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マイケルさんの仕事
「っと、こんなとこでムダ話してる間にちゃっちゃと書いてもらわなきゃな。えーっと……ところであなた、何てお名前でしたっけ」
ちょっと脱線しかかっていた話を元に戻すように、軽くため息をはいて、幸太郎さんがこう言った。
「月島……月島更紗です」
やだ、幸太郎さんにだけ挨拶させといて、自己紹介がまだだったわ。
「じゃぁ、月島さん。まだお時間大丈夫ですか? 大丈夫だったら、俺の方の車に乗って欲しいんですが、親父の人質として」
人質って、何? その物騒な言い方。さっきから幸太郎さんが『書け、書け』と言うところをみると、マイケルさんは作家さんか何かなのかな。
「私は……帰ります。家族が心配するんで」
それに、今日あったばかりの私になんて、人質効果なんてありませんよ。
「ねえ、更紗ちゃん、逃げてるって言ったよね。家に帰って大丈夫なの?」
そしたら、マイケルさんが、そう言って私を心配してくれた。
「ええ、マ……母とケンカしただけですから」
そう言いながらママの顔を思い浮かべる。うう、怒ってんだろうなママ。帰りたくないと言えば帰りたくないよぉ。でも、ママが騙してお見合いなんかするのが悪いんだからね。
「えっ、お母様とケンカしたけだったの? じゃぁ、急に更紗ちゃんが消えて、お母様心配してるかな。ホントいきなり連れ出しちゃってごめん、元のホテルまで送るよ」
でも、私がママとケンカしただけだと聞くと、マイケルさんは蒼くなって、土下座しそうな勢いで謝る。マイケルさんが悪いんじゃないよ。逃げたいって言ったのは私だもの。
「そうだよ、バカ親父。下手すりゃ誘拐だぞ。心配するな、月島さんは俺が送っていく。だから、親父はさっさと続きを書く!」
「ヤダ! 更紗ちゃんは僕が送って行く。更紗ちゃんのお母様に僕がちゃんと謝らなきゃ」
「何だだこねてんだよ、会社俺に投げてまでやりたかった仕事だろっ!」
私を送ると譲らないマイケルさんに、幸太郎さんはぴしっとそう言った。それにしても会社を投げてって……マイケルさんやっぱり社長さんだったんだ。それも結構大きい会社じゃないだろうか。だったらあの店長の態度も解る。
「ちょっと待ってよ。原稿ならちゃんとできてるよ。さっき、ここで書き終えたから。
更紗ちゃん、幸太郎君にそのバンタム渡して」
私はそう言われてあわててバンタムを幸太郎さんに渡した。私は行きと同じように既に待合い用の椅子に座っていたんだけど、バンタムは握ったままだった。幸太郎さんはそれを受け取るとホッとした表情になって、
「それを先に言えって。で、どうすりゃいい?」
とマイケルさんに聞いた。
「マイクロSDだとどっか行っちゃいやすいし、何が入ってるか書きにくいんで、普段はUSBメモリーに焼きなおして渡してるんだけど……」
とUSBメモリーをポケットから取り出す。
「さっき書いたからまだ、最終話は入れてないんだ」
「最終話を一旦ドキュメントにぶっ込んで、ここに落としゃいいんだろ?」
「うん、でもパソコン持って歩いてないよ」
「俺の車に乗ってるよ。OKわかった。んじゃ、親父は親御さんに捜索願いを出されない内に早く行ってこい」
すべての段取りを聞き終えると、幸太郎さんはそう言って、親指を前に立てて笑った。
「うん、ありがとう。じゃぁ、お願いね」
「じゃぁ月島さん。俺はこれで。親父を頼みます」
幸太郎さんはそう言うと、感涙もので抱きつかんばかりのマイケルさんをあっさり振り払って、とっととカラオケボックスを出て行った。
でも、幸太郎さんが最後に言った『頼みます』ってなんだろう。幸太郎さんみたいな立派な息子さんもいて、(たぶん)すてきな奥さんもいるのに、何を私に『頼む』必要があるの?
ちょっと脱線しかかっていた話を元に戻すように、軽くため息をはいて、幸太郎さんがこう言った。
「月島……月島更紗です」
やだ、幸太郎さんにだけ挨拶させといて、自己紹介がまだだったわ。
「じゃぁ、月島さん。まだお時間大丈夫ですか? 大丈夫だったら、俺の方の車に乗って欲しいんですが、親父の人質として」
人質って、何? その物騒な言い方。さっきから幸太郎さんが『書け、書け』と言うところをみると、マイケルさんは作家さんか何かなのかな。
「私は……帰ります。家族が心配するんで」
それに、今日あったばかりの私になんて、人質効果なんてありませんよ。
「ねえ、更紗ちゃん、逃げてるって言ったよね。家に帰って大丈夫なの?」
そしたら、マイケルさんが、そう言って私を心配してくれた。
「ええ、マ……母とケンカしただけですから」
そう言いながらママの顔を思い浮かべる。うう、怒ってんだろうなママ。帰りたくないと言えば帰りたくないよぉ。でも、ママが騙してお見合いなんかするのが悪いんだからね。
「えっ、お母様とケンカしたけだったの? じゃぁ、急に更紗ちゃんが消えて、お母様心配してるかな。ホントいきなり連れ出しちゃってごめん、元のホテルまで送るよ」
でも、私がママとケンカしただけだと聞くと、マイケルさんは蒼くなって、土下座しそうな勢いで謝る。マイケルさんが悪いんじゃないよ。逃げたいって言ったのは私だもの。
「そうだよ、バカ親父。下手すりゃ誘拐だぞ。心配するな、月島さんは俺が送っていく。だから、親父はさっさと続きを書く!」
「ヤダ! 更紗ちゃんは僕が送って行く。更紗ちゃんのお母様に僕がちゃんと謝らなきゃ」
「何だだこねてんだよ、会社俺に投げてまでやりたかった仕事だろっ!」
私を送ると譲らないマイケルさんに、幸太郎さんはぴしっとそう言った。それにしても会社を投げてって……マイケルさんやっぱり社長さんだったんだ。それも結構大きい会社じゃないだろうか。だったらあの店長の態度も解る。
「ちょっと待ってよ。原稿ならちゃんとできてるよ。さっき、ここで書き終えたから。
更紗ちゃん、幸太郎君にそのバンタム渡して」
私はそう言われてあわててバンタムを幸太郎さんに渡した。私は行きと同じように既に待合い用の椅子に座っていたんだけど、バンタムは握ったままだった。幸太郎さんはそれを受け取るとホッとした表情になって、
「それを先に言えって。で、どうすりゃいい?」
とマイケルさんに聞いた。
「マイクロSDだとどっか行っちゃいやすいし、何が入ってるか書きにくいんで、普段はUSBメモリーに焼きなおして渡してるんだけど……」
とUSBメモリーをポケットから取り出す。
「さっき書いたからまだ、最終話は入れてないんだ」
「最終話を一旦ドキュメントにぶっ込んで、ここに落としゃいいんだろ?」
「うん、でもパソコン持って歩いてないよ」
「俺の車に乗ってるよ。OKわかった。んじゃ、親父は親御さんに捜索願いを出されない内に早く行ってこい」
すべての段取りを聞き終えると、幸太郎さんはそう言って、親指を前に立てて笑った。
「うん、ありがとう。じゃぁ、お願いね」
「じゃぁ月島さん。俺はこれで。親父を頼みます」
幸太郎さんはそう言うと、感涙もので抱きつかんばかりのマイケルさんをあっさり振り払って、とっととカラオケボックスを出て行った。
でも、幸太郎さんが最後に言った『頼みます』ってなんだろう。幸太郎さんみたいな立派な息子さんもいて、(たぶん)すてきな奥さんもいるのに、何を私に『頼む』必要があるの?
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