度抱いてしまった思いを消すことはできない。健史は夏海を娶った。
「私としては長年の想いが成就した訳だし、夏海の籍に入ることで日本人への帰化も果たした。また、日本国籍を得たことで、その後夭折した隼人の跡を引き継ぐこともできた。だが、思春期の多感な君たちから母親を取り上げたことだけが心残りで、常々申し訳ない思いをだいていたんだ。
すまない、改めてお詫びする」
と言って、健史は秀一郎に深々と頭を下げた。
「いいえ……母様はきっとあのままこの家にいたら、今でもずっと父様のことを思って心の時間を止めてしまっていたと思います」
それに対して、秀一郎は静かにそう返した。
母の本当は実の弟-康史に向ける笑顔は、幼い頃自分たちに向けてくれたそれと同じだ。それを見た自分とほのかが思わず苛立ちを感じてしまうほどに。
あの苛立ちは、今から考えれば、自分たちでは母を再び笑顔にできなかったという嫉みに似た感情だったのだと思う。だからその寂しさを実の父母を悪者にすることで心の平静を保ってきた。
また、父が存命でこの男が自分たちの前に姿を現さずにいたとしても、自分たちはたぶん兄妹の一線を越えていた気がする。なぜこんなにも妹(兄)を欲するのか解らぬまま、それでも不毛な関係を続けていただろう。復讐という目的もないから、未来と結婚することもなかったに違いない。そこには、今より怖ろしい未来図しか想像できない。
「諏訪さん……いえ、父さん。母様を救ってくれて、本当にありがとうございました」
秀一郎は、動けない身体を可能のな限り折り曲げて健史に感謝の言葉を述べた。
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